試薬系化学業界の動向や魅力・大手企業の年収比較を就職・転職経験者のアドバイスを交え解説

業界研究

セイジさん、今回は試薬系化学業界ですけど、試薬って何ですか? よくわからなくて…。

試薬は一言でいえば、研究に使われる化学薬品のことですよ。

実は試薬は私たちが安心して生活していくために欠かせないもので、家庭、地域、病院などのさまざまな場所に用いられるさまざまな物の安全性を確認するために使用されてきました。そしてそれはこれからも変わりありません。

なんか一気に身近に感じてきましたけど^^

しかしながら試薬のなかには危険なものもあり、その管理、取り扱いには細心の注意を要します。

結構、危険と隣り合わせなのね…。

今回はそんな試薬系化学業界の基本情報、主要企業と年収、動向、展望、経験者談、就職・転職のアドバイスについてもお伝えしていきます。

 

業界全体図から見た試薬系化学業界

セイジさん、試薬系化学業界は全体図から見るとどういう立ち位置なのです?

試薬系化学業界は日経業界地図には残念ながら単元として取り扱いがありません。しかし試薬は化学の力で開発された薬品といえますから、
・化学業界
・製薬業界
の円が重なった部分であるとイメージできます。

化学業界はありとあらゆるメーカーと、製薬業界も医療機関と密接につながっていますよね。

はい。試薬メーカーは各種メーカー、医療機関どちらとも密接に関わっているといえます。後述しますけど試薬の技術が、医薬品となることもあるのですよ。

私たちは試薬そのものに直接、お目にかかることはなくても、生活のなかで形を変え、品を変えた試薬の恩恵に支えられて生きています。

 

試薬系化学業界の基本情報

試薬の定義

コトバンクによると、

“化学分析・実験などで、化学反応を起こさせるために用いる化学薬品”

と説明されていますが、一般社団法人日本試薬協会は

“検査、試験、研究、実験など試験・研究的な場合において、測定基準、物質の検出・確認、定量、分離・精製、合成実験、物性測定などに用いられるものであって、それぞれの使用目的に応じた品質が保証され、少量使用に適した供給形態の化学薬品”

としています。

小ロットの薬品といえますね。

また行政(厚生労働省)は、臨床検査薬(病院・医療機関で使用される)は「体外診断用医薬品」として、一般試薬とは区別しています。

試薬の歴史

試薬の歴史は古く、日本で試薬という言葉を初めて使ったのは、江戸後期の藩医で蘭学者、宇田川榕菴(うだがわようあん)といわれています。1832年に著した書『舎密試薬編』にタイトルとして用いられています。ちなみに同書には約50種の試薬製造方法が紹介されています。

また試薬は1942年以降、当時の軍需省の要請により一般化学工業用薬品と区別するために試薬と呼ぶように統一され、現在に至ります。

200年近い歴史があるのですね^^

定義・歴史で用いた参考文献

試薬のニーズ、種類、分類

試薬のニーズ

試薬は病理研究/法医学研究/残留塩素測定/ペプチド合成/糖鎖/アルデヒド検出/微生物検出/ウイルス検出などに必要とされています。

試薬の種類(化学的性質観点による分類)
・有機化合物
・無機化合物

に分類されています。

試薬の種類(使用方法観点による分類)
・一般用試薬
・特定用途試薬
・標準物質・標準液
・生化学用試薬
・臨床検査用試薬

に分類されています。

参考文献

標準化教育プログラム[個別技術分野編-化学分野]第4章 試薬の規格
https://www.jsa.or.jp/datas/media/10000/md_2506.pdf

ここまで読み進めて試薬とは何かを理解したところで主要企業、動向、展望についてお伝えしていきます。

 

試薬系化学業界の主要企業と平均年収(有価証券報告書がある会社のみ記載)

・富士フイルム和光純薬
・関東化学
・タカラバイオ 6,958,000円
・東京応化工業 7,871,000円
・シスメックス 7,822,000円
・カイノス 5,903,775円
・プレシジョン・システム・サイエンス 5,527,000円
・ナカライテスク
・同仁化学研究所
・林純薬工業

 

試薬系化学業界の動向

富士フイルム、武田から和光純薬工業買収

2017年、試薬系化学業界大手でもともとは武田薬品工業の子会社だった和光純薬工業富士フイルムホールディングスに買収されました。

“富士フイルムホールディングス 4日、武田薬品工業の試薬子会社和光純薬工業の株式公開買い付け(TOB)が3日に終了したと発表した”

翌年、富士フイルムファインケミカルズとの統合で現社名の富士フイルム和光純薬となっています。

再生医療に試薬メーカーが貢献

『日経キーワード2019-2020』によると再生医療は

“培養した細胞や組織を移植し、病気やけがで損傷した体の機能を幹細胞などを用いて修復する、革新的な医療として期待されている“

と説明がなされています。

2013年2月、経済産業省は再生医療の対象ががん免疫などに広がり、細胞培養試薬などの国産化が進むと想定(試算)していました。

その2カ月後の同年4月、再生医療推進法が成立しています。

そしてタカラバイオ関東化学などが再生医療分野に取り組んでいます。

タカラバイオ
関東化学
ブルボン再生医科学研究所

 

試薬系化学業界の展望(予測)

新型コロナウイルス

新型コロナウイルスの影響で、試薬の売上も落ち込んだと予想できるなか、試薬の技術がまたPCR検査、抗体検査の分野でも活かされ始めています。

先ほどもご紹介したタカラバイオは「唾液から感染の有無を調べる」新型コロナウイルスPCR検査試薬を開発しました。

化学業界でもご紹介した東ソーもまたバイオサイエンス事業で機器だけではなく試薬の開発などを行っています。その東ソーもまた新型コロナウイルスに感染しているかどうかがわかる抗体検査試薬の開発を発表しました。今年冬の実用化を目指すとしています。

今後ウィズコロナ、感染症と共存していく期間が長くなればなるほど、検査薬としての試薬のニーズは高まり、業界のさらなる成長や発展につながると見ています。

 

試薬系化学業界の大手企業3社を比較

富士フイルム和光純薬

富士フイルム和光純薬は細胞生物学、免疫化学、JCSS、有機合成、核酸合成、ICP分析、機能性有機材料、残留農薬試験、高速液体クロマトグラフ、カラムクロマトグラフ、皮膚感作性評価、器具洗浄、除菌などに向けた製品を世に送り出しています。

富士フイルムといえば抗インフルエンザ薬の『アビガン』のメーカーとして話題となりましたがその子会社である同社も設備を改造し、医薬品中間体の生産に関わっています。

基本情報
有価証券報告書なし
関東化学

関東化学は、6万を超える試薬を取り扱う総合試薬メーカーです。医薬品中間体、化成品、臨床検査薬、遺伝子分野・再生医療分野向けの試薬開発にも取り組んでいます。

同社が取り扱う製品は簡易分析キットをはじめ高純度試薬、局方・医薬品試験用試薬、クロマトグラフィー用試薬・カラム、機器分析用試薬、容量分析用試薬、環境分析用試薬、食品分析用試薬、実験補助剤など多岐に渡ります。

基本情報
有価証券報告書なし
タカラバイオ

ご存じの方も多いと思いますが寳酒造からスタートした会社で、1979年にバイオ事業に取り組み始めました。同社が持株体制へ移行した2002年に、タカラバイオが設立されています。

主軸のバイオ産業支援事業ではライフサイエンス分野研究、創薬開発研究のための機器や試薬を大学や企業に販売しているほか、再生医療、遺伝子検査に関する研究、製造受託サービスに取り組んでいます。また遺伝子医療事業も展開しています。

基本情報
売上高:358億4100万円
経常利益:56億6500万円
社員数:480名
平均年齢:40歳11カ月
平均勤続年数:13年1カ月
参考文献
タカラバイオ株式会社第17期有価証券報告書

化学商社元社員から聞いたお話

今回、化学商社、化学メーカーどちらにも勤務したことがある方にお話を聞けました。

試薬メーカーではありませんが、化学商社に在籍されていたときに試薬も取り扱われていたそうです。

試薬に関わりたい方は化学商社も進路先候補となりえますね!

化学メーカーでの体験については化学業界の記事でお伝えしています。

化学商社のお仕事

化学商社

・管理部門
・営業部門

がメインとなります。管理部門は人事、総務、経理、法務などです。商社ですから化学メーカーに比べると営業部門の人数がとても多いです。

また化学商社は日々、大量注文処理を求められるため、営業事務も営業の数だけ(より近い数)います。なかには仕入側伝票処理を担当する別部隊が存在する会社も。

近年、商社も典型的な売買だけでなく、付加価値を生み出すことが求められています。そのためメーカー機能を持つケースもあります。当然、研究開発、製造、品質管理、物流などの部署も設けています。

試薬メーカーは代理店が営業をかけ受注、納品する

化学品のなかでも試薬は、少し特殊です。試薬メーカーは基本、商品定価表を作成済で、ホームページに記載し、公表している場合が多いです。

お付き合いが長いなど特段の理由があれば一定割合での割引を受けられることはあるのでしょうけど基本、各社、価格交渉はないと考えます。

ココだけの話、実は試薬は売上も利益率もそれほど高く見込めません。また試薬の大半が、純度のちがいなどあれ、他メーカーとの差別化が非常に難しいです。そのため試薬メインでないかぎり他の商社はあまり積極的に取り組んでいないと思います。

試薬メーカーは在庫管理、配送も担当してくれるような地域密着型の商社を代理店として抱えているケースが多く見られ、代理店が地元の研究所や大学、病院などに足しげく通って営業をかけていくスタイルが定番といえます。

化学商社への転職のしやすさ

異業界からの受け入れは正直、少ないです。ただしメーカーに比べ求められる専門性も少ないことから、メーカーよりは活発といえます。特に管理部門は、化学業界での経験はあまり求められないことも多いです。

化学業界は他業界と比べても国内商取引で長年、業績が安定していたのですが、近年は業界全体が緩やかに下降しています。また一部、商社はずしの動きもあり、海外取引を伸ばそうと動きだしたところも多いです。

業界経験者、異業界からの転身、問わず今、語学力のある方の需要が高まっています。

化学商社における出世コース

一般的な化学商社の職制は、

主任/係長/課長/部長/本部長/役員クラス

で、よくある日本的企業の見本のような感じで、上記のような出世コースをたどっていくといえます。

化学商社で出世していく方法

化学業界はいわゆる男社会。体育会系に近いノリで、古き良き時代の慣習が色濃く残っていますので、お酒の席でのマナー及び盛り上げ役を買って出ることができたほうが強いです(必須かもしれません)。またゴルフでのお付き合いも多く避けては通れません。

なぜなら(あくまでも私の体感ですが)営業部門にかぎらず管理部門でも、そのような場に積極的に参加し、顔を出して信頼関係を築こうとしている人に仕事が集まりやすいと思えるからです。そして結果的に早期出世につながると私は考えています。

ただし全体的に≪年功序列≫が未だに強く残っていますので、先輩などを差し置き飛び越えて出世していくことは現状、難しいと考えます。

また私の知るかぎり役員クラスは、営業部門出身者が大半を占めています。管理部門の場合、配属され、その専門を極めることで出世していくことはできますが、部長、本部長クラスまででしょう。化学商社でとことん出世をと望まれるなら営業に身を置き、結果を出すべきです。フットワークの軽さ、思いきって行動に移せる大胆さが成功のカギです。

最後に化学商社の場合、メーカーと異なり海外赴任が出世コースであるとはかぎりません。全体的に海外取引案件に対応できる人材が少ないため、帰任後もそのまま海外取引を任され、メインであるはずの国内取引を担当させてもらえないケースも少なくないからです。

ただ今は化学商社も海外取引を積極的に展開し売上を伸ばしていこうと考えているはずですから、出世可能な方の傾向はこれから変わっていくかもしれません。

ここまで詳しく教えていただき感謝です。

最後に『転職とキャリアアップ』管理人として、就職と転職のアドバイスを書き記していきます。

 

試薬系化学業界への就職のアドバイス

基本、理系出身者が活躍できる業界ですが、やはり化学、薬学を専攻していた方は4~6年間学んできたことを存分に活かせると考えます。

また試薬系化学業界を目指すなら、化学構造式に関する詳細な知識があると、内定をいただけやすく、仕事に有利となるでしょう。

試薬メーカーは実に多種多様な試薬を幅広く取り扱っています。その数は全体で約80万品目ともいわれています。そんな試薬を正確に取り扱える専門知識や技術、また危険を避け安全に厳格に取り扱おうとする姿勢も求められます。

ここでは大手、富士フイルム和光純薬の募集要項

を参考に募集職種についてお伝えしますと、

・営業部門
・営業支援部門
・研究開発部門
・品質管理部門
・製造部門
・管理部門

などとなります。技術系職種は薬学部、農学部、理学部、工学部その他理科系学科を専攻している方、事務系職種は法学部、経済学部、商学部、社会学部その他文系学科を専攻している方のなかから選考を行っていくようです。

文理、出身学部に関わらず、なぜ試薬か? どのように会社に貢献していきたいか? を活動序盤には早々と固めておきたいものです。

 

試薬系化学業界への転職のアドバイス

試薬系化学業界へ転職を果たすにはやはり、転職エージェントへの登録、キャリアアドバイザーとの信頼関係構築は不可欠です。転職エージェント経由で非公開求人を紹介していただけるよう動きたいものです。

また試薬だけではなく化学業界全体に興味を広げ、就職もしくは転職を検討中の方はぜひ、化学業界の記事も併せてご参照いただけますと幸いです。

 

まとめ

試薬系化学業界は私たちに身近で、再生医療にも貢献している業界でしたね。

そんな試薬系化学業界で、内定を勝ち取っていただきたいです!

就職と転職、共通していえることは人生の目的と就こうとしている仕事の方向性が合致していることが重要です。それがミスマッチを防ぐカギで、長続きできるかその明暗を分けます。

人生の目的についてその意味を、これまで考えたことがない方は関連記事で説明していますのでぜひ、併せてお読みいただけますと幸いです。

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