元警察官が語る!地域課の警察官の幅広すぎる仕事内容

警察官

警察には刑事課や交通課などの様々な課がありますが、一人の警察官がこれらの課すべてを経験することはほとんどありません。
つまり、警察官のなかには、定年まで刑事課での仕事を経験しない人も、交通課での仕事を経験しない人もいるわけです。

しかし、「地域課」だけは、すべての警察の課のなかで唯一全警察官が経験する課です。
これから警察官になりたいという方は、警察官になれば必ず経験する地域課の仕事がどんなものか知っておけば、実際の仕事がイメージできるようになるはずです。

そこで、今回は、私が経験した地域課の仕事内容についてお話ししていきます。

 

地域課の警察官の仕事はなんでも屋?

警察署にはおもに以下の課がありましたが、私も含めて警察学校を卒業したばかりの警察官がまず配属されるのが地域課でした。

おもな仕事
地域課パトロールなどの地域活動
刑事課事件の捜査
交通課交通違反の取締り、交通事故対応など
生活安全課少年事件の捜査など
警備課テロの取締り、要人警護など
警務課事務など

地域課の警察官は、いわゆる交番の「お巡りさん」のことです。

交番のお巡りさんの仕事といえば、パトロールや道案内イメージする方が多いのかもしれません。確かにそれも仕事の一部ですが、地域課の仕事はそれだけではありません。
事件の通報があればどんな内容でも現場に駆けつける、まさに「なんでも屋だったのです。

刑事や交通など他の課の仕事内容の一部も担っていたため、警察組織内でもなんでも屋として扱われていると言えるかもしれません。
その他に世間で言うところの「点数稼ぎ」をして、実績も稼がなくてはなりません。

そのため警察官時代は24時間勤務をしていましたが、勤務時間のすべてを使っても仕事が終わらないくらい仕事量は多かったものです。

 

別名「点数稼ぎ」!警察官の実績活動

警察官時代、検問や交通違反の取締りをしていると、相手から「点数稼ぎですか?」と聞かれることが何度かありました。
警察官の仕事には実績というものがあり、これにはノルマもありましたから、点数稼ぎと言われればそうなのかもしれません。

地域課の警察官が稼ぐ実績には、おもに以下のものがあります。

  • 犯人の検挙
  • 交通違反者の検挙(キップ)
  • 少年補導
  • 巡回連絡(市民の家を訪ねて、住民情報を聞く)

この実績からノルマを果たさなければならないので、それを点数稼ぎとして見ることもできるのも事実です。

さて、ここでは、この実績を稼ぐための活動のうち、犯人の検挙と交通違反者の検挙についてお話ししていきます。
また、、次のパートからは、警察官になりたい学生の質問に回答する形で話を進めていきます。

 

自転車の検問や職務質問で検挙を目指す

犯人の検挙というのは、やはり捜査をして捕まえるんですか?
いいえ、捜査をするのは刑事の仕事ですね。地域課の警察官はひたすら検問や職質をして犯人を捕まえまるんです。

同じ警察官でも、刑事であれば事件現場に残された犯人の痕跡などを調べて事件の犯人を捕まえますが、地域課での犯人の検挙方法はそうではありません。
地域課での検挙方法は、おもに以下の3つだったのです。

  • 自転車に乗っている人に声をかけて、自転車が盗品でないか調べる
  • 自動車検問をして、車の中に違法なものがないか調べる
  • 怪しい人に声をかけて、違法なものを持っていないか調べる

これらはいずれも「職質検挙」と呼ばれており、捜査とはかけ離れたものでした。
悪い言い方をすれば、自転車や車に乗っている人に片っ端から声をかけ、自転車や所持品を調べさせてもらい、何らかの犯罪をしていないか確認する作業だったのです。

「このやり方で犯人を検挙するために必要なものは何か?」というのを同じ署の刑事さん何人かに聞きましたが、全員が「」と答えていました。
毎回仕事のたびに、当たり(犯人)をひくまで延々と自転車を調べ続けましたが、犯人を検挙するのは確率論的に言っても難しく、職質検挙の時間を何時間もとるはめになりました。

 

交通違反者の検挙も地域課の仕事

キップを切るのも地域課の警察官がやるんですね。てっきり交通課の仕事かと思っていました
交通課の人ももちろんキップは切りますが、地域課の警察官もキップはたくさん切りますよ。

交通違反者検挙、つまり、交通違反をした人を取り締まってキップを切るのも地域課の仕事で、キップの枚数にもノルマがありました。
取締りは「左折禁止」などの交通違反の多い場所で待機し、違反した車がいたら追いかけてキップを切るというやり方をしていました。

このやり方は市民からも相当評判が悪く、違反者に何十分も文句を言われることも多かったです。

 

地域課は少年補導もする

少年補導も地域課の警察官がやるんですね。これもてっきり、生活安全課の仕事だと思っていました。
もちろん生活安全課の仕事なんですけどね。なぜか少年補導までやらされていました。

タバコを吸っていたり、深夜に外を歩いている18歳未満の少年少女を補導するのも地域警察官の仕事の一つでした。
とはいえ少年補導は、もともと地域警察官のノルマには組み込まれていませんでした。

しかし私の所属していた警察署の署長が変わったことで、少年補導にまでノルマが課されるようになったのです。
警察では定期的に人事異動が行われ、新しく来た署長が生活安全課の少年係にいたこともあって、少年補導にも力を入れたいというのが、ノルマが新たに課された理由でした。
しかもそのノルマは、一日に一件です。

そんなに都合よく、非行少年が毎日見つかるわけもないので、少年補導のノルマには非常に苦労しました。
私がノルマを達成するためにとった方法が、夜の11時に駅前を張り込むというものでした。

18歳未満は、夜11時以降に外を歩いていると補導対象になるのです。
そこで夜11時に駅前に張り込み、制服を着た高校生に声をかけ、補導するのが日課になっていました。

ちなみにこのやり方を、私は勝手に「JK(女子高生)狩り」と呼んでいました。

 

地域住民宅を回る巡回連絡

検挙やキップや補導は分かるんですけど、巡回連絡というのは何ですか?
巡回連絡は、地域住民の家を回って、住んでいる人の情報や、何か変わったことがないかを聞く仕事です。
やっと地域課らしい仕事が出てきましたね。
はい。巡回連絡は正真正銘、地域課の仕事です。

巡回連絡」とは、管轄の住宅を訪ね、住んでいる人の生年月日や職業、緊急の連絡先などを「巡回連絡カード」に書いてもらう仕事です。
こうして管轄内の住民の情報を集めておくことで、事件や事故などの際、すぐに当事者の家族に連絡できるようにしておくことが巡回連絡の目的です。

この巡回連絡にもノルマがありました。
巡回連絡には、新しく管轄内に越してきた世帯の情報を記録する「新規」と、すでにカードを記載している世帯を訪ね、家族構成や職業などが変わっていないかを聞く「継続」があります。
新規は5点、継続は1点というように点数まで決まっていました。

私は、この巡回連絡の実績が優秀でした。
マンションや団地など、人がたくさん住んでいる集合住宅に行けば、まとめて件数が得られます。

また、本当は市民とゆっくり話さなければならないのですが、私は「変わりないですか?」とだけ聞いて会話をほぼ2秒で終わらせていたため、件数がたくさん稼げたのです。

ただし、時にはお茶やお菓子を出してくれる人もいたため、そういう時はお茶をしながら、30分くらいゆっくり会話していました。
本当はあまり好ましくないので、真似はしないほうがいいと思います。

 

他の課の仕事も、まずは地域課が対応する

先ほど交通違反者の検挙も地域課の仕事だと説明しましたが、これは本来交通課の仕事のはずです。
しかし、警察では、なぜか地域課にも交通違反者検挙のノルマが課せられていました。

交通違反者の検挙に限らず、地域課の仕事には、本来他の課がやるはずの仕事も多く含まれていました。

ここでは、地域課の警察官がやる他の課の仕事にはどのようなものがあったのかについてお話ししていきます。

 

事件が起きたら、まず地域課が対応する

地域課がやる他の課の仕事には、どんなものがあるんですか?
例えば事件が起きたら、最初に対応するには刑事ではなく地域課の警察官でした。

私は警察官になる前、何か事件が起きた時、事件の捜査をするのは刑事の役目だと思っていましたが、地域課の仕事には「初動捜査」というものが含まれていました。
初動捜査とは事件があった時、最初にやる捜査活動のことで、おもに以下のものがあります。

  • 被害届の受理
  • 実況見分
  • 鑑識活動

被害届」は事件の被害内容を書く書類で、私のいた県警では被害届を書くのも地域課の警察官の役目でした。
(他の県警では、刑事が書くところが多いようです)

実況見分」は事件の状況を被害者から聞き、図と文章で細かく記録するという仕事です。
例えば、空き巣事件なら、事件が起こる前の部屋の状況などを細かく記載したうえで、事件後にこう変わったという状況も記載します。

一軒家の空き巣事件などは被害場所の範囲も数部屋におよんで広かったため、実況見分の書類を書くのは大変でした。

さらに犯人が残した指紋や足跡が現場にないか、粉をふって調べる採取する鑑識活動もしました。

このように警察官だった当時は、本来刑事がやるイメージがある仕事もかなりしていました

 

交通事故が起きても、まず地域課が対応する

事件の対応もまず地域課の警察官がやるんですね。他にも他の課の仕事をやることはありましたか?
交通事故の対応もやっていましたね。

交通事故は本来交通課の担当ですが、事故対応も地域課の警察官の仕事の一つでした。
交通事故には、以下の2種類があります。

  • 物件事故
  • 人身事故

物件事故は「車と車」や「車と物」の事故で、例えば車同士がぶつかったり、車が建物にぶつかるなど、怪我人のいない事故のことです。
一方、人身事故は「車と人」の事故で、車が人をはねたり、車同士の事故でも車内の人が怪我を負った場合は人身事故になります。

このうち、物件事故の処理は地域課の仕事で、交通課が事故現場に来ることはありませんでした。
人身事故の場合は交通課の警察官が処理をしますが、やはり、最初に対応するのは地域課の仕事だったのです。

 

通報があれば、どんな内容でも対応する

地域課の仕事は実績活動や事件、事故の処理だけでも大変でしたが、これに加えて、通報があったらすぐ現場に向かわなければなりませんでした。
事件などに対応している時は行けませんが、休憩中に通報があれば、休憩返上で現場に向かいました。

通報のなかには「そんなことで通報するなよ」と思ってしまうようなものもあり、こうした通報者にはとても迷惑しました。

ここでは私が警察官をやっていた当時、大変だった通報についてお話ししていきます。

 

警察にとって大迷惑?110番マニアとは?

警察の通報で、特に大変だったものって何でしたか?
通報内容がどうと言うより、何かと理由をつけてはやたらと通報してくる人がいて、それが厄介でした。
そんな人がいるんですか!?
いましたよ。そういう人たちは110番マニアと呼ばれていました。

「110番マニア」とは、110番通報をするのが好きで、毎日のように通報してくる人たちのことです。
私が勤務していた交番の管轄内にはこの110番マニアの男性がいて、毎日理由をつけては何度も110番通報をしてきました。
通報の内容は、少なくとも私からすれば、どれもくだらない内容ばかりでした。

例えば、「駅前の工事がうるさいから何とかしろ!」という通報がありました。
自分の家の前で工事が行われているのならまだしも、駅前の工事がうるさいなら自分がそこから離れればいいだけです。

他にも、「駅前に客待ちのタクシーが並んでいるから何とかしろ!」という通報もありました。
駅前にタクシーが並んでいたからといって、それがこの人に何の関係があるのでしょうか?

とにかくこのような通報を、1日に何度もしてきたのです。
110番マニアから通報があるたび、私たちは忙しくても、休憩中でも現場に向かわなければならず、貴重な時間を奪われていました。

110番マニアが通報してくる理由は、何かに困っているからではありませんでした。
どうやら彼らは誰からも相手にされず、話し相手が欲しいために何かと理由をつけては通報してきたようなのです。

彼らはまさに警察のVIP客といった偉そうな態度で、間違っても良い印象は受けませんでした。
それは彼らの趣味である110番通報によって、自分の休憩時間が削られたことも大きく関係していました。

 

地味にきつい!泥酔者の保護

他にも、大変な通報はありましたか?
地味にきつかったのが、酔っぱらいがいるっていう通報でしたね。
えっ、酔っぱらいですか?
はい。酔っぱらいを保護するのも、地域警察官の役目なんですよ。

警察官の役割は、地域住民の生命、身体、財産を守ることにあります。
泥酔者が道端で寝ていれば、冬なら凍死してしまうかもしれませんし、寝ている間に財布からお金を盗まれてしまうかもしれません。

そのため泥酔者の保護も、警察官の仕事の一つです。
ただ、この泥酔者というのが本当に厄介な存在でした。

特に厄介だったのが、酒に酔って暴れるタイプの人でした。
彼らは昼間から泥酔した状態で外に出て、一般市民に絡んだりするのです。
こちらが止めに入ると、すぐに「やるのか?」と喧嘩腰になるため、本当に面倒でした。

また泥酔者がいるという通報で多かったのが、タクシー運転手によるものです。
タクシー運転手はトラブル防止のために、お客さんに触ってはいけないという決まりがあるようで、声をかけても起きない酔っぱらいの乗客がいると、警察に通報してくるのです。

本来タクシーの客を起こすのは警察の役割ではありませんが、通報が来れば現場に行かざるをえません。
さらに厄介なことに、泥酔して寝ている人は何をしてもなかなか起きないので、本当に大変でした。

 

まとめ

警察学校を卒業した警察官たちは、それぞれ県内の警察署の地域課に配属されます。
地域課の警察官とは、いわゆる交番のお巡りさんのことです。
地域課の仕事内容は多岐にわたり、おもに以下のようなものがあります。

  • 犯人の検挙、交通違反者検挙などの実績活動
  • 事件や事故の処理
  • 通報の対応

地域課の警察官はノルマを達成するために、検問や職質をしたり、交通違反の取締りをします。
その間にも通報があれば、現場へ急行しなければなりません。
事件や事故など、一見地域課の仕事ではなさそうなものについても、まずは地域課の警察官が対応するのです。
その他にも、通報があれば、どんなにくだらない内容でも通報した人のもとに向かわなければなりません。

この記事で紹介したのはほんの一部であり、他にも書類作成など、地域警察官の仕事はたくさんあります。

この記事を読んで、自分にはとても無理だと思った方は警察官になるのはやめておいたほうがいいかもしれません。
しかし、もし自分にもできそうだと思った方は、ぜひそのまま警察官を目指してみてはどうでしょうか?

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