どうしても小説を書き出せない。もしくは書き上げられないという作家志望の方に向けて、問題を解決する具体的な方法をご紹介いたします。
いつか小説家になりたいと思っているけど、一つも作品を書き上げたことがない…。もしくは、そもそもどうやって小説を書き出せばいいのかわからない…。これらは駆け出し作家志望にありがちな悩みの一つだと思います。
事実、筆者自身もこれで長らく悩んでいた時期がありました。そんな筆者の経験も踏まえまして、他の多くの職業作家たちの体験談や方法論も交えながら、わかりやすく解説いたします。
記事の信頼性としましては、筆者自身が今年にデビュー予定の小説家であり、複数の出版社との交渉経験があります。
小説をどう書けばいいかわからない?
そもそも、小説をどうやって書き始めればよいかわかりませんか?
そういった方のために、小説の執筆という曖昧な作業を、出来る限り具体的に、手順化した方法をご紹介いたします。案ずるより産むが易し、悩んでいるよりも手を動かしましょう!
小説を書くための手順をハッキリさせよう
最初から「小説を書こう!」と息巻いてしまうと、いったい何から手を付けていいのやら、そもそもどうすれば完成なのやら、わからない部分が多いと思います。
小説という作品媒体は、散文形式の文章の羅列である以上に、非常に複雑かつ多様な要素の集合体でもあります。そういうときは、小説を「書く」というよりも、小説を「作っていく」と考えた方が、物事がクリアになる場合があります。
小説を書き上げるというのはどういったことなのか、より具体的にしてみましょう。
長編小説は大体10万字から15万字程度の長さです。つまり最終的に、それくらいの分量の本文が存在すれば、小説を書き上げたということになります。
しかし10万字程度を書いたとしても、中身が意味の無い文章の羅列ではどうしようもありません。小説は基本的に、「ある程度の首尾一貫としたストーリーの存在する、面白いフィクション」である必要があります。そのためには、前もって物語の設計図、骨組み……つまりはプロットと呼ばれる物を用意しておけば良いわけですね。
それではそもそも、小説を書くためには、事前にプロットを作っておいた方が良いということがわかりました。絶対に必要というわけではありませんが、用意しておけば路頭に迷うことが少なくなります。
作家によっては、このプロット段階に数カ月も数年もかける方もいます。書き始める前に、きちんと筋道を立てておくことは非常に重要です。とりあえず書いてみようと思うことは大切ですが、それで上手くいかないことがわかったのであれば、その都度問題を解決していきましょう。
最終目標 | 『長編小説』を完成させる | ここが目標地点。完成さえすれば、公募に応募したり公開したりできる。 |
前提① | 10~12万字を書きあげる | 『長編小説』を書くとは、つまりこれくらいの分量を書くということ。 |
前提② | プロットを作る | その分量の中で、どのような物語が展開するのかを決める。 |
※「小説を書く」という行為は、完成地点から大雑把に逆算すると、このような作業です。
具体的なプロットの作り方 STEP①
それでは小説を書き始める以前に、どのようなプロットを作っておけばよいのでしょう。どの程度詳細に、どの程度アバウトに? どこからどこまでを準備しておけば、一つの作品を仕上げるための強力な『筋道』、もしくは物語が進んでいくためのレールとして機能してくれるのでしょうか。
もちろん、プロットの作り方は作家によって千差万別ですので、正解はありません。しかしそんなことを言っても仕方がありませんので、一例として、筆者の例をご紹介します。筆者はとにかく作品を「書き上げる」、書き上げるための「チェックポイント」を通過することを重視しています。ですので、プロットをそこまで作り込むということはしません。とにかく、ある程度迷わずに書き進めることができればいいわけです。
ですので、筆者の第一のプロットは「とにかく初めから終わりまで、何が起きるのかをアバウトに書いてみる」というものです。Wordを立ち上げて、余計なことは考えず、真っ白なページに頭からガリガリと書いていきます。細かい所や思いつかない部分は完全に無視して、とにかく「結末」までの簡単なあらすじを作ります。わからない部分は、素直に空白のままにしておきます。どこが不明瞭なのか、ということが見つかるだけでも良いのです。
どれだけ乱雑かつアバウトなプロットでも、無いよりはマシです。これは、自分の頭の中だけにある物語を、いったんアウトプットしてしまう作業です。そうやって書いてみれば、とにかく「一通りの流れ」が完成します。
これにて、プロットの第一段階、いわばプロットの初稿が完成しました。
具体的なプロットの作り方 STEP②
プロットの初稿は、あくまでプロットの完成版を作るためのアウトプットに比重を置いたものです。ですから細かい部分は全て無視して、とにかく最後まで書き切ることが最優先でした。しかしこのままでは、頭の中にある物をそのまま取り出しただけで、本文を執筆するための強力な推進力としては機能してくれません。
ここから初稿をブラッシュアップし、プロットの完成版を作る工程に入ります。この工程で重要なポイントは、以下の三つです。
一つに、流れが詰まっていない部分、言い換えれば「どうしてそうなるのかわからない」部分を詰めて、矛盾を解消し、全体の流れをスムーズにすること。二つに、全体のエピソードの長さの調整。三つに、全体を俯瞰して見た際に、読者が楽しめるポイントがきちんと散りばめられているかを確認する作業です。
一つ目の全体の流れをスムーズにする作業では、初稿のプロットを眺めながら、伏線が必要な要素、事前の説明が必要な要素、流れがスムーズではない部分を詰めていきます。
頭の中からそのまま取り出した物語には、「そもそもどうしてそうなるのか不明瞭な部分」や、「展開として矛盾している点」などが散見されます。たとえば、「誰かが殺人を犯すことは決まっているけれど、そのトリックまでは思いついていない」というような。これらは執筆段階でかなりの障壁として立ちはだかってしまいますので、出来る限り潰しておきましょう。
二つ目の、全体のエピソードの長さの調整も重要です。
作者がよくあるパターンとしては、クライマックスの部分に書きたいシーンや盛り上がりを詰め込みすぎて、冗長になってしまうことが往々にしてあります。また、そもそも小説一冊分に収まりきらない、ということもあるでしょう。
三つ目の、読者が楽しめるポイントをきちんと用意しておく作業も大事です。
読者が楽しめるポイントとは、主人公の活躍であったり、恋愛要素であったり、もしくはお色気要素だったりします。ここを疎かにしてしまうと、読者は小説を最後まで読んでくれません。
プロットを完成させる際に注意すること | |
1 | 不明瞭な部分や矛盾点、問題点を潰す |
2 | 全体のエピソードの長さを調節する |
3 | 読者が読みたい要素を散りばめる |
諦めて、とにかく書き始める!
さて、これにてプロットの完成版が出来上がりました。しかし、必ずしも満足のいくプロットができるとは限りません。どう頭を捻っても思いつかないアイデアや、どう考えてもわからない部分がプロットには存在してしまうことでしょう。
そういう時には、とにかく書き始めてしまうことが重要です。むしろ、ここが一番大事かもしれません。何事も完璧はありえませんので、どこかで見切りを付けて、とにかく出発してしまうしかないのです。
あなたが作らなくてはいけないのは「プロット」ではなく、最終的に出来上がる「作品」の方です。完璧なプロットを作ろうと意気込んでしまうと、いつまでも思いつかないトリックや、もっと良くできる、もっと面白くできるという強迫観念に支配されてしまい、結局お蔵入りにしてしまいます。また同じ工程で足踏みし続けていると、段々と自分の作品がひどくつまらない物に見えてしまいがちです。
そうなってしまうと執筆の意欲すら湧かなくなり、別の作品に取り掛かってしまったり、ひどい時には書くこと自体を辞めてしまったりしかねません。
「鉄は熱いうちに叩け」という言葉の通り、とにかく「書きたい!」と思えているうちに、書き始めてしまいましょう。ご心配なく。ある程度の問題点は、書いている途中で解決されます。もし解決されなかったとしても、時には強引な力技が必要なこともあるのです。
小説をどうやっても完成させられない?
小説の書き方に関する知識があり、色んなジャンルに関する造詣が深くとも、小説を書き上げられるとは限りません。体感で申し訳ないのですが、100人が小説を書き始めたとしたら、その中の1人ほどしか作品を完成させることはできないのではないでしょうか。
本項では、作品を書き上げるための具体的な方策を解説いたします。
なぜ書き上げられないのかを明らかにしよう
「作品を完成させたことがない…」といくら嘆いても、作品を書き上げることはできません。あなたがしなければならないのは、書き上げられなかった原因を明確にすることです。
以下、代表的な原因を紹介していきます。
一つ目に、そもそも作品を完成させたことがない、という原因が挙げられます。一つの作品を書き上げたという達成感を得たことがない、というパターンですね。
解決方法としては、とにかく一つだけでもいいので、「長編」を書き上げましょう。クオリティや面白さを気にするのは、一作でも書き上げた後にしておいた方が良いです。
二つ目に、プロットを作りこみすぎているのが原因の人がいます。プロットをこねくり回すのに躍起になってしまい、肝心の本文まで辿り着かないというパターンです。
そういう人は、そもそもプロットを作る方法に向いていない可能性がありますので、思い切ってプロット作成の工程自体をスキップしてしまいましょう。
三つ目に、小説の中盤頃までは書けるのに、後半や結末まで辿り着いたことがない、という人もいるでしょう。こういった人は、細かいことを気にし過ぎです。書いているうちに良いアイデアが思い浮かんで、ついつい横道に逸れてしまったり、納得がいかなくて序盤を何度も書き直している間に、意欲が無くなってしまったりします。執筆途中で他人に感想を聞きたがる人も要注意です。
書き始めたら、最後まで書き上げること以外に重要なことはありません。スティーヴン・キングも言うように、初稿は全ての扉を閉じて、自分の殻に閉じこもって一挙に書き切ってしまうのが得策です。
工程を分けて、少しずつ作っていこう
そんなことはわかっているけど、それでも書き上げられないんだ! という真剣な悩みを抱えている人もいるでしょう。そういった方は、執筆作業をもっと細かい工程に分ける方法が役立つかもしれません。一つ一つの工程を確実に終了させていくことで達成感を得つつ、少しずつ作品の完成へと向かっていくわけです。
この手法については、長年業界で精力的に活動されている、ベテラン作家の榊一郎氏が詳しく解説してくれていますので、そちらをご紹介しましょう。
①一つ目の段階は、作品のおおまかな「あらすじ」を書くこと。筆者の場合は、この「あらすじ」レベルの段階で結構な分量を書いてしまうのですが、榊氏の場合は800字程度、原稿用紙二枚程度の分量でよいとのことです。それなら出来そうですね。
②二つ目の工程で、この「あらすじ」を詳細なプロットにします。この作業で、元々原稿用紙二枚程度だった「あらすじ」を、原稿用紙にして十~二十枚程度の「詳細プロット」に増量するわけです。この段階で、物語を初めから終わりまで、ワンシーン毎に区切っていきます。
③三つ目の工程が、小説を脚本の形にしてみる「箇条書き」です。この段階では、キャラクターの台詞や、簡単に何が起こったかだけを箇条書きにして、最初から最後まで書いてしまうわけです。そして最後に、工程3で出来上がった脚本レベルの原稿を、きちんとした小説の形に直します。こうやって一つ一つの工程を通過することで、いつの間にか一つの作品が完成しているというわけですね。
この手法についてもっと詳細に知りたい方は、榊一郎氏のTwitterのまとめなどを参照なさってください。
未完成の傑作<完成した凡作
いずれにせよ、作品を書き上げられないことで悩む方は、完璧主義の傾向があるものと思います。わざわざ小説を書きたいと思う方は、神経質な人が多いような印象がありますので、その辺りも関連しているのかもしれません。
もっと面白くできそうだと思っても、完成しなければ意味はありません。そのためには、とにかく「書き上げる」ということを至上目標として設定する必要があります。
いつまでも完成しない傑作よりも、とにもかくにも完成した凡作の方が、圧倒的に価値があります。
この世に完璧な物語というものは存在しません。そして小説を少しでも完璧なものにしていくためには、一つでも多くの作品を書き上げるという実際的な作業の中から、様々な教訓と経験を得て、少しずつ自分の執筆能力を向上させていくしかないわけです。
そのためには、這いずってでも「結末まで辿り着く」必要があります。一度書き始めたものを、途中で投げ出さないでください。締め切りを設定して、必ず完成させてください。
小説家の能力というのは、結局のところ、その繰り返しの中でしか育まれないのです。
職業作家はどうしているのか?
本項では、実際の職業作家たちがどのようにして作品を書き上げているのか、一人ずつご紹介していきたいと思います。
プロとして第一線で活躍する作家たちが、この問題とどのように向き合っているのか。
一人ずつ見ていきましょう。
スティーヴン・キング
スティーヴン・キングといえば、無数の映画化作品を出版し、世界幻想文学大賞、ヒューゴー賞といったそうそうたる文学賞をいくつも受賞している、世界的作家の一人です。世界で最も著名な小説家なのではないでしょうか。
そんなスティーヴン・キングは、『書くことについて』という著作の中で、自分の執筆スタイルを詳細に解説してくれています。
その中でも筆者が最も重要だと感じるのは、第一稿は扉を閉めて書き、第二稿でその扉を開く、という考え方です。
この扉は物理的な扉でもあり、また精神的な意味での扉でもあります。キングは小説の第一稿を書き上げるとき、物理的な意味でも精神的な意味でも、外部の情報を完全にシャットアウトします。
小説を書いていると、途中まで書き上がったものを誰かに読んでもらいたい、誰かにアドバイスをもらいたいと思うことが多々あるでしょう。しかしそうしてしまうと、書きかけのものを読んでもらっただけで満足してしまったり、あるいは良さそうなアドバイスを聞いてしまい、修正作業に気を取られて物語が前に進まなかったり、なんてことに陥りがちです。
そうならないために、キングは書くと決めたら全ての扉を閉めてしまって、書くことだけに集中すべきだと主張します。閉じた扉は外部の情報を遮断するためだけではなく、その部屋から自分自身が出て行ってしまわないための扉でもあります。
そうやって閉じこもり、やっとのことで第一稿を完成させたならば。そこで初めて扉を開き、誰かに読んでもらえばいいのです。
ジェーン・スマイリー
ピューリッツァー賞のフィクション部門は、アメリカにおける最も権威のある文学賞の一つです。そんな賞を1992年に『大農場』で受賞したジェーン・スマイリーがもしも本記事を読んで下されば、筆者の意見のおおまかな部分には同意してくださるのではないでしょうか。なぜなら筆者自身、彼女の提唱する執筆姿勢には共感できる部分が多く存在するからです。
小説の執筆において、『完全さ』と『創作における野心』を両立することは非常に難しいと彼女は言います。
小説の第一の読者は執筆者自身であり、それゆえに、執筆者は作品に関する無数の不満点や改善点を見つけ出してしまいます。実際、作品への駄目出しには限りが存在しませんので、それに振り回されてしまうと、作品は永遠に完成しません。
ジェーンは小説における下書き、つまりは第一稿を書き上げることの重要性を繰り返し語っています。どんな芸術作品にも下書きはつきものです。歴史に残る名画を描き上げる画家でさえ、その絵画を完成させるための下書きを欠かしません。
第一稿とはあくまで下書き、草稿なのです。しかしそれが殊に小説となると、どうして下書きたる第一稿も書き上げずに、いきなり完璧な完成品を執筆できると思ってしまうのかは疑問です。
またジェーンは、他人の意見を聞くのは自分のアイデアをすべて作品の形にしてからにした方が良いとも語ります。小説家は良いアイデアが思い浮かぶと、誰かにそれを聞いて欲しくなってしまうものです。「こんな小説を書こうと思うんだけど、どうかな?」という風にですね。しかしやはり、それも第一稿を書き上げてからにした方が良いでしょう。そんなことをしていたら作品はいつまでたっても完成しませんし、せっかくの独創的なアイデアが損なわれてしまうことにもなりかねません。
西尾維新
西尾維新といえば、業界の中でも最も筆が早い作家の一人です。2002年にメフィスト賞を受賞し、デビューしてから現在まで、約17年ほどの間に出版した小説は計100冊に届こうとしています(あまりにも著作が多いので、もしかするとすでに100冊を超えているのかもしれません。正確な数字でなかったら、申し訳ございません)。さらには複数の漫画原作もこなしている西尾氏は、一体どのようにしてそれだけの作品を書きあげているのでしょうか。
インタビューの中で、西尾氏は一日に書く文字数を2万字と決めていると語ります。2万字といえば、単純に計算すると1週間ほどで1つの長編小説を書き上げてしまうことになります。これだけでも異次元の速度ではありますが、これでも西尾氏にとっては、1日に2万字という数字は書きすぎず、また書かなすぎずのちょうど良いペースであるようです。
このように、執筆を時間で区切るのではなく、文字数で区切るのも一つの手段だといえるでしょう。毎日夜の7時から10時まで三時間書こうと決意しても、その間ずっと悩んで手をこまねいてしまえば、物語が1ミリも進まないまま時間だけが過ぎ去ってしまうことになりかねません。
そういった悪戯な時間の経過を防ぐためにも、1日の執筆に文字数のノルマを設けて、どんな状態であろうと必ずその文字数を書くと決めてしまえば、とにかく前には進み続けることができます。
悩むよりも手を動かす。そもそも悩んでいる時間というのは、その大半が「悩んでいることに悩んでいる」というような、あまり有効な時間ではないことが多いような気がします。
まとめ
小説を書き始めるための具体的なステップと、書き始めた小説を最後まで完成させるための方策をいくつかご紹介いたしました。小説家になりたいと思っていても、まずは作品を完成させなければどうにもなりません。とにかく書き始めて、書き上げるのみです。
まだ自分には実力が無いから、たくさん本を読まないと…。そんなことを思う必要もありません。なぜなら、小説家は読んできた本によってではなく、書いた本によってのみ評価される職業だからです。完璧に準備が整うタイミングは、きっと永遠に訪れません。どんな作品でも、どんな凡作だろうと駄作だろうと、とにかく書き上げてみましょう。
その際に、ご紹介した方法や考え方がお役に立てば幸いです。小説を書くための手順を明確に理解して、その工程を一つずつ確実にクリアしていきましょう。
どうしても上手くいかないときは、それ自体を嘆くのではなく、なぜ上手くいかないのかを明らかにしましょう。そうやって少しずつ前に進んでいれば、いつか道は開けるものです。
最後に、筆者の好きな言葉を紹介しておきます。
「成功しなかった脚本家は、成功するまで書き続けなかった脚本家だ」。
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