前回の記事では入社時の話を長々と書きましたが、ここでは、そもそも公共システムとは何か、何を行う仕事なのかを説明します。また、公共システムの基本は入札にありますが、それらの仕組みと競合についても合わせて説明していきます

どこまでが対象顧客なのか?

公共事業というと皆さんはどのような顧客を思い浮かべるでしょうか?会社によって対象範囲が異なりますが、以下に列記したいと思います。

  • 首相官邸、内閣府、内閣官房、省、庁、院、センター
  • 独立行政法人
  • 独立行政法人から民営化した法人(日本郵政など)
  • 地方自治体
  • 第三セクター
  • 大学、高校、中学など(公立、私立問わず)
  • 一部パッケージ販売のための民間企業

ここまでが、私がいた事業部の範囲でした。また、地方は地方支社や支店などが独自に受注していることもあり、そこはお互い連絡を取って本省発案件ならば按分するなど折半していたこともあります。

ここは地方からすればあまり面白くないかもしれませんが、事前のネゴシエーションはこちらが寝ずにやっていたので、仕方がないですね

さて、ここに記載していない顧客が二つあります。

一つは自衛隊です。

この会社では、防衛省と自衛隊はセットで扱っていました。私が所属する事業部ではなく専門の事業部があり、そこでまとめて取り扱っていました。
国防に係る内容のため、取扱が他の分野と違ってセンシティブということもあり、私達のような不特定多数の顧客を扱う部門では扱わないようになっていたと記憶しています。

もう一つが、NT社です。
NT社は元々が通信省であり、コンピュータの大口取引先、且つ、OEMの卸先でもあったので、専門事業部を持っていました。

ただ、あまりの効率の悪さに途中から合流して一体で運営していくことになりましたが、営業方針があまりに異なるため皆戸惑っていたというのが現実でした。

 

公共システム事業の特徴

公共システム事業の特徴と言ってもシステムインテグレード(SI)であることには変わりなく、基本的には請負ビジネスです。

ただ、コンペティションや契約の方式、顧客の予算のとり方が一般企業と大きく違うということになります。

まず、調達には大きく2種類の方式があります。

  1. 随意契約
  2. 入  札

この二つの調達方式は、調達に関するやることが大きく違います。
まず、随意契約では金額の査定は毎回されますが、これは都度だったり、年度更新だったり、基本的にはお客様とベンダーの間での1対1の交渉となり、他社がこの契約に割り込むことはありません。
どうして、他社が入れないかというと、仕様や運用方式においてベンダーを固定しないと国や自治体の仕組みがおかしくなるからです。

次に、入札ですがこれも2種類に分かれます。

  1. 一般競争入札方式
  2. 指名競争入札方式

国際通貨単位であるSDRで換算して、10万SDR(約1600万円)を上回るものと80万SDR(約1億2000万円)を上回るものの二つに大別され、調達手続きが大きく異なります。

  • 10万SDRだと、最速で公示から55日経過すれば入札が可能になります。
  • 80万SDRだと、資料招請を求められた後に官報に調達計画が掲載され、そこで作られた仕様書に対する意見招請も行われるため、半年ぐらいかかります。下手すると1年ぐらいかかることもあります。

実際の入札の仕込みはその数年前から始まっているため、2〜3年どころか5〜10年越しということもよくあります。
また、10万SDR以上の調達はすべて国際競争入札扱いですので、日本企業だけでなく、外国企業も入札可能です。これは外資系企業というわけでなく、日本法人のない企業が入札出来るという意味です。

私が担当していた時は外国企業が入札してきたことはありませんでした。このように、政府もベンダーも厳しいルールに従ってしのぎを削るのがこの業界です

 

実際の現場では何をしているのか?

私が当時どのような事をしていたのかを簡単に説明します。

正直なところ、一般的な営業活動と変わらないと思いますが、顧客の絶対数が増えない点は特殊です。
部局を顧客と捉えれば顧客を増やすことができますが、実際にコンピュータ案件とその予算を持っている部局は数が限られており、付き合う部局の数は自然と絞られてきます。

また、狙うべき案件は以下の通り、大きく二種類に分かれます。

  1. LAN/OA系
  2. 業務系システム

LAN/OA系は、簡単に説明すると、PCの配備のことです。また、配備するPCに導入するMicrosoft Officeとウィルス対策ソフト等のの購入とセットアップ、メール環境とグループウェア、ファイルサーバ、掲示板(SharePoint等)も含まれています。F社やN社は得意にしている分野でした。

業務系システムは、まさに国や自治体の特殊な業務を請負契約し、ハードウェアからソフトウェア及びその運用と保守まで含めて受託するビジネスです。

後者の方が公共事業としての実入りは大きく、年間で数十億円〜数百億円が動く世界です。
開発して終わりではなく、ハードウェアのリース期間が48ヶ月〜60ヶ月あるので、その期間、維持保守をしなければいけません。この維持保守というのはハードウェアだけのことではなくシステム全体の稼働維持の事を指します。
SESという言葉が一般的かと思いますが、常駐して保守対応する場合はこのようになります。
私が当時やっていたシステムは、一番大きくて1000人月掛かっています。もちろん、このような大規模なサービスだけではなく、数十人規模、数名規模のものもありますし、営業だけで対応するような場合もあります。
どれくらい安定稼働するシステムであるのかによって保守費用は変わってきますが、分かっていない顧客だと、最初に削られるのが保守料になります。
もちろん、金額的なバッファがあるため、わかっている顧客でも値引き要求されます。

 

ライバルなどはどうなのか?

この業界はいくつかの会社の寡占によって成り立っています。近年では少しは変わってきたかと思いますが、大規模なシステムは大手SIerでないと受注が厳しいため結果的に寡占になっています。

I社:日本で初めて国家にコンピュータを導入した企業がI社でした。そのため、未だに肝心のシステムをI社が受注している事も多いです。担当している人は非常に切れ者が多い印象でした。
この理由は後述しますが、国のシステムが外資に専有されているのは、あまり良くないですよね。
F社:PCを売りたいがため、積極的にLAN/OA案件を受注する傾向が強い企業です。LAN/OAはリプレースが比較的容易なため常に極端な安値金額で入札してきます。その分、業務システム系はそれほど得意ではないという印象があります。
昔、共同でコンサル案件を受注たことがありますが、途中で官房システムの受注を優先してコンサル案件から抜けるという裏切行為に出ました。そのため、私はこの会社を信用したことは一度もありません。
N社:こちらも、PCを売ることを当時は頑張っていましたが、現在は事業を売却しているため業務やセキュリティ、IoTなどにシフトしていると思われます。
また、業務システムでも物流などの民間で培った技術の流用の場合は受注する傾向が強よく、防衛システムなどの強みを持っています。
政治力の強い会社でもあり、あの手この手を使ってくるので油断していると足元をすくわれることも多いです。
ND社:公共SI業界きっての雄です。利益率が非常に高く、業務システムの受注も多い会社です。また、ワークフローシステムは非常に優秀なソフトウェアです。
N社のグループ企業ですが、グループ間の横の連携は意外と弱いようです。ND社が主幹事で受注し、各社が再受注することも多いです。
M社:なんでも出来るというよりは、何かに特化してやるという感じです。グループ会社が地図情報システム(GIS)を取り扱っていますし、国防に強い印象があります。
O社:O社と言えば人事給与システムです。国や自治体の人事給与システムは複雑なノウハウが必要なのでやれる企業は限られています。人事給与パッケージが優秀なのでこの分野ではトップです。
ちなみに、人事院の持つ人事給与システムはO社を含めたマルチベンダー契約で受注していました。それでも国全体を整理するにはそれ相応の代償を必要としました。
NR社:コンサルティング大手のNR社も郵政公社のネットワーク部門でプロジェクトマネージャ(PM)として立っていました。その他の案件でもよく出てくるのですが、完全に人によってバラバラな対応をするのも特徴的です。
私はよく虐められていましたが、この話を別のNR社の方にすると、「それは開発側から上がってきた人でしょう」と言われました。金融コンサルから来た人にはそういう人はいないと言われ納得しました。
T社:あまり表に出てこない企業で、郵便区分機などでしか見かけません。
過去に、特許システムをGoogleのような検索エンジンを実装することでいけると踏んでND社からリプレースしたのですが、結果的に完成せずサンクコストになりました。その後、ND社が再受注し無事カットオーバーを迎えました。

 

どうして寡占になったのか

寡占化してしまった理由は、今から遡ること数十年前、I社が国のシステムを独占していたことに危機感を覚えた通商産業省(現経済産業省)の役人が国内のコンピュータの力を底上げしなければいけないと動いたためでした。
その際、上記の会社のうちの幾つかが合弁会社を作り、コンピュータを開発し販売していきました。

こうして、国からのキャッシュを回しつつ、通常のコンピュータの36ヶ月レンタルや48ヶ月リースだけでなく、60ヶ月分前払いするというJECCレンタルが出来ました。

この会社を調べればわかりますが、その時合併に携わった会社が株主として記載されています。

その後、その合弁会社は各社発展的解散をし、それぞれの本体に吸収される形で存続しました。
そして、その時の名残で寡占が続いているのですが、ここ10年で言うと、SFDCなどが短納期でエコポイントの仕組みを無償で実装するなど、SaaSが台頭している感があります。

 

まとめ

このように、公共システム事業が入札とともに在ること、その入札を実行するまでには様々なハードルがあることがわかったと思います。
また、他社の動向についても、それぞれの戦略などがあった上で受注をしている事もわかったと思います。

現在の最新動向はまた異なっているかもしれませんが、私が体験した範囲ではこのような感想です。