「警察の仕事に、やりがいを感じられなかった」と言って、警察組織を去っていく警察官はたくさんいます。
一見やりがいがありそうにも感じられる警察の仕事ですが、実際のところは、疑問を持っている人もいるということです。

将来警察官になりたいという方のなかにも、そんな風に思っている方も多いのではないでしょうか?
そこで、今回は、警察に約3年間勤めていた元警察官の私が、警察の仕事のやりがいについてお話ししていきます。

警察の仕事で、やりがいがないと感じたこと

私が警察官だった当時、仕事をしていてやりがいを感じないと思うことも多々ありました。
しかし、やりがいを感じないと思うことには明確な理由があったのです。

私が警察の仕事をしていて、やりがいを感じられなかった理由についてお話ししていきます。警察官になりたいという学生の質問に答える形式で話を進めていきます。

 

治安のためなのか、実績のためなのか?

警察の仕事をしていて、やりがいを感じられなかった理由にはどんなものがあったんですか?
警察の仕事が治安のためではなく、実績のためにあるように感じたからです。

警察官の責務は、個人の生命、身体、財産を守ることで、仕事の目的は治安を守ることです。
しかし、実際に仕事をしていると、治安のためというよりも実績のために働いているという気がしてなりませんでした。

私が所属していた地域課(交番勤務)の警察官には、以下の実績があり、それぞれにノルマも課せられていました。

  • 犯人検挙
  • 交通違反者検挙(キップ)
  • 少年補導
  • 巡回連絡(管轄内の住民情報を収集)

警察官がこれらの実績をあげるための活動を、「点数稼ぎ」と呼んで嫌う市民もたくさんいますが、これらは紛れもなく治安を守るための活動です。
ですから、私は、警察官に実績ノルマが課せられることは間違っていないと思っていました。
なぜなら実績ノルマがなければ、警察官は誰も治安維持のための活動をしなくなると思ったからです。

しかし、少なくとも私のいた警察署では、実績を稼ぐ行為そのものが目的になっていたように感じたのです。

私のいた警察署では、署長が県下全体で決まっている実績のノルマを引き上げました。
事件や事故が増えているのなら、ノルマが増えるのもしかたありません。
しかし、私のいた署の管轄は治安の良いところで、事件も事故もそう多くなかったのです。
にも関わらず、署の実績ノルマが引き上げられたのは、署長が自分の警察組織内での評価を上げるのが目的だとしか思えませんでした。

署長が私たちに課したノルマは、到底達成できないような数字で、私たちは休憩も休日もなく、必死で実績を稼ぐ活動をしました。
治安のためならまだしも、実績のために働くことに、到底やりがいは感じられませんでした。

 

実績をあげると嫌いな人間が喜ぶ

実績をあげるためだけの仕事には、確かにやりがいは感じられないかもしれませんね。
はい。実績を稼ぐことは市民のためではなく、上司のためでしたから。上司のために働いていると感じたことも、やりがいを感じなかった大きな理由ですね。

先ほどお話しした警察官の実績には、個人実績の他に係実績もありました。
係実績とは、その係の人間全員が挙げた実績の合計で、これにも月ごとにノルマが決まっていたのです。

係実績がノルマに達さないと、係長たちは署長や副署長から厳しく怒られていました。
そのため、長たちは必死に自分の係の警察官たちに実績を稼がせようとしてきたのです。

私は優秀だったわけではありませんが、若手だったためにこき使われて、月間実績は警察署でもトップ5に入ることがよくありました。
係長たちは、実績が稼げない人を働かせるより、稼げる人を働かせたほうが係の実績を稼ぐのに効率がいいと考えたのでしょう。

結果、私は個人のノルマをすでに達成しているにもかかわらず、ろくに休憩も与えられず、係の実績のために働かされ続けていたのです。
私が実績を稼ぐたび、係長たちは喜んでいました。

しかし、ある時、「保身のために私を働かせ続ける係長たちのために、なぜ私が頑張らなければならないのか?」ということに気づいたのです。
私は、ろくに休憩も与えずに自分を働かせる係長たちが大嫌いでした。私が実績を稼げば稼ぐほど、大嫌いな係長たちは得をしていたのです。

そのことに気付いた時、実績を稼ぐことに何のやりがいも見出せなくなり、私は実績を必要以上に稼ぐことをやめました。

 

警察は市民から、よく罵倒される

確かに、嫌いな人のためにやる仕事には、やりがいは感じられませんね。でも、目的はともかく、市民のための仕事にはやりがいも感じたんじゃないですか?
それがそうでもなかったんですよね。基本的に市民は敵だと思っていました。
敵ですか!?何かあったんですか?
警察をやっていると、色々ありますよ。

警察官の仕事をしている時は、市民からいきなり怒鳴りつけられることもよくありました。

例えば、交通違反の取締りをしていた時、通行人が私に近づいてきて、「こんな所で、取締りなんかしてんじゃねえ!」と怒鳴りつけてきたのです。

怒鳴りつけてきた人の話を聞くと、そもそも警察の取締りのしかたが気にくわないと言われました。
交通違反の取締りは、「左折禁止」などの違反場所の近くに立ち、違反している車が来るのを待つという、罠を仕掛けるようなやり方だったので、おかしいと感じている人も多いのです。

交通取締りをしていると、こんなふうに通行人に怒鳴られることはよくありました。

交通違反の取締り以外でも、駐車苦情で市民から怒鳴られることも多かったです。

ある朝、「道に車が停まっていて通れない」という通報があって現場に向かうと、通報者であるトラックのドライバーがいきなり私に向かって、「ここにある車が邪魔で通れねえんだよ、バカヤロー!レッカーしろ、レッカー!」と怒鳴ってきました。
さらに、ドライバーは「俺、あと2時間後にまたここ通っから!それまでにこの車が片付いてなかったら、俺キレっから!」と叫び、別の道に迂回して去っていったのです。

すでにキレている、最初から迂回すれば済む話だったなど、彼の言動には色々矛盾があったように思いました。

このように違法駐車による怒りを警察にぶつけてくる市民は、実に多かったです。

もちろん、通報を受けた以上は、違法駐車を取り締まらなければいけませんでした。
当時は、なぜいきなり自分を怒鳴りつけてくるような人のために仕事をしなければいけないんだと思っていました。

 

警察のスキャンダルを狙う市民もいる

いきなり怒鳴りつけてくるような人のために仕事をするのは、確かに嫌ですね。市民を敵だと思っていたのは、怒鳴られることが多かったからですか?
それもありますが、私のなかでもっと決定的なことがあったんです。

 

私がまだ警察官だった頃、私のいた県内では給油所荒しが頻発していました。
深夜の誰もいないガソリンスタンドに来て、セルフのガソリン給油機を壊し、中のお金を盗んでいくというのが犯人グループの手口でした。

事件を未然に防ぐため、私たちは深夜のガソリンスタンドに車を停め、車内で警備をすることになりました。
しかし、深夜の2~4時頃だったため、当然睡魔が襲ってきました。
警備は上司と2人一組でしており、上司と相談して、1時間ずつ交代で眠ることにしたのです。
私が眠っていると、「何してるんですか?やめてください!」という上司の大きな声で目が覚めました。
寝ぼけながら車の外を見ると、上司が何やら市民ともめているようで、市民はそのまま逃げていってしまったようでした。
上司が車内に戻ってくると、何があったのか教えてくれました。

どうやら私が寝ている間、市民が車に近づいてきて、眠っている私をスマホで撮影しようとしたらしいのです。
上司は身を挺して私の体を隠し、その市民を追い払ってくれたそうでした。
私の係の別の上司も、車内で寝ているところを危うく市民に撮られそうになったようでした。
さらに、別の警察署でも、車内で眠っている警察官の写真がSNSにアップされてしまったようです。

このように、市民のなかには警察官のスキャンダルを狙っている人もたくさんいるということです。
そんな人たちでも、何か事件やトラブルに巻き込まれれば、素知らぬ顔で警察を頼ってくるでしょう。

そう考えると、市民のためになどという気持ちはなくなってしまったのです。

 

困っている人より困った人を助ける仕事

それから警察での仕事に幻滅してしまったのは、最初に思い描いていた理想と現実が全く違っていたことが大きかったですね。
警察になる前はどんな理想を思い描いていて、現実はどう違っていたんですか?
私はもともと、困っている人を助けたいという気持ちで警察官を志しました。でも実際には、困っている人の役に立てる機会はほとんどなかったんです。

私が警察官を志した理由の一つが、困っている人を助けたいというものでした。
事件の被害者の大半は、何も悪いことをしていないのに、加害者のせいでひどい目にあわされてしまいます。

そんな理不尽が許せなかったからこそ、少しでも被害者の役に立ちたいと思ったのです。
しかし事件の被害者が皆、良い人だとは限りません。

なかには高圧的な態度をとってきたり、事件の被害にあった鬱憤をこちらにぶつけてくるような被害者も多かったのです。
被害にあったのは気の毒ですが、だからといって他人に当たり散らしてくるような人を、助けたいとはとても思えませんでした。

さらに警察の仕事をしていて思ったのが、警察は困っている人というより、いわゆる「困ったちゃん」のために働くことが多いということでした。

昼から酒を飲んで、泥酔した状態で街に出て、通行人に絡んだり、奇声を発する人。
警察に嘘の通報をしてくる常習者。
構ってくれる相手がいないからと、毎日くだらないことで警察に通報してくる、通称「110番マニア」

警察の仕事をしていると、こうした人たちによく出くわします。
特に110番マニアは、毎日何回も通報してくるため、仕事のたびに顔を合わせることになります。
そうなれば必然的に、彼らのために仕事をする時間が長くなるのです。

こうした人たちのために、私は警察官になったわけではありません。
しかし現実は、こうした迷惑な人たちのために仕事をしなければなりませんでした。
この現実は、私から警察の仕事のやりがいを大きく奪っていきました。

警察の仕事でやりがいを感じたこと

ここまで警察の仕事をしていて、やりがいがないと感じたことをお話ししてきましたが、警察の仕事にやりがいを感じたこともあります。

ここでは警察の仕事をしていて、やりがいを感じたことについてお話ししていきます。

市民から感謝してもらえることもある

ここまでのお話を聞いていると、警察の仕事にやりがいなんてないと思ってしまったのですが…
そんなことはありませんよ。警察の仕事にやりがいを感じた瞬間もありました。

先ほど説明したように、警察の仕事をしていれば、自分にとって嫌な市民に出会うこともよくありました。
しかし、同時に、善良な市民と出会うこともあったのです。

そして、善良な市民の役に立てて、感謝してもらえた時は、自分の仕事にやりがいを感じられました。

私が警察官だったころ、ATMに置き忘れたお金を盗まれてしまった被害者がいました。

私はその事件を捜査して、犯人を見つけ出し、盗まれたお金を取り戻せたのです。
警察署の管轄内だったので、私は被害者の家までバイクで訪ね、お金を返してあげました。
その時は台風だったのですが、被害者の方は「こんな雨のなか、わざわざ届けていただいて」ととても感謝してくれたのです。

私はもともと、困っている人の役に立ちたいと思って警察官になりました。
ですから、このように困っている人の役に立てて、感謝してもらえるのは何よりのやりがいだったのです。
ただし、善良な市民にかぎりますが。

 

警察官は案外モテる

それから、少し下世話な話になってしまいますが、警察官は案外モテるんですよ。
えっ!そうなんですか?
はい。仕事中に応援してもらえることもたまにはあるので、それもやりがいと言えるかもしれません。

もしかしたら意外に思う人もいるかもしれませんが、警察官はけっこうモテます。
もちろん警察官になったからといって、それまでの女友達から急にモテるようになるわけではありません。

しかし警察の制服を着て仕事をしていると、市民女性から声をかけられることもあるのです。
私はモテるタイプではありませんが、警察での仕事中に、2回逆ナンされたことがあります。

そのうち一人は、私が扱った事件の被害者の関係者でした。
仕事中に市民に連絡先を教えることも、事件の関係者に手を出すことも、もちろん警察ではご法度です。
もし上司にばれたら、処分されるかもしれません。

しかし私は悩んだ挙げ句、2回とも相手の女性に連絡先を教えました。
さらに、そのうちの一人、事件の被害者の関係者の女性とは、その後付き合うことになったのです。

上司には黙っていましたが、仲の良い先輩にその話をしたところ、上司の耳にも入ってしまいました。
上司からは「クビを覚悟しておけ」とまで言われましたが、結局署長の許可を得て、処分されずに済みました。
処分されなかったことは、奇跡と言っていいかもしれません。

このように警察では、仕事で知り合った市民と表立って付き合うことは難しいですが、こっそり付き合うという手もあります。
少し下世話な話ではありますが、市民女性にモテるということは、警察の仕事をするうえでのやりがいにもつながるのではないでしょうか。

まとめ

警察官をしていて、警察の仕事にやりがいがないと感じたことはたくさんありました。
本来治安を守るためのはずの活動が、実績や上司の評価のための活動になっていたからです。

市民のためにという思いもありましたが、警察の仕事をしていて出会う市民のなかには、嫌な人も多かったです。
こちらの姿を見つけるなり、いきなり怒鳴りつけてくるような人や、面白がって警察のスキャンダルを写真に撮ろうとする人もいました。

しかし、警察の仕事で出会うのは、なにもそんな嫌な市民ばかりではありません。
なかには、警察の仕事に感謝してくれるような、善良な市民もたくさんいます。
そして、そうした善良な市民の役に立てて、感謝してもらえた時は、警察官としてのやりがいを大いに感じられました。

これから警察官になるという方は、実際に警察の仕事をしてみれば、やりがいを感じられないと思うことも多いかもしれません。
しかし善良な市民の役に立てれば、きっとやりがいを感じられるはずです。