
誰も大ボラを信じてくれなかった
そもそも、スマートフォンがここまで普及するとは誰も予測できなかったと思います。10年程前、私たちの目の前にあの、【りんごのマークのスマートフォン】が現れました。これが私たちの生活をすべて変えるなんて誰が信じていたのでしょうか。
それを信じていたのは、私が転職した会社Sの人間だけでした。「社長ならやり遂げるだろう。」、「メディアや国がどうであろうとも、私たちは突き進むだけだ」と、心の底から信じていたのです。
そういう意味では、主流派から傍流派に流れたわけですが、たった10年も立たず主流派になるとは、自分でも信じられないほどでした。
法人のスマートフォンの導入の課題
世の中が戸惑っている時の営業活動ほど困難はありません。
誰もが予想だにしなかったデバイスが目の前にあります。これが小さなマイクロコンピュータで、これで仕事をしなければいけませんと言われても誰もピンときませんでした。
ですので、携帯電話で【もしもしはいはい】の世界も終わるし、携帯電話のインターネットでコンテンツにアクセスする時代も終わりますと啓蒙活動しました。
もはやPC用のページ、携帯電話用のページを作る必要もなく、すべてPC用だけでアクセスできますと説明しました。(実際はこの後スマートフォン用のページを別途用意するか、レスポンシブデザインを導入しないと検索エンジンに怒られてしまうので、結果的に嘘になりました)
どこから手をつけたのか?
さて、このような状況下でどのようにコンサルティングしていったのでしょうか?大きくは二つの視点で行動しました。
- 経営者目線で、トップダウン導入してもらう
- 生産性を可視化し、総合的なコストダウン効果があることを伝える
しかし、これだけではもちろんスムーズに導入されません。
そのため、まずは、会社の外でメールを見られるようにしましょうという体験をしてもらうことからはじめました。
モバイルPCで見るのがまだ普通の時代でしたから、携帯電話でメールを見ていた人は少なかったです。
あるイベントで、社長が「この中で、携帯電話でメールが見られる人はいますか?」と挙手をうながした際、2000名ほど居た会場の2%程度以下の人しか手が上がりませんでした。つまり、メールすらクラウド化が追いついていないという現状だったのです。そうしたら、もう行動はたったひとつです。
これだけすれば、きっと雪崩のようにモバイルクラウド化は進むだろう、そう私たちは考えました。そして、これは正解でした。
もっとも大きい課題と市場を取る
ビジネスの基本として、一番大きい課題と市場を見つけ参入することで成長していく事ができるというものがありますが、それはここにも当てはまります。
つまり、ビジネス分野のモバイルクラウド導入を阻害する要因は何かを考えた時、一つは想像ができない事と通常の業務に置き換えられないという問題がありました。そして、彼らの中に使わなくても間に合っているという事実もあったかと思います。潜在ニーズとしてはいつでもどこでも情報を取得したいという物があります。単純にそれが今までは電話だったというだけです。
ですが、私たちは自分たちがモバイルでメールを見ることは当たり前になっていたので、その効果は抜群である事は既に知っていて、それを業務転換した時に効率化するのも分かっていました。
そこで、その効率化した結果を数字に落とし込むと、年間でメールだけで20億円(1.8万人の会社で運用したとして)の生産性を生み出すことが分かっていました。
最初は会社にメールサーバに受信したメールを外に持ち出すためのソリューションを片っ端から探しました。それらを顧客に提案し、スマートフォンを導入していきました。最初はクラウドを提案してはいませんでした。
それもそのはず、携帯電話会社ですから、携帯電話を売るためのクラウドでしか無かったのですから。
ただ、その考えも2年ほどでキレイに変わり、グローバルのITベンダーへと変貌していくのでした。(そもそも、ITベンダーでしたが、通信会社を買ってから通信企業という側面がクローズアップされやすくなっていました)
スマートフォンのコストを気持ちよく騙すのか
正直、この時点でスマートフォンのスイッチングコストは携帯電話の比較になりません。とにかく高いのです。しかし、需要は電話だけだったりします。そこにパケットし放題をつけてARPU(1ユーザーあたりの月額利用料)を底上げする必要があります。それが、アプリケーションという位置づけでした。
電話からデータへということをクリアするために技術者が必要になり、営業でも出来る部分と論理的に裏付けるための技術者に分かれました。
このパケットの利用に関して、「遊ぶからダメ」派と「そういうことも含めて仕事」派に分かれてしまったので、後者の会社を中心に提案を行い、初期ユーザーを作っていきます。
とにかく、心がオープンマインドになっている人たちと会話しないと時間だけすぎて上手く行きません。
使うことで労働生産性が向上し、売上と利益が手に入るという考えに至れる方々とだけ会話しました。過剰なコスト意識の企業とはそりが合いません。
労働生産性の獲得のためにお金を掛ける!
日本人が最も苦手とする分野である生産性の向上を受け入れる企業がどれほどあるのか?それを探すためには、最も生産性のない総当りという手を使うしかありません。
そのため、営業部隊は連日顧客リストを片手にアポイントを取り続け、ひたすら提案していきます。
これもムーアの法則に従っていたのは間違いなく、CPUパワーが純粋に追いついたからです。
とにかく、マシンパワーが上がれば処理できることが格段に増えますし、ディスプレイが高解像度化したことで、より高精細な画像データのやり取りも可能となりました。

ここまで来ると、モバイルは勝手に増えるでしょう。次はクラウドの普及です。
No.1とだけ組むという絶対方針
この会社ではタイムマシン経営が基本でしたので、海外のNo.1企業の製品やサービスを持ってきて売るということばかりでした。
社員としては、明確な経営方針がブレないので働きやすい反面、猛烈な数字を求められていたので追いつくのが大変ですし、ドキュメントも揃っていない中で見切り発車していくためテクノロジーのキャッチアップが大変だった記憶があります。
とはいいつつも、前職のときもアーリーアダプターな技術者は沢山いたのでそういう人たちに頭を合わせるのが大変でしたが、今では自分がそういう速度で情報にアクセスしているので、経営という立場になればなるほど1次情報に触れられるので世の中の最先端に近づくのだなというのが実感です。
何れにせよ、中間管理職が何を言っても、絶対的な神が存在することは最先端のクラウドサービスやモバイルデバイスを【布教】プラスにはなっても、マイナスにはならなかったと思います。
話を戻すと、A社のモバイルデバイスと同じ感覚でG社の統合管理サービスを世に拡販していくのでした。
顧客に合わせるのではなくサービスに合わせる
まるでERPパッケージSAPのようなFIT&GAPを行っていったのですが、唯一違うのは強引に在るべき論を語り、その会社の業務を合わせようとするところです。業務改革まで踏み込むというのが、私たち狂信者達の行動パターンでした。
企業側からしたらウザかったと思いますが、私たちはこのITサービスとモバイルデバイスさえあれば、企業の業務効率は数倍にも数十倍にもなると本気で信じていました。
昼も夜も、無心にITの神様の語る言葉に耳を傾け一心不乱に販売を続けます。何度も断られても諦めず、継続して通い続けるのです。
前職との決定的な違いはここにありました。すっぽん営業のその先に、信じる者は救われますというレベルまで落とし込むのです。

そんな瞬間を垣間見続けると、これまでの人生は何だったのだと疑わざるを得ません。ポジティブに考えて頑張ってもダメだった事が、この人達といると何故かひっくり返るのです。
ですから、顧客をITサービスに寄せるなんてことは前職では怒られることでしたが、何故か上手く行ってしまうので、それがデファクトスタンダードとなっていきました。
結局コンサルティングとは何か
実際のコンサルティングを今の視点から考えてみると、ちょっとおかしいですね。コンサルティングになっていないです。あくまである思想に従って販売していただけなのですから、それはただの宗教の押し売りだったのではないかと反省しています。
顧客に寄り添うということを大前提にしておらず、イノベーション教にハマっていたのではないかと思いました。
ただ、純粋さだけが売りだったのも確かで、一担当としてはそういう熱狂に染まる時期があっても良いとは思いました。
まとめ
モバイル・インターネットの黎明期から普及期まで一気に駆け抜けた話を書きましたが、冷静に振り返ってみるとトンデモナイ時期にトンデモナイことをしていたのだなと、改めて思いました。
ただ、世の中を変えるということは常識をくつがえす必要があり、たしかに上手く行ったときほど覆せていて、上手く行かないときほど常識の範囲で成立させていました。

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