一般の方は、漠然とした医学部のイメージは持っていると思います。
私も入学前は漠然と医学部のイメージは持っていましたが、入学後にそのイメージと異なっていたことがけっこうありました。
今回は、医学部志望の方に入学前に知っておいた方がよいと思うことをご紹介いたします。主に再受験した方に向けたものですが、高校生にも参考になることも多いと思います。
今からご紹介することは、あくまでも私が卒業した大学の医学部についてのことで、全ての医学部に当てはまることではないと思います。医学部の中にはこんなところもあるのか、という参考程度に考えていただければ有難いです。
経済的理由で地元の大学しかいけない!という考えを少し見直そう!
私は、親からの援助は授業料も含めて一切受けずに、貯金と奨学金で医学部を卒業しました。私が医学部に再入学すると親に言ったときに、親からは経済的援助をしてもよいという話はありました。しかし、私は一度大学を卒業させてもらってから自分の都合で再入学したため医学部を再受験すると決めた時に、入学したあとは親からの経済的援助に頼らず奨学金でやっていこうと決めたのです。
私の貯金は6年分の授業料を支払ったら、ほとんど残らない程度しかありませんでした。
アルバイトの事も考えましたが、医学部入学後の生活がまだわからない状態で、アルバイトのお金をあてにすることはできません。実際、6年間アルバイトすることなく、貯金と奨学金だけで卒業できました。
経済的理由で地元の大学しか進学できない、ということを受験生からたまに聞きます。地元の大学しかいけないのなら、再受験生は地元の大学が年齢で合格しにくい入学試験が行われている大学であったなら、医学部に合格することはかなり難しくなってしまいます。実際は、奨学金だけでなんとか生活していけるので、経済的理由から地元の大学にしかいけない、と考えている方はもう少しよく考えてみることをおすすめします。
私はアルバイトをしませんでしたが、医学生でもアルバイトをしていた人はいっぱいいたのでアルバイトもできますし、親からの援助が一切なくてもなんとかなります。
入学する医学部は就職先を決めるようなもの!
他の学部では大学を卒業したら、その大学と関わることはほとんどないかもしれませんが、多くの医師は卒業した大学とずっと関係が続きます。私は卒業して10年以上経ちますが、今でも大学との関係は続いています。
私は、前の大学と就活以降は関わることはありませんでした。もちろん、同じ大学の友人や先輩、後輩との付き合いはありましたが、それは同じ大学や学部として関係しているのではなく、個人として付き合っているという感じでした。
医学部は違います。現在は、以前よりも医局に属して働くのが当たり前とはいえなくなってきているとはいっても、他の学部よりは出身大学とかかわりをもって働いている人は圧倒的に多いです。
卒業後、卒業した大学病院で研修を受ける人はまだ多いですし、研修が終わった後も大学病院や関連病院で働く人も多いです。
今後は、出身大学にとらわれないキャリアが選択できるように少しずつ変わってくるとは思いますが、他の学部のようにほとんど関係がないというところまでになることはおそらく難しいでしょう。
教養課程から一歩間違えたら即留年!
これは私が医学部に入学して最初に驚いたことです。
私は、少なくとも3年生にあがるまで留年は無いと思っていましたし、教養課程の単位は落としても少なくとも1回は再履修するチャンスがあると思っていました。
気づいたときにはすでにリーチ!
私は、1回の再受験で合格できると思っていなかったため、合格発表まで会社に退職することを伝えずに普通に仕事をしていました。合格発表後に退職することを伝えましたが、合格発表から入学式まで3週間ほどしかなく、私がかかわっているプロジェクトの引継ぎをするには時間が足りませんでした。できるだけ迷惑をかけずに退職したかったので4月いっぱいまで働くことにしました。
私は私立大学の文系学部を卒業していて、教養課程は国立大学医学部も文系と同じようなものだと勝手に考えていました。そのため4月中は実習系の授業以外は行かなくても大丈夫だろうと思っていたのですが、これが大きな間違いだったのです。
教養課程の免除科目は、前の大学で履修済みの科目の語学と体育程度で、他の単位は履修しなければいけませんでした。専門科目は夏の病院見学研修だけだったので、前期は実習系の必修科目だけ注意しておけば問題ないだろうと軽く考えていたのです。
会社を退職するまでは有給を使って、週に1~2回だけ実習系の授業だけを受けに大学に行っていました。しかし、ほぼ全ての授業で出席を取っていて三分の二は出席しないと単位をもらえないという噂を、退職間際の4月下旬に聞きました。この噂を聞いたときに、前期の講義の四分の一が終わっている状態で、講義数が少ない講義ではあと1回でも休んでしまったら単位がもらえない講義もあったのです。
講義で出席を取ることや履修して欲しい科目などをオリエンテーションで話したらしいのですが、私はまだ働いていたため入学式やオリエンテーション、健康診断などは全て欠席していたためなにも知りませんでした。
医学生は1年生の時からけっこう忙しい
ほとんどの講義で出席を取っている事実を知ったあとも、いくつか単位を落としても1年生の後期や2年の前期で再履修すればよいと甘く考えていましたが、この考えも大きな間違いだったのです。
シラバスを見ると、2年前期から週の半分以上は専門課程の講義が始まります。午前中に解剖の実習があり、午後は専門課程の講義予定は組まれていない曜日があります。その曜日の午後に再履修できる科目がある場合は、一見再履修できるように思ってしまうのですが、実は再履修できません。
あとで詳しくご紹介しますが、解剖の実習はカリキュラム上では午前中だけですが、実際は夜遅くまで続くので教養科目の講義に出席することはできないのです。実習中に教養課程の講義を受けるために、途中退出を認めてくれる教授も中にはいましたが、基本的には実習中の途中退出は認められていません。
1年の前期に単位を落とすと再履修できないため、留年が決まってしまう科目がたくさんあります。元々、2年生から専門課程が始まるため、他の学部生が2年間かけてとる教養課程の単位を、医学生は1年間で8割ほどはとらなければいけません。そのため1年生の時から、1限から5限までびっしり講義が入っていました。私は免除単位が10単位ほどあったので他の医学生に比べると少しは楽でしたが、ほぼ毎日朝から16時までは講義を受けなければいけませんでした。
私は、ぎりぎりでしたが全ての単位を取ることができたので留年せずに済んだのですが、退職するのがあと1週間遅かったら留年していたでしょう。
再受験生はコミュニケーション力が試される!
再受験で入学した人は、同期の学生に比べると年齢が上なので、どうしても壁ができやすいです。こちらは年下の人とも同じ年の人のように普通に接しているつもりでも、あちらは年上の人と話すことに慣れていない人が多いため、年が近い人に比べると自然と距離ができてしまうことが多いのです。また社会人経験者と高校生から直接医学部に入学してきた人には小さくない差があります。
日本では中高一貫校に通っている人でも、5つ年上の人までしか普段話す機会がないのでしょうがないことなのだと思います。私は入学したのは26歳になる年だったので、同期とは最大で7歳差がありました。もちろん、先輩の大部分も年下でした。
医学部の実習は数人のチームで一緒に行動することが多いので、年下の人ときちんとコミュニケーションを取らなければいけません。相手からコミュニケーションをとってくれることを求めることはできないので、こちらからしっかりコミュニケーションを取るようにしないと様々な点で支障が出てきます。
年齢に関係なく合わない人はいるため、全員と仲良くする必要はないと思いますが、
高校生と社会人経験者の差はけっこう大きい!
高校生からすぐに医学生になった方と、講義や実習のためにコミュニケーションを取るだけならそれほど問題はないのですが、もう少し深く関わると色々と難しいことが出てくることに気づきました。
医学生はものを知らない人が多い
医学部に入学してくるような学生は、高校生の時から社会経験が少ない人が多いです。高校生でも様々な人と話しをして、同年代の人よりも人間的な成長をしている人はいますが、医学部に入学してくるような学生は多くの時間を勉強に割いているので、どうしても視野が狭くなりがちです。勉強ができることが、最も重要なことだと考えているような人が多いのです。
確かに勉強ができる人は多いのですが、ものを知らない人が多く、しかもそれに気づいていないのです。それは、生徒や教授が悪いということではなく、似たような人の中でずっと生活しているので、自分のことを年齢の割にものを知らないと気づきにくい環境にいることが原因だと思います。
まだ20歳前は、他学部の学生や高校を卒業してから働いている人とそれほど差がないかもしれませんが、24~25歳になったときにはかなり差があるでしょう。医師になってからも似たような考え方を持った人の中で生活するので、あまり変わらない人が多いです。
私が6年生のとき40歳ぐらいの医師とふたりになったときに、自分は社会のことを何も知らないでここまで来てしまった。いかに自分の視野が狭く、ものを知らないのか最近になって初めて気づいた、と突然言われたことがありました。この先生のように無知であることを気づく人は気づくのですが、気づかないままの人が多いです。
必要以上の関係を築くことは難しいかもしれない
医学生がものを知らない人が多くても、彼らだけで生きていく分には問題はありません。しかし、社会人が彼らと必要以上の関係を築こうとすると難しくなることが多いです。
医学部に入学してくるような人は、高校生のときには周りから優れていると言われていた人が多いために、自分が優れていると思っている人がけっこういます。しかし実際は周りの人よりも勉強していただけ、という人が多いのです。
同期の人と話していると、なんとも言えない違和感がありました。なにかが変というか、自分とは違う人たちという感じを受けたのです。最初は年齢によるものだと考えていましたが、5浪や8浪して医学部に入学してきた人や、私と年齢が近い医師と話しても、同じような違和感がありました。社会人を経験した人たちと話したときはその違和感がない人もいたのです。
医学生や医師は年齢の割にものを知らない、さらにそれに気づいていないため年齢相応の会話ができない人が多いのです。
また、彼らも自分と同じような知識や経験をした人と一緒にいる方が居心地は良いかったはずです。そのため、社会人経験者が高校から直接医学部に入学してきた人と、必要以上の関係を築くことは難しいかもしれません。
先生の人間性には注意しなければいけない!
医学部の教授と医学生は普通の大学の教授と学生の関係とは少し違います。もちろん学生のうちは、表向きには他の学部と同じように教授と学生です。しかし、卒業後も関係が続くことを考えてしまうのでそういうわけにはいきません。
私は、経済学部で講義を受けた教授の中で顔と名前が一致しているゼミの担当教授以外は1~2人しかいません。しかし、医学部の教授は顔と名前が全員一致しているし、話したこともあります。他の学部に比べると教授と距離が近く接する機会が多いのです。
教授と接する機会が多いということは、自然と教授の人間性を感じる機会も多くなります。教授は講義や実習などで学生の指導をしていますが、学生の指導なんかしたくないと思っていて、それを態度に表してしまう人もいます。人を教えるための研修などを受けてきたわけではないため、中学や高校の先生よりも学生と接するときに人間性が大きく影響すると感じました。
教授の中には、コミュニケーション能力が著しく低い人、自分の好き嫌いで試験の点数を微調整している人、自分の都合で試験当日に中止して翌日に試験を行ってしまった人、再試験に落ちた女生徒に泣いてお願いされて過去10年以上実施したことがない再々試験を実施した人など人間的におかしい人がかなりいました。もっとひどい人もいましたがここで紹介することは控えさせていただきます。
本来なら人間性に問題がある人とは接しなければ良いだけなのですが、教授だとそういうわけにもいかないのです。生徒はその人たちに進級の権利を握られていることを意識して、行動に注意しなければいけません。
もちろん、人間的に素晴らしい教授もいるので、医学部の全ての教授に問題があるというわけではないです。
授業は4限まで!だけど実際は表に出ないプラス4限が存在!
私の通っていた大学のシラバスでは、4限の16時ぐらいまでが授業時間でしたが、医学部は実習があるので時間は関係ありません。
1~6年生までで最も長い授業は、2年のときの解剖実習でした。この実習は、ふたり一組になって約半年にわたり1体の献体を解剖していくのですが、とにかく実習時間が長かったです。
カリキュラム上は、午前中の2限は講義を受けて午後の2限は実習のカリキュラムが組まれていますが、4限の4時で終わることは一度もありませんでした。早く終わった日で8時前、ほぼ10時頃まで解剖実習がありました。延長6時間なので、4限分延長していることになります。
他の実習は、そこまで遅くなることはありませんでしたが、どの実習も1~2時間の延長は当たり前なので、実習がある日はアルバイトの予定などを入れることは難しいかもしれません。
夜10時まで実習して、翌日9時前には大学に行かなければいけない日が週に何度かあったため、自宅から大学まで電車で1時間近くかけて通っていた人は大変そうでした。私は、部屋を借りる時に大学まで20~30分以内で探しましたが、10分以内のところに部屋を借りて良かったです。医学部に合格して部屋を探すときは、できるだけ歩いて10分以内の場所に部屋を借りることをおすすめします。
3~4月は空いている部屋が少ないと思うので、一旦費用があまりかからない部屋を借りてしまい、夏~秋に時間をかけて探した方が良い条件の部屋が見つかるかもしれません。医学生は1年生の時から他学部の学生より忙しいかもしれませんが、2ヶ月間の夏休みはあるため部屋を探す時間はあるでしょう。
ひとりで学部試験をパスしていくことはほぼ不可能!
医学部の定期試験ははっきりいってひとりでパスしていくことは相当難しいです。理由は、試験範囲が広くて勉強しきれないからです。私が通っていた大学では、基礎科目を勉強する2~3年の定期試験が特にきつく、臨床が始まる4年以降は少し楽になります。私の同期で留年した人は、全員1~3年生で留年しました。
私が通っていた大学では2年から専門科目の授業が始まるのですが、前期は解剖学、組織学の講義と実習、後期は解剖学と組織学の実習をしながら生理学と生化学の全範囲の半分が試験範囲でした。それでも2年時は教養課程も少し残っているので、まだ楽なカリキュラムです。しかし、週の半分は夜10時まで解剖実習、残りの日も組織学の実習が7~8時まではありました。これでは平日に勉強の時間はほとんどとれません。
生理学と生化学の試験範囲は、それぞれ教科書200ページ以上あります。試験前に数日勉強しただけでははっきり言って合格するのは厳しいでしょう。試験は記述形式の問題で適当に書いて点をとれることはありません。
試験勉強は過去問の解答作りから始める!
それでも、留年する生徒は毎年数人しかいませんでした。どうやって試験をパスしていったのかというと、何年も伝わってきている過去問を勉強するのです。毎年ほぼ同じ問題を出題する教授も中にはいましたが、半分ぐらい変えてくる教授が多かったです。そのため、過去問を1~2年分勉強するのではなく、その教授が就任してから出題された過去問をできるだけ勉強します。そうすると、70%ぐらいは同じ問題が出題されて試験をパスすることができるのです。学生が過去問を使って勉強していることを承知している教授もいて、どのぐらい変えるか講義で教えてくれる人もいました。
伝わってきている過去問には、ある学年の生徒が作った解答があるものもあるのですが、その解答が正しいかはわかりません。そのため試験勉強は過去問の解答作りから始めます。解答は教科書や講義中に配られたプリントを参考にしながら作っていくのですが、中には教科書に掲載されていない難しい問題も含まれているために図書館に行って調べなければわからないものもあります。
6科目試験があるとすると、少なくとも3~5年分の過去問を勉強するため、20~30回分の解答を作らないといけません。全ての解答作りはひとりでは時間的に難しいため、何人かで手分けして1週間ぐらいかけて解答を作ります。その解答も合っているかわからないため、参考にした文献やそのページのコピーを取って仲間に渡し確認してもらいます。それでも作った解答に確信が持てない場合は、解答作りをしている他のグループとすり合わせたり、先輩医師に質問しに行ったりして、試験数日前には解答を作り終えます。
教授就任初年度で過去問が役に立たない科目もありました。その科目だけは本腰を入れて勉強しないといけません。しかし、少しでも試験の情報を手に入れるため、まず誰が試験問題を作成するのかを知らなければいけません。昨年からいる准教授や講師が問題を作るなら昨年までの問題が参考になります。新任教授が試験問題を作成するなら普段から少しずつ勉強したり、教授が男性の場合は女生徒に試験で出題されそうな問題を探らせに行かせたりして、少しでも試験の情報を得ていました。
6年間で情報が何もない状態で試験を受けたことは、ほとんどなかったと思います。
もし万が一本試験で不合格になってしまったときは、再試験を受けなければいけないのですが、再試験の問題にも色々ありました。再試験は本試験の復習をしていれば合格点が取れる試験、半分程度は本試験と同じで残りの半分を変えてくる試験、本試験と全く違う問題の上に難易度があがっている試験などがありました。
再試験の過去問はほとんどなかったので、どのような問題が出題されるかはわからないことが多かったですが、私は本試験の過去問とその年の本試験の勉強だけでパスできました。
全ての試験をひとりでパスした人は私の知る限りいなかった!
私の同期で、普段誰とも話さないでひとりでいる人がいましたが、全ての試験で再試験になり結局再試験もパスできずに2年生であっさり留年しました。その人は、留年した先の学年でも同じような感じだったらしく、結局2年生1回、3年生2回留年して私が医師になった年に大学を退学していきました。私もひとりだったら、2年生から進級できなくて退学していた可能性が高いと思います。
私の知っている限り、ひとりで卒業できた人はいませんでした。長期休暇にこれから習う範囲の勉強を前もってしたり、授業が始まってから土日に長時間勉強したりすれば定期試験をパスできたかもしれませんが、ただでさえ社会を知る機会が少ない医学生が、より一層人間的に成長する機会を失うことになるためそれはおすすめしません。
医師は、患者とコミュニケーションを取りながら信頼関係を築いていかなければいけないのです。知識だけはあるけど、患者と信頼関係を築けない医師にはなって欲しくはありません。知識はいつでも付けることができますが、経験はその年齢の時にしかできないことも多いです。
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