研究職の転職後の心構えとは!体験したからわかることとは?

研究職
私の場合には学習能力が低いから2回も3回も転職することになったということもあるのかもしれませんが、複数回の転職経験から、転職によって苦労したことも分かりますし、「ああすればよかった」、「こうすればよかった」、「これができたのは大きかったなぁ」など体験したからこそわかる幾つかの心構えや退職時に諸先輩からいただいたアドバイスなどもご紹介させていただければと思います。

最初から辞めることを考えて転職する人はいませんし、どんな人でも新しい職場で心機一転頑張ろうと意気込んで働くはずです。
しかしながら、その意気込みが空回りしてしまって、新しい会社に馴染むことができずに存在が浮いてしまうという可能性もあります。

浮いている程度ならば良いですが、社内の事情も分からないうちからあまりに出しゃばった発言をすると反感を買うという可能性もあるかもしれません。
新卒採用の社会人一年生ならば大目に見てくれるということもあるのかもしれません。しかしながら、社会人経験のある中途採用者の場合にはそうはいかないということもあります。
中途採用者が自分の上司となる管理職であるならばなおさらで、「わけも分かっていないのに何を偉そうに・・・」と反感はさらに大きなものとなってしまうでしょう。
そして、この傾向というのは、研究職に就く研究者においてより強いのではないかと思いますし、入社してから比較的早い段階で発言する機会も多くなるのではないかと思います。

結論を申し上げると、転職先では自分の研究能力をアピールするのは行動を中心に行い、新しい職場における同僚や人間関係などの情報収集や人脈づくりに注力することをおススメします。

研究職は新しい理論や知見を見出すことが仕事になりますので、他の人より論理的な考え方をする人が多く、研究職に就くような研究者は白黒はっきりさせる、すなわち、グレーの存在を認めない傾向にあるように思います。
明らかにするためにどんなことでも正論を唱える姿勢は研究者にとっては当たり前のことかもしれません。
しかも、研究者というのはプライドの生き物と言われることもあり、自分のやってきたこと、あるいは、自分の出した結論に誇りを持っていますし、それは相手も同じです。
ところがが、研究者といえども人間ですので痛いところを突かれれば「ムッ」とすることもありますし、研究の方向性が良くなるように発言したはずの意見が思わぬ不協和音を産み出してしまうこともあります。
私だけなのかもしれませんが、若い頃は、着任して1ヶ月も経たないうちにその場で言わなくてもよいようなことが思わず口から出てしまうということはよくありました。
期待されて入社したのだからその期待に応えるべく張り切ってしまって、組織内の事情や社内の雰囲気などを考えずに、すなわち、空気を読まずに会社からの期待に応えるべく自分の能力を鼓舞するかのように発言してしまっていたのかもしれません。
言い方にも問題があったのではないかと思います。「そのデータはおかしいのではないですか?」というのと「私はそのデータについて〇〇のように思うのですが、いかがでしょうか?」というのでは、意味は同じでも聞き手にとってのニュアンスは大きく異なってきます

いくつもの転職をした関係上、組織にもいろいろありますし、状況に合わせて「転職先でうまくやっていくにはこうするべきではないか?」といった経験もしてまいりました。
あくまで個人的見解ではありますので賛否両論あるかとは思いますが、一提言として捉えていただければと思います。

 

企業の研究は一人でするものではなくチームで行うもの!

会社の研究というのは一人でするものではなく、研究部門に所属する研究員の各専門性を活かして協業・分業によって行われています。場合によっては、複数の部署が連携するようなプロジェクトといった形になるということもあります。
一つの研究を一つのチームで行うことによってスピードアップが期待できるわけですが、定期的にミーティングを行い、情報を共有しながら担当者全員で研究方針を定めたり軌道修正していくことになりますので、自分で決定していた学生時代と異なり、研究担当者間の連携、すなわち、チームワークは大切です。
言い換えるならば、複数の研究者で行う研究では各担当者の意見が存在し相手の見解も尊重しながら研究を進めていく必要があるというわけです。

一方、大学における学生時代の研究は一つのテーマに対して一人、最大でも、博士課程、修士課程、学部の3人の学生が担当して研究を進めており、博士課程に進学した学生に至っては5年以上も一つのテーマに少人数で研究することになります。
簡単に言えば、長期にわたって自分の出した結果が全てであるという研究をしていることになり、自分の出したデータや結論に自信をもって研究してきているわけですので、複数の研究者が一つの研究に着手するということに不慣れな面があるかと思います。
特に、大学時代の研究形態が普通であると思い込んでいる若い研究者は、企業のチームで行う研究になかなか馴染めないということがあるのかもしれません。

意見を言ってはいけないというわけではありませんが、相手の見解を尊重するような発言の仕方に気を遣うべきかと思います。
賛否両論あり、「そんなことは言われなくても分かっている!」という方も居られるかもしれません。もちろん、分かっていれば良いのですが、研究内容に関わる話となると力が入ってしまうという傾向があり、博士課程まで進学している方はその傾向が強くなってしまうのではないかと思う次第です。
ちょうど、自分の研究成果を発表する学会発表などの質疑応答において相手の意見を聞いて回答するような感じをイメージしていただくと分かりやすいと思いますが、転職して心機一転で張り切り過ぎて発言が過激にならないように毎日が学会発表であるように認識して行動するくらいがちょうど良いのかと思います。

 

管理職として転職する研究者は部下にも気を遣うべきでは?!

管理職として転職する中高年の研究者の場合も同じですが、企業の研究は一人で行っているのではなく、むしろ、一人では何もできないということを認識することが大切です。
管理職は研究以外の雑務も多く、むしろ、自分で研究する時間はあまりないと考えた方が良いと思います。
すなわち、部下が実験して得られたデータをもとに研究成果を判断していくわけですので、そこに信頼関係がなければ成り立たないということになります。

上司、あるいは、経営者は面接や履歴書などを通じて転職者の人柄や能力は分かっていますが、部下になる人には事前の情報というのはほとんどなく、入社してからしばらくの間は手探り状態が続くことになります。

そのような状況下で、外から入ってきた研究者がいきなり自分の上司となるわけですから、人柄も何もわかない状態のときにいきなり強気の発言を連発されては「この人は何様?」ということを感じるところはあっても、「凄い人だなぁ!」と尊敬されることは無いように思います。

私自身に置き換えて考えると、若い頃は社会人になったという自覚が少なく自己アピールばかりが先になっていたように思います。特に、社会人としての経験が浅い間は周りの人の心情や立場に対する配慮に欠けていたような気がします。
また、管理職として転職した職場では、私の研究分野が製造にかかわる応用研究ということもあり工場でモノづくりをする方たちとも親密に仕事を進めていく必要がありましたが、工場で働く管理職、いわゆる、「たたき上げ」と呼ばれるような方と親密になりいろいろなことを教えてもらえるようになるまでに3ヶ月はかかりました。
後から、現場の方に聞いた話では、「何人かが同じような形で採用されてきましたが、現場にスーツで入ってきて分かりもしないのに勝手な意見を述べているのにムカッとした。」といったような話も聞いたことがあります。
また、研究部門の部下からは、「以前勤めていた会社では・・・」という前職を鼓舞するような口癖が気になったということも聞きました。

確かに、部下にしても上司にしても転職者がいきなり高飛車にでるというのは反感を買ってしまうかもしれません。

謙虚な姿勢で相手と接することが人間関係を構築する上で重要であるということは当たり前のことですが、博士という学位を取得している研究者や大企業の研究職を経験してきている研究者は当たり前のことを時々忘れてしまう可能性があるのではないかという話です。

現場の人と親密になるのに3ヶ月はかかったということですが、それっていつまで配慮すればよいとかはありますか?

相手次第ですのでどのくらいの期間という確かなことがあるわけではありませんが、明らかに嫌われていると分かっていても、現場に日参してその人たちと同じように作業をしていく中で経験を積み上げることで信頼関係を築いていくことができるのではないかと思います。
特に、工場の現場の管理職の方の中には高校を卒業してすぐに就職して長期にわたり同じ現場で働いてきているという方も多く、理論よりも経験を優先するという方も少なくありません。
一度、信頼関係が構築できると、多少厳しいことを言っても笑い話で済むということもありますし、その発言によって良い方向に進んだときには信頼関係が強くなるということにもつながります。

 

頭に浮かんだことをすぐに口に出さない!

頭脳明晰で物事を論理的に考える研究者はインプットされた内容から結論を導き出すことに長けており、博士や修士の学位を持っているような研究者は間違っていることをその場で指摘してしまうということもあるかもしれません。

これも当たり前のことですが、頭に浮かんだ言葉をその場は飲み込み軽く流しておいて、話すタイミングや伝え方も含めて熟考してから伝えるということをおススメします。
熟考する際に相談できるほど信頼できる同僚や先輩がいるのであれば相談して、周りを固めてから行動に移すことができればさらに良いかと思います。

特に、権限のない若い間は無理して発言しても評価が下がるだけ損なわけですし、そんなことを繰り返しているうちにメインの研究から外されるようになり、転職を考えてしまうきっかけになる可能性もあります。

もちろん、論理的に正しければ損得を考えずに発言するということがポリシーというのであればそれでも良いのかもしれませんが、テレビドラマの熱血教師のようにハッピーエンドになるとは限りません。
私の場合、頭では分かっていても黙っていることができず、それがもとで居づらい状況になってしまうこともありましたし、私のことを庇ってくれていた上司から「君の言っていることは確かに正論であると思うが、正論が必ずしも正義というわけではない」ということを言われたこともあります。

 

見る人は見ている研究職としての実力

研究の方向性が間違っていると判断されたときには、可能な限り早い段階で軌道修正することが研究の円滑な進展につながるわけですが、チームで研究する企業の研究職と個人で行う学生時代の研究では軌道修正するタイミングが異なっているように思います。

確かに、早い段階での軌道修正は効率的に研究を行う上で重要なことではありますが、チームで行う企業の研究では間違っているということも全体で共通認識する必要があります。

回り道になるのかもしれませんが、研究の方向性が間違っていると思っていてもひとまずそのまま進めて、間違っているということを証明するというのも一つの研究手法かと思います。
簡単に言えば、研究者としての能力は発言という形でアピールするのではなく、実験という行動でアピールするというわけです。

そのことを「なんて非効率的な・・・」と考えてしまうような方は最終的に転職という道を選択せざるを得ないようなことになってしまうのかもしれません。
しかし、一つの仮説を打ち消すこと、すなわち、マイナーな結果が研究の進展につながるともあると考えることができれば、それは無駄な努力になるということはないのかもしれません。

また、一見して無駄と思われるような実験もその裏付けがあるからこそ新しい理論や発見につながるという可能性もありますし、そういったことの繰り返しも「見る人は見ている」ということで出世して発言権を手に入れることにもつながるかもしれません。

経験的には、研究者は結論を急ぐ傾向にありますが、物事を長い目で見るということも大切かと思います。企業の研究はチームで分業・協業して行っていますので個人で行う学生時代の研究よりも研究速度はかなり早く、マイナーな結果の積み重ねという多少の回り道は問題ないのではないかと思います。

これまでのお話を聞いていると、どれも社会人としては当たり前のことのように思います。

そうかもしれません。研究者、特に、博士号まで取得しているような研究者は社会性を身につけるべき20歳代の大事な時期を研究に費やしているゆえに「博士は扱いにくい」と言われるのかもしれません。
実際、いくつもの転職を経験して年齢がかさんでくるにしたがってこのような考え方に辿り着いたという意味では、社会性の習得に時間がかかり過ぎたというのも転職回数が多くなった要因かもしれません。
少し手遅れという感はありますが、この記事を見ていただいて「そういう部分はあるかなぁ?」と感じることができる方がおられるのであれば、就職先、あるいは、転職先で長く働くための参考にしていただければと思う次第です。

高学歴の研究者が特殊な存在であるというのはなんとなく分かったような気がします。でも、そうであれば、高学歴の研究者は我慢することが多くなり、ストレスが溜まることによって精神的に病んでしまいやすいということはないのでしょうか?

早く結論に到達して新しい事実を見出すことが楽しくて研究職を選択しているというのに、それを押し殺して行動するというのは結構つらいことかと思います。
22歳から28歳まで研究に没頭する毎日で趣味らしい趣味もなく過ごしてきた私の場合、「趣味は?」と聞かれるても「あえて挙げるならば研究」としか答えが見つからず、履歴書の趣味の欄に書ける内容が見つかりませんでした。
スポーツや娯楽などの日常的なストレスを発散できるような趣味があれば、もう少し違った人生もあったのではないかと感じることもあります。

最近、中高年の引きこもりが増加していることが話題になっていますが、その中には我慢を積み重ねてきた研究職に従事してきた人というのも結構いるのかもしれません。
就業先で長く働き中高年にいなって引きこもりにならないないためにも、一緒に過ごす時間が長い会社の同僚と仲良くなることや仕事上のストレスを発散できる趣味を持つというのも大切なことではないかと思います。

最後に、研究職としてその企業に無くてはならない貴重な存在になるためにおススメするのが、特許に関する情報取集能力をアップさせることです。

 

特許調査は企業の研究職にとって必須!?

近年は独立行政法人化に伴い大学でも特許は業績の一つとかが得られるようですが、それでも投稿論文や学会発表が研究業績の中心として評価の対象となっているように思います。
一方、企業の研究職では特許の取得は重要になってきますし、特許出願・登録は研究職としての評価の対象となる業績ですし、職務発明として人事考課の対象となり特許取得に対して手当てが定められている場合もあります。
研究内容によっては特許出願・登録して情報を公開するよりは社内秘として非公開にした方が有利であるというケースもありますが、他に類のない技術として特許に匹敵する研究成果ということで評価の対象となります。

もちろん、企業の研究職である以上は特許を取得する、または、特許に匹敵する社内秘になるような研究をするに越したことはありませんが、研究によって新しい知見が得られても特許出願されていればそれまでの研究が無に帰することになる場合もあります。

したがって、登録されている特許を調査する、あるいは、特許の出願状況を調査する能力は企業の研究職にとって重要な能力となります。

登録、あるいは、出願されている特許の情報はインターネットで無料で閲覧することはできますが、

  • 特許の内容は研究職に携わる研究者でなければ理解し難い部分が多い
  • 研究職でなければ調査することも容易ではない
  • 特許で制限されている内容を把握して特許に抵触するのか否かまで判断するとなると研究職であっても簡単なことではない

などの理由から、特許の内容を精査することも含めた特許情報を調査する能力のある研究者は大事にされる傾向にあります。

大企業であれば依頼によって特許を調査する部門(知財部?)を設置している企業が多いようですが、依頼することなく特許情報を個人で調査することができれば時間に融通が利くということもあります。
知財を担当する部門や人材が居ないような中小企業の場合には、外部の特許事務所に調査依頼をすることになりますが、相場でいうところの十数万円~二十万円といった費用だけでなく日数もかかることになります。

特許出願を代行する弁理士という資格を取得するまでとなるとハードルも高くなってしまいますが、知的財産権に関わる知識を保有し簡単な調査であれば仕事の合間に1,2週間もあればできるというだけでも専門部署のない中小企業では貴重な存在です。

研究職としてダメになることを想定しているわけではありませんが、研究職として実験を中心とした一線で働くことができる期間は比較的短いですし、知的財産に関係する知識を保有することで研究者として一線を退いた後も貴重な存在として扱われるかもしれません。
また、特許事務所に特許出願を依頼する場合にも便利な存在ですし、調査も含めて知的財産に関する能力だけでその会社で働き続けるということも可能かもしれません。
私の体験としては、中小企業の研究職として働いていたときに某企業から特許権を侵害しているので製造販売を中止するような警告書が届けられたことがあり、その対応に私が駆り出されたということもありました。
また、最後の勤務先においては、研究職として働くことができなくなってからは新規事業のための特許調査の仕事に従事している期間もありました。

これまでの転職先での体験談については以下の関連記事に詳細をご紹介させていただておりますが、各記事を読んでいただければ本記事に書かせていただいたような転職先での行動ができていれば転職を繰り返すようなことが避けることができた可能性もあるということがご理解いただけるのではないかと思います。

また、次回は、特許というものがどういうもので特許調査を行うための簡単な方法についてお話しさせていただきたく存じます。

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