個人事業が上手く回り始め、売上も大きくなってきた時に悩ましいのが「消費税」ですよね。2019年10月には消費税率が8%から10%に変更になることから、「法人を作ったほうが良いのだろうか?でも面倒そう…」と感じている方も多いと思います。かくいう私も、消費税対策で法人を設立した1人です。

当記事では、

  • 消費税の基本的な取り扱い
  • 個人事業から法人を設立すると非課税期間が延長される
  • 消費税計算の実務と納税方法
  • 中間納税とは

など、消費税の基本知識についてわかりやすく解説していきます。筆者自身も個人事業歴7年を経て新規法人を設立したので、「消費税の取り扱いで悩んでいる」という方は参考にしてもらえれば嬉しいです。

 

1.個人事業の消費税の取り扱いと売上1,000万円の条件

結論から言ってしまうと、個人事業者でも一定以上の売上があれば、消費税を納めなければなりません。消費税納税の対象になっている事業者を「課税事業者といい、逆に納めなくても良い事業者を「免税事業者」と言います。

ただ、多くの個人事業者にとっては、「今後消費税を納めないといけないらしいけど、どんな取り扱いになるの?条件は?」と疑問だらけですよね。初めて課税事業者になるのですから、わからなくて当然です。個人事業者における消費税の取り扱いと条件についてご説明していきましょう。

個人事業でも消費税を納めなければならない

冒頭でも触れたように、個人事業者は消費税納税の対象です。ただし、国には小規模事業者に係る納税義務の免除」(※)という制度があり、これに該当する個人事業者は、消費税の納税義務がありません。つまり、納めなくても良いということですね。

<※参考>
国税庁 第四節 納税義務の免除 法第9条第1項本文
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/01/04.htm

小規模事業者に係る納税義務の免除という制度を活用することで、一定条件に該当する方以外は、消費税を納める必要はないということです。基本的には、「売上が1,000万円以下なら納めなくていい」という認識で問題ないので、ご自身の売上をチェックしてみてくださいね。

注意点として、消費税の判断基準はあくまでも「課税売上」です。売上から経費を抜いた「所得」ではありませんので、気をつけてください。

消費税の課税事業者の条件

ここで気になるのが、「自分は消費税の課税事業者に該当するかどうか」というポイントですよね。消費税課税事業者の条件は、下記のようになっています。

<消費税の課税事業者の取り扱い>

  1. 基準期間(※前々年度の1月1日~12月31日までのこと)の課税売上高が1,000万円超
  2. 前年1月1日~6月30日(※特定期間という)の課税売上高または給与の支払額が1,000万円超
  3. 消費税の「消費税課税事業者選択届出書」を提出している事業者

上記のいずれかに該当している場合、消費税における課税事業者になります。基本的には、①の条件に該当して課税事業者になるケースが多いですね。

②のケースに関しては「半年で課税売上高1,000万円」に該当していたとしても、給与支払額が1,000万円を超えていなければ、課税事業者になりません。したがって、基本的には「年間課税売上高が1,000万円を超えたら消費税の課税事業者になる」という認識で問題ないでしょう。

 

2.消費税と事業年度の関係性。基準は「前々年度の売上」

「課税事業者に該当したので、今年から消費税を払わなきゃ!」と焦る気持ちはすごくわかるのですが、消費税の取り扱いはもう少し複雑です。実は、消費税の課税は「前々年度の課税売上高」で決定されます。この判定期間を「基準期間」といいます。

わかりやすくいえば、売上が1,000万円を超えたからといって、すぐに消費税を支払わなければならないわけではないのです。事業年度による消費税の取り扱いについてご説明しますね。

2年前の売上が1,000万円を超えていると課税事業者になる

当記事内でも触れたように、消費税の課税事業者は「基準期間の課税売上高が1,000万円を超えたかどうか」で判定されることになっています。ただ、この基準期間に1,000万円超の売上があったとしても、翌年度からすぐに消費税を支払わなければならないわけではありません。なぜかというと、消費税の課税事業者になった翌々年度から支払い対象になるからです。文章だと少しわかりにくいので、下記の図をご覧ください。

<基準期間判定による消費税の取り扱い>
期間 2018年1月1日~

2018年12月31日

2019年1月1日~

2019年12月31日

2020年1月1日~

2020年12月31日

2021年1月1日~

2021年12月31日

年間課税売上高 800万円 1,500万円 1,200万円 1,600万円
消費税の取り扱い 免税事業者 免税事業者 免税事業者 課税事業者
基準期間 該当 該当 該当

上記のように、2019年度の課税売上高が1,000万円を超えていると、2021年度には消費税納税義務のある課税事業者になります。つまり、1,000万円を超えてすぐに課税されるわけではなく、2年後から課税になるわけですね。上記の場合、課税対象になるのは2021年度の課税売上高である「1,600万円」です。2019年度の課税売上高である1,500万円に対する消費税を2年後に納めるわけではありませんので、注意してくださいね。

消費税の基準期間による取り扱いは意外と知らない方も多いと思うので、必ず覚えておきましょう。

特定期間で課税事業者だと判定された場合は翌年度から課税

「年間課税売上高が1,000万円を超えたら消費税の納税義務が生じる」とお伝えしましたが、もう1つ課税事業者と判定されるケースがあります。それは、当記事内「消費税の課税事業者の条件」の部分で触れた、特定期間による判定ですね。

特定期間の判定は、

  1. 1月1日~6月30日の課税売上高が1,000万円超
  2. 1月1日~6月30日の給与支払い額が1,000万円超

という2つの基準で行われます。この基準のポイントとして、「課税売上高に代えて、同期間の給与支払い額で判断することも可能」とされています。

つまりわかりやすくいえば、たとえ特定期間に課税売上高が1,000万円を超えていたとしても、支払った給与額が1,000万円以内であれば課税事業者にはならない、ということですね。これも非常に重要なポイントなので、覚えておいたほうがいいですよ。

特定期間による判定の詳細を図解にすると、下記のようになります。

<特定期間判定による消費税の取り扱い>
期間 2018年1月1日~

2018年6月30日

2019年1月1日~

2019年6月30日

2020年1月1日~

2020年6月30日

2021年1月1日~

2021年12月31日

期間中の課税売上高 500万円 1,500万円 3,200万円 3,200万円
給与支払額 300万円 500万円 1,200万円 1,200万円
特定期間の判定 非該当 非該当 該当 該当
消費税の取り扱い 免税事業者 免税事業者 免税事業者 課税事業者

上記のように、課税売上高が半年で1,000万円を超えていたとしても、給与支払額が1,000万円以下の場合には、特定期間の判定は非該当になります。しかしながら、半年間の課税売上高が1,000万円を超えていて、かつ給与支払額も超えている2020年度は、特定期間に該当することになります。この場合、2021年度分から消費税を支払わなければなりません。

特定期間の判定で課税事業者になった場合は、翌年度から消費税が課税されます。特定期間による判定は、基準期間による判定とは課税される年度が異なるので、取り扱いに十分注意しておいてくださいね。

<各判定期間による消費税の取り扱い>

  1. 基準期間による判定…該当した翌々年度から課税
  2. 特定期間による判定…該当した翌年度から課税

課税事業者になったら「消費税課税事業者届出書」を提出しよう

ここまでの内容で、ご自身が課税事業者に該当するかどうかを確認できたと思います。実際に課税事業者に該当した方は、「消費税課税事業者届出書」を提出しましょう。

<参考>
国税庁 [手続名]消費税課税事業者届出手続(基準期間用)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/1461_03.htm

[手続名]消費税課税事業者届出手続(特定期間用)
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shohi/annai/1461_03a.htm

届出書の内容は、基準期間用特定期間用で異なります。ご自身が該当したほうの用紙で申請するようにしましょう。提出期限は「事由が生じた場合、速やかに」とかなりアバウトなのですが、実際に該当してから早々に処理すれば問題ありませんよ。税理士に税務を委託している方は、税理士に頼めばスムーズに申請してもらえるケースがほとんどです。忘れずに提出してくださいね。

消費税の納税を回避する策としての法人化

「今年から消費税も負担か…なんとかならないものかな…」と感じている方もいらっしゃるかと思います。実際、筆者自身も同じように感じていたんですよね。所得税や住民税、国民健康保険料、国民年金、個人事業税など、支払うべき費用はすでにたくさんあるからです。ましてや、それらに加えて消費税による負担が増えるとなれば、ため息の一つもつきたくなるのは当然だと思います。

そんな状況の個人事業者の方は、「法人化」を検討するのも1つの選択肢です。なぜ消費税の課税事業者になったら法人化を検討するのかというと、「非課税期間を延長できるから」です(※)。
※資本金が1,000万円以上の法人はそもそも免税の対象外なので注意

実は、法人の場合も個人事業と同様、課税売上高1,000万円までは免税事業者なのです。もし1,000万円を超えてしまったとしても、課税事業者になるのはその翌々年になります。

つまり、

  1. 個人事業者で基準期間の課税売上高1,000万円を超える
  2. すると翌々年に消費税が課税される「課税事業者」になる
  3. 個人事業の免税事業者である間に、法人化する
  4. 法人化してから2年間は原則として免税

という流れで法人化すれば、免税期間を延長することができるということです。

ただし当然ながら、「節税になるから」という安易な理由で法人化するのはおすすめしません。ご自身の状況で法人化を検討する際は、税務の専門家である税理士に相談するのが確実でしょう。

 

3.法人としての消費税の取り扱い

ここまでは個人事業としての消費税について触れてきましたが、ここから先は「法人としての消費税の取り扱い」についてもご説明していきます。「法人なので、法人における消費税の取り扱いについて知りたい」という方だけでなく、「節税面で法人化を検討している」という方もチェックしてみてくださいね。

法人も売上高1,000万円以下は納税義務が免除される

結論からいうと、法人においての消費税も個人事業とほぼ同様の扱いです。課税売上高1,000万円以下は免税事業者となり、消費税を納める必要はありません。したがって、消費税の取り扱いで悩むのは「課税売上高1,000万円を超えてから」だといえますね。

納税義務者になるかどうかの基準は「前々事業年度」と「前事業年度の特定期間」

法人が課税事業者になるかどうかの判断基準は、

  1. 基準期間による判定
  2. 特定期間による判定

の2通りです。

基準期間に関しては、前々事業年度の課税売上高が1,000万円を超えた時点で課税事業者として扱われます。つまり、課税売上高が1,000万円を超えた年度の2年後から消費税が課されることになるということですね。

対して特定期間による判断に関しては、

  1. 特定期間(前事業年度の開始以後6ヶ月)の課税売上高が1,000万円超
  2. 特定期間中に支払った給与額が1,000万円超

のいずれかで行います。基本的には、1は該当してしまっても2が対象外になるケースも多いので、特定期間の判断に関しては給与額を目安にすると良いでしょう。

もし半年間で課税売上高1,000万円を超えてしまったとしても、同期間の給与支払い額が1,000万円以下であれば、特定期間による課税事業者には該当しませんので覚えておいてくださいね。

消費税が課される年度としては、

  • 基準期間による判定…翌々事業年度
  • 特定期間による判定…翌事業年度

とそれぞれ異なるので、注意しておきましょう。

新規法人で消費税を節税したいなら1期目を7ヶ月以下に

「個人事業から消費税節税のために、法人を設立したい」という場合、特定期間判定に該当すると不利を受けてしまう可能性があります。なぜかというと、特定期間で課税事業者という判定になった場合、翌事業年度から消費税を納めなければならないからです。基準期間による判定なら法人設立後2年間は免税事業者なので、これではあまりお得感がないですよね。

そこで、特定期間に該当しそうな方が法人を設立する際に「取るべき良い対策」があります。それは、「1期目を7ヶ月以下に設定する」という方法です。「なぜわざわざ1期目をそんなに短くするの?」と思われるかもしれませんが、実は「短期事業年度の特例」という扱いがあるからです。

<参考>
国税庁 特定期間の判定より(法9の2④三)
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/22/10.htm

上記の重要部分を引用すると、”「法人設立の日から前事業年度終了日までに6か月の期間がありますが、前事業年度は7か月以下であるためその期間は特定期間に該当しません。したがって、前事業年度の課税売上高による判定の必要はありません。」”と明記されています。つまりわかりやすくいえば、1期目の事業年度を7ヶ月以下に設定するとその期間は特定期間にならないよ、ということですね。

このように、節税目的で法人を設立される場合は、1期目の事業年度を7ヶ月以下にするのも有効な対策になりますよ。参考にしてもらえれば嬉しいです。

 

4.消費税計算の実務と納税方法

ここまでは主に消費税の取り扱いについて触れてきましたが、具体的な実務や納税方法にも触れておきたいと思います。「課税事業者になったので計算方法を覚えておきたい」という方は、要チェックですよ。

消費税の計算方法

消費税の計算方法には、

  1. 通常の計算
  2. 簡易課税制度による計算

の2種類があります。

それぞれの計算方法は下記のようになります。
<消費税の計算方法>

  1. 通常の計算
    売上にかかる消費税額 - 仕入等にかかる消費税額 =納付税額
    (課税売上高×消費税率)  (課税仕入高×消費税率)
  2. 簡易課税制度による計算
    売上にかかる消費税額 - 仕入等にかかる消費税額 =納付税額
    (課税売上高×消費税率)  (課税売上高×消費税率)×みなし仕入率
<事業ごとのみなし仕入率一覧>
事業区分 説明 みなし仕入率
第一種事業 卸売業 90%
第ニ種事業 小売業 80%
第三種事業 農業、林業、漁業、工業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業、水道業など(※) 70%
第四種事業 第一種~三種、第五種~第六種事業に該当しない事業

(飲食店などが該当)

60%
第五種事業 運輸通信業、金融業、保険業、サービス業など

(飲食店、第一種~第三種に該当する事業は除く)

50%
第六種事業 不動産業 40%

(※) 2019年10月1日を含む課税期間から、農業、林業、漁業のうち、消費税の軽減税率が適用される飲食料品の譲渡事業が第三種事業から第二種事業へ変更になります。

簡単にいうと、通常の計算では、課税売上高から仕入れの際に支払った消費税額を差し引くことで算出します。対して簡易課税制度による計算では、具体的な仕入れ額ではなく、「みなし仕入率」を使って算出します。したがって、運営している事業によって有利になるほうを選ぶと良いですよ。

それぞれ具体的にシミュレーションしてみましょう。
<消費税の具体的な計算シミュレーション>
【通常の消費税計算】

  • 課税売上高が2,000万円(税抜)、仕入高1,200万円(税抜)で、消費税率8%と仮定したケース
    2,000万円×8% - 1,200万円×8% = 64万円(納税する消費税額)

【簡易課税制度による消費税計算】

  • 課税売上高が2,000万円(税抜)、みなし仕入率50%、消費税率8%と仮定したケース
    2,000万円×8% - (2,000万円×8%)×50% = 80万円(納税する消費税額)

上記のように算出します。ただ、正確な仕入高を算出するのは非常に煩雑な管理が必要なので、小規模事業者の場合は簡易課税制度を活用したほうが無難ですよ。

簡易課税制度の適用を受けるには、

  1. 基準期間の課税売上高が5,000万円以下
  2. 「消費税簡易課税制度選択届出書」を課税期間開始の前日までに提出する

という2つの条件を満たす必要がありますので、忘れずに手続きするようにしてくださいね。

消費税の納税方法

消費税の納税期限は、個人事業と法人で異なります。基本的な納税方法は指定の納付書を使って納入する形になっていますが、インターネットサイト経由であれば、クレジットカードでの支払いにも対応しています。

<消費税の納税期限>

  • 個人事業者…翌年の3月末まで
  • 法人…決算日の翌日から2ヶ月以内

納税する際は「消費税及び地方消費税確定申告書」を管轄の税務署に提出します。電子申告である「e-tax」でも作成できるので、税務署またはインターネット上で手続きなさってください。

消費税及び地方消費税確定申告書を提出したら、指定の納付書を使って税金を納入することになります。期限が確定申告または決算日に近いので、所得税の申告に併せて計算しておくようにしましょうね。

消費税の中間納付とは

消費税には、「中間納付」という制度があります。これは、直前の確定消費税額が48万円超になった事業者に対し、年度の途中で次年度の想定額を分割で納めなければならないとする制度のことです。

<中間納税の取り扱い>

  1. 直前の課税期間の確定消費税額が48万円以下…中間納付不要
  2. 直前の課税期間の確定消費税額が48万円超400万円以下…中間申告1回+確定申告1回の計2回
  3. 直前の課税期間の確定消費税額が400万円超4,800万円以下…中間申告3回+確定申告1回の計4回
  4. 直前の課税期間の確定消費税額が4,800万円超…中間申告11回+確定申告1回

1回あたりの大体の納付額は、②のケースで前期確定消費税額の50%、③のケースで25%、④のケースで8.3%になっています。わかりやすくいえば、「前回の消費税額と同じくらい納付するだろうから、早めに分割で納めてね」という感じの制度ですね…。

中間納税の納付書は、前回の確定消費税額をもとに算出されて税務署から届きますので、新たに手続きする必要はありません。万が一「前年度の消費税額が高すぎて、今年度とは剥離している」というケースでは、中間申告で仮決算を行い、実際の売上に基づいて納付することも可能です。

「所得税の予定納税と同じように消費税でも事前納付がある」と覚えておきましょう。

 

5.まとめ

売上が大きくなってきた時に、避けては通れないのが消費税です。個人事業で課税売上高が1,000万円を超えたばかりの方は、免税の期間中に法人化を検討するようにしましょう

法人で課税売上高1,000万円を超えてしまいそうなケースでは、通常の計算方法か簡易課税制度のどちらが有利なのか、1度試算してみるのが重要です。通常の計算だとどうしても煩雑な処理が必要になるので簡便な簡易課税を選択しがちですが、税額を比較した上で選択するのがベストですよ。

売上が大きくなるのは非常に喜ばしいことではありますが、それに伴い手続きも増えてきます。可能なかぎり、顧問税理士と密に連携を取りつつ、経営に専念できる環境を整えてくださいね。