
2011年の原発事故以来、電力業界を取り巻く環境は大きく変わってきています。
2016年4月から始まった『電力の小売り全面自由化』によってサービスや料金面での競争が活発になっており、業界の勢力図にも変化が現れると考えられています。
また、今後の見通しとして2011年以来停止している多くの原発が再稼働していくのか、それとも原発離れが進んでいくのかも不透明な状況です。
ここでは、そんな様々な課題を抱えている電力業界の現状に切り込んでいきたいと思います。
また、今後の展望と転職・就職活動に役立つ情報も紹介していきたいと思います。
電力業界の基本情報
日本の電力業界は長年、関東エリアでは「東京電力」、関西エリアでは「関西電力」、九州エリアであれば「九州電力」といったように、各地域に原則1社の電力会社が存在しており、その電力会社がエリア内で発電・送電・配電・売電といった事業を独占的に展開していました。
競争がない市場で独占的に事業を展開していたというと聞こえが悪いかもしれませんが、国の経済発展の根幹を支えるインフラとして電力を安定供給するという面においては、その役割を十分に果たしてきました。
日本の電力業界は、市場の競争にさらされてはきませんでしたが、積極的に設備投資を重ね、独自にサービスレベルを向上させることで、世界トップレベルの安定した電力供給を実現しています。
時折、アメリカで大規模な停電が起きたというニュースを目にすることがありますが、日本では台風や大雪などの影響があっても大規模な停電が起こることはほとんどありません。
それは、電力会社のインフラ設備がしっかりしているからにほかなりません。日本の経済が成長することができるように、停電が簡単には起きない環境整備がなされ、企業や工場などが安定的に稼働することができたというもの、電力業界の果たした大きな役割と言えます。
日本の電力会社は、地域独占が許されており、景気変動の影響を受けにくい業界と言われていましたが、東日本大震災以降、電力業界を取り巻く環境は大きく変わってきています。
福島第一原発の事故をきっかけに日本中の原発が段階的に停止し、その影響で電力各社は火力発電の比率を高めざるを得なくなり、結果として液化天然ガス(LNG)などの燃料費がかさんで経営を圧迫。
2014年3月期の連結決算においては、電力10社のうち北海道、中部、関西、中国、四国、九州電力の6社が赤字を計上しています。
電力業界の市場規模は、2013年7月~14年6月の決算において20兆5,490億円、経常利益は-2,388億円、平均勤続年数は20.9年、平均年齢は41.5歳、平均年収は694万円となっています。
電力業界 ~今後の展望~
電力業界を語る上で欠かせないのが、2016年4月から始まった『電力の小売り全面自由化』です。
今までは、家庭や商店向けの電気は各地域の電力会社が独占的に販売していたため、電気を買う会社を選ぶことはできませんでした。
それが、2016年4月から始まった電気の小売業への参入が全面的に自由化されることで、家庭や商店を含むすべての消費者が、電力会社や料金メニューを自由に選ぶことができるようになりました。
電力の小売りが自由化されることでサービス競争が促進され、より安い価格でより質の高い電力の供給を受けることができるようになります。
電気の小売業に登録した事業者としては東京ガスや大阪ガス、ENEOSでんき、auでんきなど、都市ガスやガソリン、通信会社といった業界からの参入があります。
また、電力の小売り全面自由化に伴って、提携や合併などの業界再編が活発になることも予想されています。
これまでのビッグな提携話としては、業界最大手の東京電力と業界3位の中部電力が、燃料調達と火力発電部門を統合した共同出資会社、「JERA(ジェラ)」という新会社を立ち上げたことです。
今後、電力価格が下がっていく中で、燃料費のコストを削減するなどの目的で、提携・合併という動きが出てくることもあります。
電力業界の企業一覧
- 東京電力
- 関西電力
- 中部電力
- 東北電力
- 九州電力
- 中国電力
- J-POWER(電源開発)
- 四国電力
- 北海道電力
- 北陸電力
電力業界を代表する企業の基本情報
【東京電力】
電力業界最大手の東京電力は、首都圏を中心に電力を供給しており、その電力量は全体の約31%を占めています。
火力・水力・原子力などの発電部門、送電・変電・配電などの送配電部門、そして消費者との接点となる営業部門が連携することで、人々の生活を支えている電気を安定供給しています。
基本情報
- 売上高:6兆8,024億円(2015年3月実績)
- 経常利益:2,080億円(2015年3月実績)
- 平均勤続年数:22.7年
- 平均年齢:42.6歳
- 平均年収:709万円
【関西電力】
業界2位の売上高を誇る関西電力は、近畿地方2府4県に電気を供給しています。
関西電力は国際事業にも積極的に取り組んでおり、海外の発電事業に様々な形で参画したり、海外の電力事業のコンサルティングを行ったりと、フィリピン、シンガポール、タイなど東南アジア諸国をメインに海外の現地企業との繋がりを深めています。
基本情報
- 売上高:3兆4,060億円(2015年3月実績)
- 経常利益:-1,130億円(2015年3月実績)
- 平均勤続年数:21.5年
- 平均年齢:42.0歳
- 平均年収:588万円
【中部電力】
業界第3位の中部電力は、「エネルギーサービスNo.1企業グループ」の実現に向けて、生活や産業に不可欠なエネルギーを安価で安定的に供給することを目指しています。
多様なニーズに応えるために、ガスやオンサイトエネルギー、LNGなど、幅広いエネルギーをワンストップで供給する体制を整えています。
基本情報
- 売上高:3兆1,036億円(2015年3月実績)
- 経常利益:602億円(2015年3月実績)
- 平均勤続年数:21.0年
- 平均年齢:41.8歳
- 平均年収:680万円
転職・就職へのアドバイス
2016年4月から始まった『電力の小売り全面自由化』で、電力業界はここ数年不安定な状況が続くことが予想されます。
東京ガスや大阪ガスなど大企業、エネルギーとは関連のない通信会社などが電力業界に参入することで、どのような変化が起きるか不透明な部分が大きいため、今はチャレンジ精神を持つ人に向いている業界と言えます。
電力業界に転職・就職を考えている方は、機械系、電気・電子系、情報工学系などの知識、経験を持っていると評価対象になるでしょう。
転職・就職を希望する会社が求めている人材について、できるだけ多くの情報を集め、自分のスキルや経験、大学時代の研究内容が会社にとって役立つものであることを、企業活動に照らし合わせて伝えられるようにしておくと良いでしょう。