転職を考えている研究職の皆さん!転職する前にできることはありませんか?

研究職

新卒就職も含めて4つの会社や大学に就職・転職する際に、最初からいつかは辞めるつもりで就職した組織は一つもありませんが、結果的に3回の転職と4つの組織を経験してきている私が転職の良し悪しを語っても信憑性がないという方も居られるのかもしれません。
しかし、経験してみなければ分からないということもありますので、これまでの転職によって体験してきたことから得られた私なりの経験則をお話しさせていただくことが転職すべきか否かを悩んでおられる方の参考になれば幸いです。

昔は一つの会社で定年まで働くという終身雇用というのが当たり前で、実際に、大学時代の同級生は転職することなく現在に至っているという者がほとんどです。
転職するたびに同級生からは「何で?」というように不思議がられましたし、特に、長兄からは「どんな仕事でも多かれ少なかれ思うとおりに行かないことはある」、「お前は辛抱が足りない」、「何を子供みたいなことを言っているんだ!言いたいことを言っていたらサラリーマンはやっていけない」と叱責されたものです。

 

兄も工学部を卒業し大企業に就職して工場に配属された理系の人間ですが、私が大企業と呼ばれる会社を退職した当時で10年近くその会社に勤務していたと記憶しています。
就職難と言われていた時代に大企業に入社できたことが自慢の安定志向の強い兄ですので、様々な苦労をしながら当時の地位に上り詰めていたのだと思いますし、当時でも、兄の言っていることが理解できないというわけではありませんでした。むしろ、そのように行動できる兄が羨ましいくらいでした。

転職したことを後悔をしているというわけではありませんが、体験談を書きながら思い返してみると、
「あの時はこういうようにすれば転職しなくてもよかったのではないか?」、
「あのままその組織にいたら研究職としてダメになってたかも・・・」、
「家族にかけた迷惑を考えると、転職しないという選択もあったのかなぁ・・・」
ということを考えてしまうことはあります。
実際転職したのが正しかったのかどうかという答えがあるわけではありませんが、今の自分ならば転職を回避して社内環境を改善することで今とは異なる別の人生を歩むこともできたかもしれないということも考えながらこの記事を書いています。

ただし、今の時代は転職情報も充実しており、転職を肯定しているというわけではありませんが、我慢して会社に執着して精神的なストレスから体調不良に悩まされるくらいならば、思い切って転職するという選択肢もあるのではないかという時代です。
しかしながら、転職したからといって必ずしも今の会社より働く環境が良くなるというわけではありませんし、よりよい研究環境で気持ちよく働くことができるという保証があるわけではありませんありません。転職することによってより大きなダメージを受ける可能性もないわけではありません。

今の会社が極端に悪い会社でないのであれば、「今の会社で頑張ろうか?転職しようか?」と悩んだときに考えていただきたいのが、本当に問題となっていることを円満に解決する術がないのかどうかということです。

仕事上の問題はどんな職種でも起こることであって、研究職だからストレスが多いというわけではないのかもしれません。
しかしながら、学生時代に研究にのめり込んでいればいればいるほど探求してきた内容や積み上げてきた経験に対して自負するところがあり、研究者は自己主張が激しくなるという傾向が強いのではないかと思います。
また、修士課程ならば2年、博士課程まで進学すれば5年以上も大学での研究活動に没頭することになりますので、大学内、あるいは、大学の研究室という狭いテリトリーで活動する時間が圧倒的に長くなり、普通に卒業して社会に出た同級生と比べても「大人だなぁ」と感じることがあります。
社会に出るにあたってこのギャップを埋める必要のあることが認識できていれば、無駄な転職をせずに済むということもあるのかもしれません。

 

転職という決断が正しいのか?間違っているのか?

結論から申し上げると、転職すべきか否かに関する正解というのはありません。「あの時転職していなければ・・・」と後悔したところで、過去に戻ることができない以上、やり直しの効かない一発勝負というのが転職です。
その人が死ぬ間際になって「自分の人生が良い人生であった」と感じることができれば、少なくとも転職するのか否かの判断は間違っていなかったということではないでしょうか?

阪急電車の一部に「毎月50万円もらって毎日生き甲斐のない生活を送るか、30万円だけど仕事に行くのが楽しみで仕方がないという生活と、どっちがいいか。」という中づり広告があり、「月収基準がずれている」と批判されているようですが、月収基準はともかく、毎日辛い思いをしながら今の会社で働くよりは給料が下がっても仕事するのが楽しみとなるような会社に転職するという選択肢もあるということを言いたいのだと推測されます。

この中づり広告ではどちらを選べばよいかという答えがあるわけではなく、問題点はあっても現在の会社がブラック企業でなく安定した収入が得られるのであれば職場環境を改善する努力をするのも一つの方法ですし、改善が難しいのであれば現在の会社での経験を活かして快適な職場を目指して転職するのも一つの方法であるというわけです。

極めて今風の考え方かと思いますが、難しいのは転職すべきかどうかを決断するための判断基準であって、それが分からないから悩んでしまいます。

確かに、それが分からないから苦労するんですよねぇ!

それ!それ!悩みの大きさとそれを受け入れるだけのキャパシティがあるのかどうかというのが大きな問題ですし、仕事の問題だけでなく家庭の事情なども踏まえて「転職するのか?」、「今の会社で頑張るのか?」を判断する必要がありますから、難しくなってきます。
研究職としていろいろな職場を渡り歩いてきましたが、歳をとって少しは性格が丸くなったであろう今になって思い返せば、あの時に今の考え方ができれば転職せずに環境を改善できた可能性もあるのではないかと思うこともあります。
転職を繰り返す中で、管理職や取締役を経験して中間管理職や経営者サイドの考え方が100%ではないにしても理解できるようになったというのも大きいのかもしれません。

もちろん、今の会社から貰える給料では生活することができないようであれば転職するという判断は間違っていないと思いますし、肉体的に耐えられないほど仕事がきついというのも転職するしかありませんし、精神的なストレスということも程度によっては転職する上で重要な判断基準であると思います。
しかしながら、快適な転職先を探す労力を考えるくらいなら今の環境を改善する努力を考えることもあるのかもしれないということが少しでも頭をかすめるのであれば、転職せずに改善の道を選ぶことをおススメします。

逆に、転職情報が秘密裏にチェックできる今の時代ならば環境を改善する努力をしながらこっそり転職先を探すことも可能ですので、良い転職先がありそうならば思い切った行動に出ることもできます。
そして、改善できなかったとしても、その時点で転職先が見つかっていれば、退職から新しい会社への転職がスムースに進行できます。

ただし、研究分野にもよりますが、研究が商品につながるようになるまでには最低でも5年、通常は10年はかかると言われていますし、研究職の転職時の年齢が30歳、40歳、50歳と嵩んでくることで転職できる可能性は他の職種よりも低くなってしまいます。
すなわち、研究職は歳をとればとるほど転職には慎重になるべきですし、可能であるならば、相手、もしくは、会社を説得する方法を模索する方がかしこい選択ということになります。

注意すべきポイントとしては秘密に転職先を探しているつもりでも、SNSを利用して投稿者や画像に映っている人を特定されたりすることからも分かるように、転職先を探しているという情報がどこから漏れるかというのは分かったものではありません。
帰省の際に大学に表敬訪問したときに「大学教官に興味はないか?」という教授との雑談で出たような話が会社の部長の耳に入っていて呼び出されたということもありましたし、会社の回答を待っている間に会社が変わりの人の求人を出している情報を見つけたということもありました。

私の経験では、若い頃には不満や怒りが先に出てしまい、根回しをするような考え方ができる精神的なゆとりは微塵もありませんでした。
私には研究職のことしか分かりませんが、研究過程において上司と意見が食い違っていたとしても一研究者として上司の立場に配慮しながら徹底的に議論することができれば改善できたこともあったのではないかと思っています。もちろん、地位の差を利用して「問答無用」という形で非論理的に否定されるということが日常的にあるのであれば、それは改善の余地なしと考えても良いかと思います。
ただし、その時でも、すぐに「これはダメだ!」と判断してしまうのではなく、少し期間を設けて、信頼できる会社の先輩に相談するなりして落ち着いてから判断していれば、違った結果もあったのではないかと思っています。

 

一つの会社で研究職として長く働くためには?

理系の研究者というのは物事を論理的に考える習慣があり、非論理的な現実を受け入れがたいという人も多いのではないかと思います。
すなわち、研究者としての自信と自分の出したデータへの責任感が強い人であればあるほど、上司や会社から研究成果を否定されて「問答無用」で却下されることを受け入れることができずに日々のストレスが溜まりやすくなるというわけです。
そして、そのことは「学士よりも修士」、「修士よりも博士」と学位が上がれば上がるほど強くなる傾向にあり、そのことが「博士が扱いにくい」と言われる原因の一つとなっている部分かと思います。

ところで、研究職で働く人が仕事の内容で転職を考えてしまうケースというのは、上司との研究方針や研究に対する考え方の食い違いが原因となることが多いのだと思います。
研究職で就職した人は多少の違いはあっても同じ分野の知識を持っているわけですから、就職してから数年で人間関係がおかしくなってしまうということは余程相性が悪いということになってしまいますが、年齢の近い同僚であれば議論もしやすいでしょうし、転職を考えなければいけないところまで追い込まれるということは滅多にあるものではありません。

そういう意味では、上司の意見を聞きその内容を一度持ち帰り、冷静になってからもう一度考えてみるという謙虚な姿勢とゆとりを持つことは研究職として一つの職場で長く働くためには大切であると思います。
上司の方でも「上司の言うことを聞いて・・・」と議論を途中で投げ出したことを後悔している可能性もあるかもしれません。

個人々々の考え方はあるとは思いますし、年齢、すなわち、先の人生の長さによっても異なってくるのかもしれませんが、転職後のリスクを考えると、その会社に残れるように改善を試みることは大切であると思います。

大学教官をしていたころに学生から「先生は瞬間湯沸かし器みたいな人だから・・・」と指摘されたこともありますが、私のことを気にかけてくれていた別の教授から「何故、相談してくれなかったのか?」と言われてから、「もう少し間を開ければ良かったのかなぁ・・・」と即断即決を後悔したこともあります。

もちろん、研究者の関わることが多いデータの改ざんや品質上の問題の隠ぺいなどの社会に迷惑をかけるようなケースでは別問題であり、モラルや正義感も関係してきます。

現在は、大企業はもとより中小企業でもコンプライアンス委員会を設置し、セクハラ、パワハラなどのハラスメントも含む危機管理をしている会社も多なってきますので、製品が問題を起こすようなケースだけでなくこれまで説明してきたような小さな問題でもコンプライアンス委員会を利用するというのも一つの手段かと思います。
ただし、誰が告発したのか分からないようにするというのが大前提ではありますが、この手の話はすぐに広まり告発者が特定されるというケースもありますので、上司や会社が悪いということになってもその会社には居ずらくなり転職せざるを得ないというリスクもあるということを忘れてはいけません。

個人的に対応してもコンプライアンス委員会に相談してもリスクはありますが、コンプライアンス委員会に相談することで事を荒立てることなく丸く収まるというケースもありますので、個人で何とかしようとするよりはリスクも少なくなるとは思います。
そして、研究途上の議論における上司との食い違いのような場合には、個人で対応するしかないのかもしれませんが、その場合でもやり方によっては結果は全く異なったものになってしまいます。以下に、少しですが、私の体験をもとにこうしてはどうかという見解をご紹介させていただきます。

 

研究者たるもの別の視点で物事を見ることは大切です!

「博士が扱いにくい」と言われる要因の一つとして社会性に欠けているということを指摘する方がおられますが、最短で27歳まで社会に出たことのない博士を雇用するよりはある程度研究能力のある修士の学生を雇用して研究をさせながら社会性を持たせるように教育していく方がメリットがあると考えている日本の企業が多いと考えているからではないかと思います。
確かに、博士ともなれば朝から晩まで大学にこもって研究していたわけですから、修士を出て会社に勤めている同年齢の人と比べると少しずれている部分はあるのかもしれませんが、実際のところ、目上の人に対して敬語を使えないような人はほとんどいませんし、日常生活において周りの人に合わせて活動することが欠落しているような人は滅多にいません。

しかし、人から指摘されて「そうですね」と受け入れていては「その人のそれまでしてきた研究は何だったのか?」ということになってしまいますので、主張するべきことは主張するという頑固さは研究者にとって必要なことです。
そういう意味では、頑固な人はいますし、逆に、研究者たるもの自分の出したデータと結果に自信がなくては困ります。

一方で、得られたデータに対する結論というのは自分が考えた結論であって、同じデータを見ても別の結論に到達する研究者もいるかもしれないということも忘れてはいけません。
同じデータや現象であっても、別の視点からも見ることによって違った結果になる可能性もあるというわけです。

研究ということだけで言えば、上司と部下のそれぞれが相手の視線で現象や物事をみることができれば、双方が納得できる結果に到達することができるかもしれませし、そうなれば転職しなくても済むという選択肢が浮上してくる可能性もあります。

もちろん、研究者としての立場だけでなく、社会人としての立場をわきまえるということを忘れないようにするということが大切です。
他の部下もいる前で年齢も立場も下の部下に論破されたということになれば上司としての立場がありませんし、それが一方的であったのであればなおさらです。

いろいろな組織で一般社員から管理職、あるいは、その上の取締役まで経験してきた現在の私であれば、その場を軽く流して、後でこっそり議論するというやり方も考えられたのかもしれません。
そうすることによって上司の体面を保つこともできますし、話を円滑に丸く収めることができる可能性もあるというわけです。

 

研究者といえども、社会人が行動するときには根回しも大事です!

根回し」という言葉は、「会議や交渉を円滑,有利に運ぶために,非公式の場で合意の形成をはかること」という意味があるということですが、直接の上司と交渉するのが難しいのであれば、その上の上司、あるいは、経営者により近い立場にある管理職に事前に相談して、どうすればよいのか支持を仰ぐということがベストな方法であると思います。

普通の社会人であれば皆さんがしている当然のことかと思いますが、大学において個人、あるいは、下についた後輩とともに長期にわたって独立して研究してきた研究者ですので、実験だけでなく交渉事も一人で解決しようとすることによって転職せざるを得ない状況に追い込まれてしまうということもあります。

普通の会社では上司に意見するというのは辞める覚悟をしていなければできないことですし、縦社会の日本ではほとんどの人はそのような行動に出るということはありません。

仮に議論する必要のある研究上の内容であって上司が間違っていたとしても、自分の意見を前面に押し出し上司が間違っているということは言えない、あるいは、言ってはいけないという場合がほとんどです。
そして、同じようなことを思っている人がいても、その方たちが立場の弱い人であれば賛同はしても手を貸してくれるというわけではありません。

すなわち、縦社会ということを考えるならば、自分の上司に意見することができるのはその上司の上司、あるいは、さらに、その上の上司というわけです。
問題は自分の上司よりも上の地位にいる上司にどうやって話を持ち込むのかということです。

入社して数か月も経てば社内の人間関係も見えてきますし、本音で気軽に話の出来る社内の友人というのも一人や二人はできるでしょう。
自分を会社に招聘してくれた大学の先輩がいるのであれば、その方に相談するというのも良いかもしれません。
また、社内にコンプライアンス委員会があるのであれば、コンプライアンス委員会に所属している方に相談するというのが最も簡単な方法と言えるのかもしれません。

いずれにしても、その辺りから上司の上司にコンタクトを取り根回しをするための作戦を十分に練ってから行動に移すことができればベストであると思いますし、内容が小さなことであればそれで円満に解決する可能性があります。

参照元:コトバンク 根回し

自分もそうでしたが、研究ばかりしてきた人間、特に、博士課程にまで進学した研究者は大学の研究室という閉鎖的な空間でしか生活していないという方が多く、社会通念的に当たり前のことが実行できていないケースもあるかと思います。会社には独自のルールもありますので、一人で抱え込んで先のことを考えずに行動すると碌なことはありません。

確かに、根回しをしっかりして円満解決できるならば、転職を考えなくても良いですもんね!?

出来ることは全てやるくらいのつもりで行動することをおススメします。
私がそうなのですが、研究職は理系人間ですので物事を論理的に捉えるあまり杓子定規に考えすぎる傾向があります。相手は研究対象ではなく感情を持った人間であるということを頭において行動することが大切です。
また、周りの者を巻き込んで迷惑をかけたくないというのも分からなくはありませんが、一緒に仕事をする仲間である社内の同僚や先輩などに相談して大ごとにならないように円満解決するというのも会社で仕事をしていく上では重要なことかと思います。

やれることをやっても解決できないときには、精神的にモヤモヤしたままよりは転職を選ぶという選択肢があるというくらいの気楽な感覚でいるくらいの方が良いということですね。

やるだけやってダメな時は転職するのも仕方がないのかもしれませんが、転職にかかる労力を考えるならば転職せずに済むに越したことはありません。

転職というのはそんなに労力が必要なものでしょうか?

年齢によっては転職先を探すのも大変ですが、決まったら決まったで退職の手続きや残務処理などもあります。
転職先によっては引っ越しも必要になるかもしれませんし、各種住所変更に子供がいれば転校の手続きなどなどやるべきことは山積みです。

そして、転職してからは、同じ失敗を繰り返すことが無いようにするという作業が重要になってきますので、次回は転職先でするべきことについてお話ししたいと思います。

 

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