前回、性能検証するところで終わりましたが、それから私たちの戦いはどうなったのでしょうか?また、企業活動というものがここまで過酷な戦争のように奪い合うほどの価値がこの2兆円マーケット存在するのでしょうか?そんな疑問も丁度生まれはじめた時期でした。

性能検証の結果はオールグリーン

その年の8月、品川のオープンなマシンルームを借りて最新型のオープン系サーバの性能検証を開始、単体性能を測定していました。約1ヶ月程度の検証期間を必要としていました。
仕様招請に応じるにしても既存システムを知らなくては提案もできませんし、業務も理解していませんので、アリングがとても重要になってきます。

この案件は通常とは全く異なるプレ活動が必要でした。通常は時間を使って現金コストを掛けずに行うのですが、今回は時間もないため金で時間を買う、まさにタイムイズマネーの精神で行うことになりました。

ある時、当時のSEリーダーが決断します。

既存システムの設計書を全部コピーすると決めたのです。断られるかと思ったのですが、顧客からしたら既存ベンダーからの脱却を望んでいたのでウェルカムとのことでした。
そうすると、すぐにコピー機を5台ほど借りて、10数名で顧客先に夕方から乗り込み、夜の10時までに全てをコピーし終えて私たちはその場をさりました。まるで、NHKドラマ【ハゲタカ】のワンシーンのようです。

そうやって、地道に情報収集を続けるなか、サーバの性能検証も終わり、自信を持って提案できる状況を作り上げたのです。まさに組織力の底力を見せつけたかのようでした。

 

仕様書の読み込み、時間との戦い

情報が全て揃い、提案書提出まで期日が迫ります。夜を徹してアーキテクチャーの整理と要件に対する回答を作り、仕様書の行間の読み間違いによる加点漏れを防ぐことに最新の注意をはらいます。

とにかく、物流業務をだれも知らないので、この間に店舗見学なども何度も行きました。

店舗は大きく、区分センター、一般店舗、特別店舗に分かれ配達は一般店舗で行います。引受業務と配達業務、拠点間物流機能に分かれます。

つまり、小口物流と大口物流の機能が複雑に混在した仕組みが必要で、これがスクラッチで構築した際のコストが跳ね上がる要因でした。複雑な仕組みを作らず標準化していくのかと言うのがこのプロジェクトの課題でした。
また、これまで国内物流と国際物流の業務が異なってシステム化されており、国際物流業務をこの新郵便システムに統合することが仕様書に記載されていました。
この国際物流業務をおこなっていたのが子会社だったため、彼らからすると親会社に売上を取られる形になることから非常に情報開示に後ろ向きでした。この関係性が入札時まで続くことになります。

 

価格調整と、顧客とのリレーション

入札も終盤になり、国内物流業務はほぼ問題なく仕様を回答することが出来ましたし、国際物流業務もほぼ解読できるようになりました。私たち営業も顧客に日参し、リレーションを深く作り上げていき、信頼を積み重ねます。
顧客からもぜひとってほしいと思っていただけるところまで積み上がりました。

ですが、もちろん入札ですので、個人的思いと結果は違います。
最後まで気を抜かず、ハード面の値段の調整を社内で必死に行います。コンプライアンス遵守が基本的なため、経営戦略本部からの指示なしに勝手な金額提示は出来ません。すべて根拠ある数字が必要でした。
ですから、この大型案件を受注するにあたって経営戦略本部と毎日深夜になるまでロジックを詰めに詰めました。

 

いざ入札も、身内の裏切りであえなく失注する

いよいよ、入札の期日まで残り1日となりました。

デザイン研究所にお願いしていた提案書用のワードテンプレートを利用し、提案書を整形していきます。最終的に、10cmファイルが6冊の大作が出来上がりました。
これを三部用意し、ダンボールに詰めてタクシーで霞が関まで運搬します。この時に台車も忘れずに載せました。

ようやくタクシーの中で、一息つく事ができました。納入はAM11時で余裕を持って出たはずですが、非常に気が立っているのか、タクシーの中で焦っています。全く焦る必要なんかないのですが。
そうこうしているうちに霞が関に到着し、荷をおろします。そうして、経理課に持込みお客様は待っていたと言わんばかりの表情をしていました。

 

このころから、何故か私の顔は経理課のお客様に知ってもらっていて、事ある毎に、次も頼みますとお願いされました。
これはどういうことかというと、これ以上、寡占化された市場が続くと政治家からからの圧力が更にかかるからという感じだったからだと思います。そのため第三政局的な私たちの存在がとても貴重になっていたようでした。

提案書の納入が終わり、今度はひたすら価格との勝負です。
ハードウェアや開発費の調整は既に9割方終わっていたので、残りは国際物流周りのデータベース移行費用、数億円分についての協議です。
これは外注費用なので、経営管理本部も口出しできず、調達部門が管理します。手数料をぎりぎり下げたとしても、根本的な差があったことで、全員の頭を最後まで悩ませました。
理由は、既存サービスのデータベースがグローバル企業O社のものであり、我々の提案が自社DBの採用になっていたことでした。
メーカーである以上自社品を選択することは必須であるというプライドの問題、実際のSQLの処理速度の問題、ハードウェアとの相性等もあり自社品を最後まで選択していました。

今から考えると馬鹿馬鹿しい話です。入札で勝ちたければO社一択です。見積予想ではそれ以外の要素では互角であり、差はその数億円分だとはじめから分かっていました。当然相手もここがネックだったのはわかっていたことでしょう。

 

数日がすぎ、入札の提出期限が来ました。そして、当日になり開札が行われました。この開札はPJのリーダーである私の同期が入りました。

そして、結果はまさしく予想通り数億円の差でした。

「裏切りだ!あいつらを呼び出せ!トップダウンだ!」

もはや、任侠物のような展開です。

彼らの主張は筋が通っています。

一ソフトウェアハウスとして、以降のお手伝い費用をO社ならば◯◯億円、自社ならば◯◯億円掛かる。落札したN社はO社の製品を選択したのでその差を埋めただけだと。

理には適っていましたが、仁義を考えると非常に危険でした。そもそも、グループ全体で見れば利敵行為であり、スパイ行為にも疑われるわけであり、そもそもなぜ自社品の見積が倍もしたのかの理由が語られていません。
「技術者が確保できないから」というもっともらしい事を言いますが、グループ会社なのでそのような人員は必ず何処かにいます。
こういう押し問答が何度も続いたある日、その対応をしていた子会社の課長は跳びました。

そして、昔から真面目に尽くしてくれていた主任クラスの担当S氏がそのまま課長代理として、対応してくれることになったのです。

この一件以後、S氏と会うたびに申し訳なさそうにしてくれるので、もう良いですよと言っていました。

 

ひざから崩れ落ちる同期と新しい案件

一緒に担当していた同期は一応エースとみなされていた男でしたが、この時、放心状態で顧客の前でも変なことを口走るぐらい動揺していたのを記憶しています。
私はその隣で、数日慰めていたことをよく覚えています。

この会社の良い所は、失敗しても案件を与えるところにあります。そして、二人でもう一度トライしたのが、次世代会計システムです。
これは、既存のものがメインフレームやプログラムが分散化されており一つに統合する必要があったため、既存ベンダーであっても優位性はあまりなく、よりフラットな戦いができそうでした。
決済処理を窓口の締め処理だけではなく、後払いシステムも含めて全体を最適化し、全国22000箇所とつなぎ動かすというものです。
大規模トランザクションのピーク性能や、UIとUXを意識した設計で作るなどを前提に要件を詰めることになりました。

途中、新人が配属されてきますが、ここで大きな分かれ道となります。

途中まで私が進めていたシステムが移管され、同期とその新人が担当し、私は同時に展開されていた店舗サーバ22000台の入札対応を一人で行うことになります。

70億円規模の入札

単純に見積るこの店舗サーバだけで200億円ぐらい行ってしまいましたので、これをいくらまで下げられるのか、通常の値引きでは対応できないレベルで知恵を絞らねばなりません。

名古屋のPCサーバの工場の部門長と連日の調整をしていました。チームメンバーも段階的に増やし一丸になって担当しますが、見積金額は思うように下がりません。
結局、私には89億が限界でした。

額が大きいこともあり悩んでいるところ、決済をもらうために本部長に話すと、

「もし、2投目があったら・・・・、まぁ、ないか」

この一言が、しばらく心に残り続けます。

Ifを考えると、コンプライアンスを破って20億下げるということは、シミュレーション上、十分にありえました

ライバルを複数比較すると、落札ラインは70億を少し下回るのは分かっていました。
また、端末代金と保守料のそれぞれに予定価格が設定されていたので、保守料は10億以下だと直感的に思いました。そうすると、ハード60億の保守9億だというのが私の直感でしたが、これを達成するためには保守以外で20億をなんとかしなければいけません。

会社に20億の借金を作るかどうか、赤字受注のコンプライアンス違反を無断で犯すのか、リスクをどう取るのか、入札室の中に入って開札中でも延々と悩んでいました。一応、空札だけは準備して。もちろん使ってはいけません。

9社による入札で、私たちはビリではありませんでしたが、予想通り下から数えたほうが早かったです。そして、みな70億を切れませんでした。1投目はこれで終わりです。

そして、保守料だけは予想通り9億台で私のは予想を下回っていました。
つまり、59億で札を作れば確実に勝てるわけです。

2投目までの時間は10分もないのですが、とにかく悩みました。外に出て、携帯電話で連絡を取ることもできません。勝てるのに勝てないというもどかしさの中、タイムアップ。その後、2投目でも決着がつかず、3投目で決着が付き予想通りの金額で着地しました。

会社に戻り報告すると、本部長は笑いながら、「やればよかったのに。」という一言。今更言わないで下さい!

 

まとめ

大型案件ばかりになりましたが、とても政治的な部分や心理戦のようなものが繰り返されましたね。

次回は、この敗戦からどのように起死回生していくのかをお届けしたいと思います。