ここは転職とキャリアアップに関する情報を紹介するサイトですので「そんな初期段階の話を聞きたいわけではない!」と思われる方も居られるかもしれませんが、新卒であっても転職であっても研究職としての心構えや考え方というのが変わるわけではありません。
従って、理由や経緯をご紹介させていただくことで、私の研究に対するこだわりや妥協点をご紹介することが、「転職を考えるべきかどうか?」といった悩みを抱える人の参考にもなるのではないかと思います。
とはいえ、必ずしも正しい選択をしたと断言できるというわけではなく、このような考え方もあるという一つの例と捉えていただければ幸いです。
企業の研究者がぶつかる壁とは?
自分の研究に対する思い入れの程度は人によって異なりますので、必ずしも転職を考えてしまうような悩みになるというわけではありませんが、多かれ少なかれ以下のようなことを考えてしまう時があるのではないかと思います。
- 一つの研究のスパンが長く研究過程が評価されにくい
- 実施している研究に対して「打ち切り」という会社決定が出ることに対する不満やストレスが溜まる
- 管理職になると雑用が増えて研究する時間がつくれない
研究職は労力が半端ないにもかかわらず給料が上がらない
他の職種が楽というわけではありませんが、研究は失敗を繰り返しながら腰を据えて進めていく仕事ですので、短期間で成果が出るような職種と比べると一つの仕事のスパンが長くなります。
会社の利益につながる成果がでなければ、必然的に定期昇給のための人事考課が画期的なプラス評価となる可能性は他の職種よりは低いと考えられます。
他の人と同様に、学歴に応じた初任給や定期昇給はありますが、着手した研究そのものが成果となって表れるには時間がかかり、昇給時の人事考課において高評価を得ることが難しい職種ではないかと思います。
もちろん、一生懸命やっていることは評価されますが、それはどんな職種でも同じです。逆に、徹夜の実験や残業が増えていることがマイナスの評価になる可能性も無いとは言えません。余程、研究職のための人事考課制度がしっかりしている、あるいは、評価する上司がやっている研究に対する理解者でなければプラス評価になることは少ないのではないかと思います。
管理職になって人事考課をする側に回ったときには「頑張っているのに申し訳ない」と思うこともありましたし、工場に勤務している人からは「問題が起こらないように管理できているのに、それが当たり前のように評価されるのは納得できない」というような意見を聞くこともありました。
役職がつくと雑用が多くなる!
研究職の管理職になると上の地位に行けば行くほど意見を述べる機会は増えますが、それと同時に雑務も多くなり研究する時間がどんどん減ってきます。
予算を組んだり会議資料の作成や途中経過を報告したりすることは必要な仕事ですので雑務という言い方は適用ではないかもしれません。
しかしながら、「研究することが好き」、「未知のことが解明されることにワクワクする」といった研究に生きがいを感じている研究者にとっては、研究以外の仕事をする時間が増加し研究する時間が減ることにストレスを感じることがあるかもしれません。
もちろん、役職がつけば役職手当などで給料は上がりますが、給料が上がることよりも研究活動に対するこだわりが強い人が多いように思います。
研究に対する予算の減少や打ち切りの決定に対し不満が募る!
昇格すればするほど経営陣に近い方に対して発言する機会も増えてきますが、逆に、経営陣の考えを知る機会も増えてきます。
一つの研究に対する会社の考えに触れることで、プラスであればうれしい限りですがマイナスの考えであれば「何故?」という不満を感じることもあるかと思います。
ついつい、言わなくても良い、あるいは、言っても無駄な進言を繰り返すこともあり、それが受け入れられずに「研究の打ち切り」が決定してしまうと腹立たしさすら感じることもあるかもしれません。
部下から「どうしてですか?」と聞かれても「会社決定だから仕方がない!」としか答えることができず、辛い思いをしたこともあります。まさしく、板挟みです。
研究職の友人から似たような話は聞いたことがあります。給料に関しては「暮らしていければよい」という無頓着な奴でしたのであまり言ってませんでしたが、研究内容に対する会社の理解に不満を持っているような話はよく言ってました。
そうなると、転職という言葉が頭をよぎるということもあるのかもしれませんが、そこは考え方次第であり、私の研究に対する考え方の変遷や経験が参考になればと思う次第です。
研究職に就くような人はどんな人?陥りやすい落とし穴!?
世間の方が持っている研究職のイメージは、難しいことをやっている人、頭の切れる人、ちょっと世間からずれた変人という人もいるようです。
博士まで取得している人は最低でも学部の4年、修士の2年、博士の3年と合計で9年間を大学で過ごし、研究室に配属される4年生も含めるとトータルで6年間は大学での研究活動に没頭することになります。
始終研究をしているわけではありませんが、何をしていても自分のしている研究のことが頭の片隅から外れるということはありません。(もちろん、全員とは言いませんが)
学士、修士、博士と学位がハイレベルになればなるほど、程度の差こそあれ、研究活動に没頭するあまり世間の出来事に疎くなってしまう、言い換えるならば、社会性に問題を抱えている人も多いのではないかと思います。
当然、ニュースも見ませんし、流行りの音楽も聞くこともありませんでしたので、その時の人気の歌手や当時の総理大臣が誰なのかも知らないというくらい浮世離れしており、親に心配されたものです。
私が研究者の道を突き詰めた理由!
確かに、某国立大学の工学部に入学しましたが、当時、研究職に就くことを目指していたわけでも、新しい発見をしたいと考えていたわけでもありません。
選択した学科は工学部の中でも生物学や生化学などの、いわゆる、バイオテクノロジーと呼ばれる分野ですが、入学した当時は今のようにバイオ〇〇などという言葉が一般の方に定着していた時代ではなく、日本酒やビールなどのお酒や味噌、醤油といった醸造製品について学ぶための学科というイメージしかなかった頃です。
当然、話題に上るような学科というわけではなく、醸造関係以外ならば微生物を利用した排水処理といった分野があるという程度の知識しかありませんでした。
今の子供たちの将来展望では「ロボットを作りたい」、「ロケットをつくりたい」、「どんな病気でも直せる「スーパードクターになりたい」といった夢のあるような話を見たり聞いたりしますが、そのような高い志(こころざし)があったわけではなく、今でこそバイオは人気の分野ですが、当時はシンプルに就職率が良かったことと自分の学力で合格できそうな学科がそこしかなかったという程度です。
理系を選んだ理由も、英語が苦手で数学が得意であったというだけの理由で、もしも英語が得意であったならば文系に進学していたかもしれません。
研究室に配属された当初は修士課程の先輩に支持し指示された内容をこなすだけの研究生活でしたが、修士課程に進学すると与えられるのはテーマだけで方法は自分で考え、指導教官と相談しながら研究を進めていくようになりました。
ところが、修士課程で行った研究では目指していた目標レベルまで結果をまとめることができず目標レベルをトーンダウンせざるを得ない状況になりました。
基本的には博士課程は3年ということになっていますが、これは博士課程の単位を取得するための期間であって、博士という学位を取得するためには学科が指定する投稿論文というノルマをクリアした上で博士論文を提出し審査を通る必要があります。
従って、3年を経過しても投稿論文のノルマと博士論部の提出・審査をクリアできなければ、さらに1年、それでもダメならもう1年とオーバードクターと呼ばれる状態になります。
博士の学位が取れていない状態で就職することになった某大企業の研究所の所長の言葉というのが以下の通りです。
「はっ?」
「しかし、ここまで頑張ってきたのに勿体ないので、後どれくらいあれば博士が取れそうなのか?」
「不足している実験は半年もあれば終わりそうですが、投稿論文と博士論文の完成も含めて1年くらいです」
「論文はこちらでも書けるだろうから、1ヶ月の基本研修が終わった時点で出向という形で大学に戻り、半年後に会社に来るようにすればよい」
非常にありがたいお話で、大学の担当教官も所長の太っ腹にはビックリしていました。
結果的には半年で最少限必要な実験を終え、細かい追加実験は実験を補佐してくれていた修士課程の後輩が行い、准教授と投稿論文と博士論文の打ち合わせをするために会社に出勤しながら週末だけ大学に出向くという形で無事に博士の学位を取得することができました。
採用していただいた会社の寛容な対応もさることながら、アドバイスをいただいた研究室の教授、准教授、助教、共同で実験に着手してくれた学部と修士課程の学生、さらには、生活面を支えてくれた家族も含めたいろいろな方に迷惑をかけて協力してもらうことで博士課程で行った研究が全うできたと いうわけです。
しかし、博士の学位を取得するまでの苦労が多かっただけに、博士を取得しているというプライドが邪魔してトラブルにつながってしまったという経験もいくつかあります。
今にして思えば、もう少し謙虚な姿勢で対応すれば回避できたトラブルもたくさんあったように思います。
名刺を見たときに博士と書かれていると「凄い人」と思うと同時に、話す内容には気を付けないと低くみられてしまいそうで怖い感じもします。
企業の研究者として生きていくためには、自身の研究分野における能力にプライドを持って研究し得られた結果に自信を持つことは大切ですし、逆に、自信を持てないようでは困ります。
しかしながら、会社の主張やその研究に携わっている部下、同僚、上司の意見や考え方に耳を傾ける謙虚さがなければ、単なる独りよがりとなってしまう可能性もあります。
これは、企業の研究者に限られたことではなく、大学の研究者である教官であっても同じことが言えます。
企業の研究職における管理職は自分で研究する時間が減ってしまうのか?
大学での研究生活を経て企業に就職する場合、大学時代と同じテーマの研究を続けるという人は少なく、会社、あるいは配属された部署からテーマを言い渡されて、そのテーマや目標に沿って研究を進めていくことになります。
企業で行われる研究というのは大学と異なり一人で一つのテーマを研究するということは稀で、複数の研究者で共同して行うというのがほとんどです。
テーマの重要性や会社としての期待度によって投入される研究者の数は異なりますし、時には、複数の部署が関係するプロジェクトのような形をとることがあります。
一人で研究をするのと異なり、データや結果を共有して共通の認識を持つ必要がありますので会議も定期的に行われますし、2年目以降は部下として後輩が配置されることもあり、研究する時間が減ってきます。
さらに、管理職ともなると、一つの研究だけでなくすべての部下の研究を把握して進める必要がありますので自信がメインで進めていた研究にだけ時間を使うというわけにはいきません。また、予算の作成・管理や人事考課などの事務的な仕事もこなす必要がありますので、ますます研究する時間は減ってきます。
大学で長い期間研究してきた人にありがちな話で、必要なことであるのは分かっていても「この実験がしたいのに・・・」。「これを調べたいのに・・・」といったジレンマを感じることかと思います。
しかしながら、先に体験談でお話しさせていただいたように、研究は一人で完成できるものではないという考え方ができれば研究時間が減るという問題はクリアできるのではないかと思います。
確かに、大学で研究していたころは後輩の出したデータが信用できずに自分で確認実験をするようなこともありましたが、それは最初のうちだけで、後輩に技術が身についたと判断された時点からは後輩に実験を任せてデータを共有するということは誰しもが経験してきていることです。
ましてや、企業の研究職として配属されてきた部下の力量は経歴を見れば一目瞭然で、部下の行った研究結果を信用できないような方は会社が管理職にしているはずがありません。
企業における研究は複数の研究者が関与する共同研究ですので、部下の能力を把握することは大切ですが、部下を信頼し部下に任せるということもできなければ研究職として働いていくことはできません。
研究に関わる部下、同僚、上司が行っていることも自分の行っている研究の一部であるという認識を持つことができれば、役職が上がって研究以外の仕事が増えたとしても、別のことをしている間にチームの仲間が研究を進めてくれているという考え方もあるというわけです。
そして、最後になりますが、企業での研究職において最も重要であると考える企業の研究に対するスタンスを解説させていただいて、今回の話の総括とさせていただきたいと思います。
利益を追求するための研究職では打ち切るという選択肢も有り得る!
大学などの無期限で一つの研究に執着することができる大学の研究と期限内に限られた予算で確実に成果が得られることを重視する企業における研究の間には多きなギャップがあり、企業での研究になれていない方や思い入れが強い研究者はそのギャップが原因で転職を考え始める方がおられます。
大学での研究活動が長ければ長いほど研究に対する執着力が強くなり、会社の方針で研究が打ち切られたり規模が縮小されたりすることに納得できず、会社に対する不信感を持ってしまう方がおられるというわけです。
そんな時に考えていただきたいのが、企業の研究に対する考え方を理解することの重要性です。
結論を先に申し上げると、期限と予算に限りがあり、かつ、そこに会社の事情が絡み「期限内にものにならなければ打ち切る」という選択肢がついてくるというのが企業の研究に対するスタイルです。
言い換えるならば、研究結果がプラスでもマイナスでも論文を作成することができれば成果となる大学と期限内に限られた予算で製品化やコスト削減などの成果がでることが必要な企業では研究に対する考え方に大きな差があり、内容によっては会社の研究は中途半端な状態であっても打ち切られる可能性があるということです。
研究を続けていれば目標とする成果が得られるのかもしれませんが、10年先、20年先の成果を待っているほど会社に余裕があるわけではなく、別のテーマで能力を発揮して短期間で成果を得られる可能性があるのであれば、その方が会社にとってメリットがあるというわけです。
むしろ、新たに会社から要請された研究テーマに能力を発揮して会社の期待に応えることができれば、あなたに対する会社の評価もアップするかもしれません。
もちろん、企業の研究に対する考え方を知ることや研究者に期待する能力を考えることは、転職を考えている人だけでなく、新卒で研究職として企業に就職する方も重要であると思います。
一つのことをとことん突き詰める大学のような研究もあれば、定められた期間内に利益という会社の目標を達成できそうにない研究から利益を生み出す可能性の高い研究に乗り換えていくような研究のやり方もあります。
経営者と同じ目線で研究に目を向けて、会社の事情や自分に対する会社の期待を慮ることができれば、企業のような利益を優先するような研究へのスタンスでもやりがいは見出すことができると思います。
ここでお話しさせていただいたようなお話は、様々な経験を乗り越えてようやく到達できた考え方です。
若気の至りで血気にはやって転職したケースもありますし、ここで出なかったようなエピソードによってやむなく退職したという体験もありますので、大企業、大学、中小企業、ベンチャー企業と転職に踏み切った経緯を順次ご紹介させていただき、参考になるようなことがあればと思う次第です。
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