IT企業に限らず多くの企業では新人研修制度を設けています。新社会人は生まれたての子鹿と同じで右も左もわかりません。そこで、会社が社会人にとって必要最低限のマナー、知識、スキルを身につけさせるために行われるのが新人研修です。
ここでは、IT企業での新人研修がいったいどういうものなのか、私の体験をもとに解説していきます。IT業界の研修が不安な方、独学でプログラミングは身につけておくべきなのか、どのくらい大変なのか気になる人は、ぜひ参考にしてみてください。
IT企業の研修制度は大変?
はじめに言っておくと、IT企業の新人研修は特別大変ということはありません。たしかに、一般的な企業と比べるとIT企業の新人研修は特殊なことをやります。私は文系出身でSEとして働いていましたが、新人研修で挫折しそうになったとか、どうしようもない壁にぶつかったとかいったことはありませんでした。
もちろん、それなりの大変さもありますが、同期と一緒に取り組むことで楽しく過ごせましたし、新しい知識やスキルを身につける日々は刺激的でもありました。言い方は悪いですが、学校で勉強するのと変わりません。しかも、それでお給料までもらえてしまうのですから、こんなに良いことはないのではないでしょうか。
新人研修の目的
新人研修は社会人としてのビジネスマナーはもちろんのこと、コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力を鍛えることが目的です。そのほか、企業の業務に関する知識やスキルを数ヶ月という期間で習得していきます。
新入社員は同じ部屋に集められ、一緒にさまざまな課題に取り組むことで仲間意識、会社への帰属意識を育んでいきます。新人研修には企業内で専用のチームが編成され、新人と一緒に朝から晩まで研修を行っていきます。
ある程度しっかりした企業ならかなりの人員とお金をかけて新人研修を行います。企業がそれだけのリソースを割いてでも新人研修に力を入れるのは、ここでしっかり新人を鍛えて10年、20年に渡って長く企業に貢献してくれる社員を育成するためです。
IT企業の研修制度はどこにでもある?
新人研修というのはどこの企業でもあるのかというと、実はそうでもありません。さきほど説明したとおり、新人研修というのはかなりのお金がかかります。会社に新人を育てるだけの余裕がなければ研修制度を設けることはできません。そのため、新卒側としてもある程度の人数と体力がある企業を選ぶようにしないと研修を受けられないということを考慮しておかないといけないでしょう。
研修期間はどのくらい?
新人研修といっても会社によってその内容はさまざま。2週間程度で終わってしまう会社もあれば、3ヶ月間、長ければ半年間、みっちりと研修を行う会社もあります。入社したらろくに研修も受けられずに現場に配属されてしまった、みたいなことは絶対に避けるためにも、その会社がどの程度研修に力を入れているかは、先輩社員に聞いておいたほうが確実でしょう。
また、研修が受けられるのは新卒の社会人だけと考えておきましょう。中途でも研修がある会社もありますが、それはごく一部です。中途採用は基本的に即戦力として採用されますので、一から丁寧に手取り足取り教えてもらえるのは新卒の時代だけです。
では、私が受けた研修内容を参考までにご紹介していきましょう。
私が受けた研修の流れ
私が受けた研修は以下の流れでした。
- ビジネスマナー研修
- パソコン研修(ツールのインストールや設定)
- 座学研修
- プログラミング研修
- メンターとのメール研修
- 共同制作
順番は多少前後しますし、同時進行していたものもあるのですが、基本的にはこのような流れでした。1つずつ見ていきます。
ビジネスマナー研修
社会人の基礎中の基礎でもあるビジネスマナー。IT企業は自由な社風があり、ざっくばらんな対応をしても怒られない会社もあるにはあります。しかし、自社から一歩も出ずに仕事をする人はいません。
外部の人間に接するときは必要最低限のビジネスマナーは身につけておかないと、自分だけでなく会社の信用も傷つけてしまう事態にもなりかねないのです。挨拶や名刺交換、電話対応は同期メンバー同士で模擬練習を重ねました。
<難しかった点>
私はとくに敬語が苦手だったので、言い慣れない言葉を噛んでしまうことが多かったですね。敬語が苦手!という人はとにかく口が慣れるまで回数をこなすことです。そうすれば自然と出てくるようになります。
あとは苦手だったのは電話対応ですね。私の会社では新人は部署に配属されたら電話のそばの席につくことが多かったです。電話が鳴ると出るのが怖くて仕方なかった覚えがあります。とはいえ、鳴りっぱなしするわけにもいかないので、勇気を出して対応していました。
考えてみたらやることは別に難しくないんです。要件を聞いて取り次ぐだけなんですから。
パソコン研修(ツールのインストールや設定)
パソコンをどのように使うかも研修では学びます。まずは、アカウント作成に始まり、Microsoft Officeやメーラーなどのインストールと設定、ネットワーク設定を進めていきます。パソコンに不慣れな人もいるので、かなりゆっくり丁寧に進んでいきました。
<難しかった点>
私は学生時代に結構パソコンを使っていたのもあり、インストールや設定では苦戦しませんでした。パソコンの設定では、基本に忠実に進むことが鉄則です。手順書とは違うメッセージが出ているのに無視して進んでしまう人はよくつまずいていましたね。
SEをやっているとさまざまなツールをインストールすることがありますが、めんどくさくても素直に進むことが結局は最短ルートになることが多いです。ちょっとした設定の確認を怠ったために、のちのち重大なエラーになってしまうなんてこともあります。
座学研修
座学ではシステム開発に必要なロジックの考え方や、フローチャートを使ってシステムロジックを考えることなどをやりました。フローチャートというのは、システムのアルゴリズムやプロセスを記号で可視化したものです。詳しい話は調べていただいたほうがわかりやすいので割愛しますが、システム開発の基礎能力といえるのがフローチャートです。SEはみんなフローチャートが頭の中に思い浮かべながらシステムの話をしています。
<難しかった点>
フローチャートを考える課題がたくさん出たので、はじめは電卓や多数決の仕組みなどの簡単なものから始まりますが、次第に高度で複雑なシステム、たとえばボーナスの支給額の計算といったものになっていきました。
最初は意味がわからないような問題でも少しずつ論理立てて考えることで脳がロジカルに物事を考えられるようになっていきます。この思考能力はSE以外の仕事をするようになった今でも非常に役立っていますし、頑張って乗り越えただけの価値はあったと思います。
プログラミング研修
プログラミング研修はC言語を学びました。ここまで来ると内容も高度で難しくなっていきます。C言語はプログラミングの基礎中の基礎といえる言語です。これが分かれば大抵の言語はその応用でしかないので、その後のプロラミング習得でも役立ちます。
また、C言語をコンパイルして実行するための環境としてはLinuxサーバーが指定されていたので、LinuxコマンドやLinuxでは定番のViエディタのコマンドも合わせて学習しました。
いわゆるif文やfor文といったものの仕組み、メモリ操作のポインタなどいよいよIT系の研修と思えるようなものになっていきました。
<難しかった点>
C言語学習で多くの人が壁にぶつかるのが「ポインタ」です。メモリを操作するコマンドなのですが、これが複雑怪奇で一般人に説明しても理解できる人はほぼ皆無といえる代物です。私もこの壁に見事にぶつかりました。
幸い、業務でC言語を使用することがなかったので助かりましたが、研修期間中は苦しめられた覚えがあります。理解が早い同期の助けを借りながら頭から煙を出しながらプログラミングしていました。
いまではあまり初心者向けにおすすめされる言語ではなくなりましたが、組み込み系(携帯電話のハードウェアシステムの開発)などのプロジェクトではC言語がいまだに使われていますので、人によっては避けて通れない言語になります。
メンターとのメール研修
私が入った会社ではメンター制度を導入していました。メンターというのは新人をサポートする先輩社員のことで、研修中の悩みや問題点を相談にのってアドバイスをするのが役割です。相談だけでなく、実務ではどのようなことがあるのか、この先どのようなことに気をつけたほうがよいのかなどをアドバイスしてくれます。
このメンターに対してその日の所感や研修の進捗状況などを日報という形で報告していきますが、書き方や言葉遣い、書式などメールの送り方も添削してもらいます。とくにひどいメール内容を書くと次の日に「悪い例」として全員の前で紹介されてしまうので手が抜けませんでした。
メールはメンターと研修担当チームだけでなく、各部署の責任者宛にも送信する必要がありました。なかには送信先を間違えて会社の役員に送ってしまって問題になったり、全社員のメーリングリストを入れてしまったりする人もいました。
<難しかった点>
メール研修では厳しくも温かい先輩のご指導のもと、メールの書き方、送り方を学んでいました。今思うと、自分で思考する力がないと日報というのは書くのが難しいものだと感じています。
常に疑問を持つクセをつけておかないと、問題点が浮き上がってこないのです。問題を問題だと思わなければメールで報告することもできませんので、疑問を感じる訓練は日頃からしておいたほうが良いと思います。
共同制作
研修も最終段階になると、同期メンバーでの共同制作に入ります。複数のチームに分かれて、簡単なシステム開発にチャレンジするわけです。この共同制作ではチームメンバーと相談しながらアルゴリズムを考え、そのアルゴリズムを元に設計書を作成し、実際にプログラミングしていくという、本番さながらの手順で進めていきます。
アルゴリズムをフローで書いて、それをレビューしてもらいブラッシュアップさせていくだけでなく、簡単な設計書も作成します。最後にそれを元にプログラミングをして終了です。本来であればテスト工程もあるのですが、期間的な問題もあったためプログラミングまでとなりました。
こうして、本番に近い環境でシステム開発を体験することで、チームワークの大切さ、1つずつ工程を進めていく癖を体に叩き込むのです。
<難しかった点>
人が複数人集まると問題が起こります。お互いの主張がぶつかったときに、そのエネルギーを正しい方向に向けなくてはいけません。ただの言い争いではなく、建設的な話し合いにするのには結構骨が折れました。また、誰かがミスをしたとき、必要なのはミスを追求することではなく、現状を正確に把握してその対策を練ることです。
SEという職業はパソコンと向き合ってばかりの仕事だと思われがちですが、意外なことに人と話をしている時間も同じくらいある仕事なのです。新人同士ではなかなかうまく行かないもので、険悪なムードになったこともありました。
実体験をもとに研修内容を思い返してきましたが、私が考える研修のメリットを挙げてみました。
研修を受けるメリット
研修を受けるメリットというのはいくつもありますが、その中でも私がとくに感じたメリットをご紹介していきます。
同期との絆を強くする
一人前になるとさまざまな年代の社員と仕事をしていくことになりますが、その中でも同期の存在というのは特別なものになります。それは、新人研修を一緒に乗り越えたという固い絆があるからです。
春まで学生だった新社会人にとって、社会人生活というのはあらゆる面がはじめてのことです。そんな中、同期入社の仲間の存在は、苦しい時期を乗り越えるために非常に重要になります。励まし合い、切磋琢磨することで絆が生まれ、ほかの社員とは少し違う連帯感が出来上がるのです。
IT素人が知識とスキルを身につけられる
少し前まで、パソコンは論文を書いた程度しか使ったことのなかった人間が、3ヶ月の研修を乗り越えるとITに関する知識とスキルを身につけられるというのはかなりすごいことです。
最近はプログラミングスクールでも未経験の方が3ヶ月でIT企業に転職できるだけの知識とスキルを身につけられるそうです。プログラミングというのは3ヶ月本気で取り組めば習得できるものだということですね。
未経験の人であれば、なおさら研修制度の整った企業に就職することが大切になります。
プロジェクトの進め方を疑似体験できる
実際にどのように業務が進むのかを疑似体験しておくことはとても大切です。配属後にあたふたしないで済みますし、自分が次にどう動くべきか、いまプロジェクトはどのフェーズにあるのかを理解することができます。
とはいえ、研修制度があるような企業であれば、配属後はOJTになるところも多いでしょうから、なにかあれば先輩社員に頼れば良いです。
ビジネスマナーを身につけられる
ビジネスマナーというのは一朝一夕で身につくものではありません。そのため、新社会人になったタイミングで研修しておくのは意味があります。たまに、初対面なのにぞんざいな態度を取ったり、くだけた言葉遣いをする方がいたりしますが、彼らはしっかりと研修を受けずに年を取ってしまったのだと思います。
最初にしっかりとした基礎を身につけておかないと、下手すると一生ビジネスマナーのできない社会人になりかねないのです。IT系だから無礼でも仕方がないと考えているのであれば、まずはその考えを改めるべきでしょう。
あまりマナーにうるさくない会社であっても、ビジネスマナーには気を配れる大人になることをおすすめします。あなたが、一生その会社で働き続けるかはわからないのですから。
ロジカルシンキングの基礎が身につく
SEにとって一番大切な素養の1つがロジカルシンキング(論理的思考能力)です。これができないとシステムのアルゴリズムを考えることはできません。また、物事には原因と結果があります。システム障害(バグ)が発生したときに原因を解明し、その対処を行うためにはロジカルシンキングが必要不可欠です。
そのため、研修期間を通してロジカルシンキングを叩き込まれるのは非常に意義があります。私の同期にもロジカルシンキングが苦手で最初はすぐに頭が真っ白になって手が停まっていた人がいました。しかし、彼も研修卒業後、SEとして数々のプロジェクトで活躍しています。
プログラミングの力がつく
私の入ったSIer企業は独立系だったので、SEでもプログラミングを行います。そのため、C言語というベース言語を学ぶことができました。その後、C#、Java、PHPなどの言語も学んでいきましたが、それらはすべて応用でしかありません。そのため、とくに苦労もしませんでした。
いまは独立してライティングなどの仕事をしていますが、そこでもプログラミングスキルは活かされています。プログラミングは本当に便利な技術です。単純作業は人を雇わなくても機械に任せてしまえばいい、しかも早くて正確です。
たとえSE以外の仕事でもプログラミングができるというのは一般企業でも大きな武器になるはずです。
研修を受けて思ったこと
企業研修というのは知識やスキルを学ぶという以前に、社会人の心構えを鍛え直す場所だと思います。ついこないだまで学生だった人間が、いきなり社会人の責任感や自覚を持てといわれても難しい話です。そういうメンタル部分を鍛えるためにも研修というのはある程度厳しい環境のなかで行われるべきだと思います。
私の同期の中には研修中に辞めてしまった人が何人かいました。ある人は「夢を諦めきれない」という理由で、ある人は「ホームシック」、またある人は「厳しい研修に耐えきれずに」辞めていきました。
最近では気に入らないことがあるとすぐに辞めてしまう人が増えたようですが、研修も乗り越えられない人が、これから先厳しい業務に耐えられるわけがありません。困難があれば逃げるのではなく、乗り越える。こうすることで人間は成長することができるのです。
私が受けた研修は、研修リーダーが非常に厳しい方でした。いわゆる鬼教官タイプの方で、毎日怒号が飛ぶような研修現場でした。でもそのおかげで、配属先は逆にラクに感じられたのを覚えています。精神的にも鍛えられましたのでしょうね。
また、何も知らない新人が大失敗をして、会社の信用を失墜させてしまった、みたいな話はよくあります。そういった失敗事例と、失敗した場合の影響を学ぶ場としても研修は有効です。
自分のミスが自社にしか迷惑がかからないのであれば良いですが、企業というのは営利団体で、外部になんらかの形でサービスを提供してその対価を受け取っています。つまり、なにかミスをすれば少なからず外部の人間やお客様に迷惑がかかるということです。そういった心構えを持ち、慎重かつ迅速に作業をする「クセ」をつける、その最初の場が研修なのです。
最後に、これからIT企業に就職して研修を受ける予定の人にアドバイスを送ります。
研修を乗り切るためのアドバイス
研修を乗り切るためにいくつかアドバイスをしておきます。これだけおさえておけば、大きく苦労することはないはずです。
- 研修を楽しむ
- 同期と遊ぶ
たったのこれだけです。
研修を楽しむ
本来、研修というのは新しい知識と経験を積むことができる素晴らしい場です。そんな機会を得られるのは新人のときだけ。しかも、いろいろと教えてもらいながらお給料までもらえるのですから、こんなに最高な場はありません。
日々、自分がレベルアップしていることを楽しんでください。「今日はネットワークについて理解が深まった!家のネットもいじってみよう!」「今日はC言語の開発環境の構築ができた!自分のパソコンでもやってみよう!」など好奇心を持ちながら、自分の周りに応用する姿勢はとても大切です。
実は、SEというのは好奇心が強い人のほうが向いています。新しい技術を吸収したら試して考察するということを日頃からやっているので吸収も早いのです。
同期と遊ぶ
研修は辛い、研修は大変と思いながら挑んだ人の研修は辛くて大変なものになります。しかし、そういうときほど支えになるのが同期の存在です。ときには悩みを相談し、ときには愚痴を言い合い、ときには遊びに行く、こうして積極的にコミュニケーションをとることで研修はどんどん楽しいものになります。
私は研修中よく遊んでいました。飲みに行って研修の話をしましたし、BBQや温泉旅行を企画して遊びに行きました。趣味の合うメンバーとは四六時中行動を共にしていたおかげで、自然と辛いという感情は湧いてきませんでした。
それでも本当に研修が辛い、会社を辞めたいと思うのであれば止めはしません。心身を壊してまで続けるものではないからです。日本人は耐え忍ぶことを美徳としますが、人生でいちばん大切なことは、自分の人生を楽しむことです。会社のために自分を殺すことではありません。私の周りにも心を病んでしまい、休職、退職してしまった人が何人もいます。武士のように主君に仕えて命をかける必要はありません。
しかし、私の経験上、たかだか3ヶ月程度では人の心は壊れません。もっとゆっくり、時間をかけて心身バランスは崩れていくものです。なので、正直な話、研修期間中くらいは無理して頑張っても大丈夫です!それで研修期間を乗り越えればOJT、現場配属という形でどんどんできることが増えていきます。
これからあなたが学ぶものは間違いなく一生モノの知識と技術になります。乗り越えた先には大きな可能性と未来が広がっている、そのことを楽しみに研修を乗り越えてくださいね!
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