私も3回の転職を経験しておりますが、どの会社や大学もいつかは辞めようと思って就職したことは一度もありませんし、何とか貢献できるようにと頑張ってきたつもりです。しかしながら、会社や大学からバイオテクノロジーの研究者として必要ないと言われてしまうと、その組織に長くいても自分の力を活かすどころか、飼い殺しのようになってしまうのではないかと不安な気持ちを持ちながら毎日を過ごすよりは転職した方が良いと判断しました。
考え方は人それぞれで、「辛抱が足りない!」、「努力が足りない!」と言われると一言もありませんが、組織の中で飼い殺しのようになってしまうと精神的に病んでくることにつながり、さらには、肉体的なダメージへと発展してから転職を考えたのでは遅すぎるという考え方もあります。
実際、落ち込みが長く続くことで下痢になったこともありますし、最後の勤務先ではうつ症状まで出てしまうことになり、結果的に、その会社で頑張っていこうと思っても肉体的に辞めざるを得ないということになってしまいましたし、そうなると転職先を探すのも難しくなってしまいました。
転職することを非難する人がいても当人がどれほど苦しいのかということは他人にはわかりませんし、転職すると思いきるタイミングを間違わないようにするということは大切です。
転職に踏み切ることができない理由として、
「潰しの効かないと言われる研究職が転職できるものなのか?」、
「転職先が決まるにしても決まるまでのどれくらいの期間が必要なのか?」、
「現在の会社にはいつ頃た私欲の意思を伝えればよいのか?」、
などが挙げられるようですが、そもそも、転職に必要な手順が分からないということもあるのかもしれません。
転職すると決めてからは行動するべきことは一気に進める必要がありますが、通常は、次が決まってもいないのに辞めるわけにはいきませんし、転職してから前職と同じ失敗をしないための心構えも持っておいた方が良いと思います。
金銭的には大きな問題となることはないのかもしれませんが、転職先候補となる会社が見つかって面接を受けるときに就業にブランクがあるというのはマイナス要因にもなりかねません。
研究職が退職を決意してから退職するまでにするべきこと!
「円満退職」という言葉をよく聞きますが、「会社に不満があるから退職するのに、円満も何もあったものではない」と思っていましたが、「円満」という言葉には退職届を提出して会社が受理承認をする、すなわち、双方が納得して必要な書類などのやり取りをするという意味があるようです。
通常は退職届を提出してから退職するまでには必要書類の手配などの手続きを踏まえて最低限2週間と言われていますが、仕事の内容によっては業務の引継ぎに1ヶ月から3か月かかるようなこともあります。就業規則に退職届の提出から退職までの期間を定めているというのが一般的です。
健康保険被保険者証を始め会社の費用で購入した文具に至るまで返却する必要がありますが、研究職の場合には、職務上知り得た事実、すなわち、会社での研究において得られたデータや情報は重要なことが多く、研究に関する報告書やもととなるファイル、あるいは、研究の過程において得られたデータも全て会社に返却することになります。
会社の立場に立てば、頭の中にあるデータや情報も社外に流出させること、特に同業他社への流出は避けたいわけですから、報告書の提出で済むような場合は良いのですが、一定の期間を設けて守秘義務や同業他社への転職を制限するための誓約書を提出させることがあります。
研究職特有のものというわけではありませんが、研究職の場合には問題視されることが多いみたいです。
さらに、前職でしていた研究の特許出願・登録がなされており発明者に名前を連ねているようなケースでは、権利関係で複雑になる可能性もあります。
会社に返却しなければいけないもの!研究職が注目すべきポイント
研究職の場合には、研究に関わっているスタッフの能力や社内の人間で変わりが効くような分担であったのかによって異なりますし、引継ぎの期間については会社との相談ということになる場合が多いようです。
また、退職する場合に会社に返却する必要のあるものとして以下のものが挙げられます。
- 健康保険被保険者証
- 身分証明書(社員証やカードキー・社章なども)
- 名刺
- 通勤定期券
- 社費で購入した文具や書籍
- 書類やデータ
研究職の場合にはデータや報告書などの返却は会社にとって重要な財産ですし、書類上の研究成果は印刷物だけでなくパソコンに入っているファイルも含めて返却することになりますが、頭の中にある研究に関する情報は消すことができません。
営業職や総務職でも取引先の情報などの就業中に知り得た情報を秘匿する誓約書に署名捺印する場合もあるようですが、研究職の場合には頭の中にある研究に関わる情報がある分だけ通常の職種よりも秘密保持誓約書が重要な位置づけになります。
特に、就業中に特許の出願・登録に関係しているような場合には退職後の権利関係については入念に取り決めしておかなければ、後々それが大きな利益を生むようなことになった場合に揉めることもあるかもしれません。
他方、大学を退職する場合には国立大学法人法に則り必要な書類を作成して提出することになります。
当時は国立大学は国家公務員法ということでしたが、転職先が民間企業の場合の利害関係のないことの証明などの十数種の書類を作成・提出する必要があり、それだけでもかなりの時間を割かれたように記憶しております。
国立大学法人法と国家公務員法の違いは分かりませんが、もしも大学教官を退職するという場合には、通常の企業と異なる必要書類があるということは覚悟しておいた方が良いでしょう。
しかし、新規物質の発見や画期的なアイテムの開発に関する研究に携わっている場合には、発明を特許出願する方が有利な場合が多く、開発者として名前を連ねているときには退職後の権利関係については会社と協議するというケースもあるみたいです。
会社から受け取る必要のあるもの!
退職にあたって会社から受け取るものは以下の通りですが、こちらに関しては研究職だからといって特別なものがあるわけではありません。
転職先が既に決まっており退職日の翌日に転職先の所属になるような場合には離職票は必要ありませんが、雇用保険被保険者証、年金手帳、源泉徴収票は次の会社に提出する必要のあるものです。
ただし、在職中に取得された発明に関わる権利関係について書類を取り交わしている場合には、退職後に必要になった時のために2通のうちの1通を受け取っておく必要があります。(権利を会社に譲渡し発明者の権利を放棄するという場合には不要です。)
- 離職票
- 雇用保険被保険者証
- 年金手帳
- 源泉徴収票
研究職の転職事情は?
研究分野にもよりますが、研究職に対する企業のニーズは企業規模によって様々ですし、特に、これから長い未来のある20歳代から30歳代前半にかけての若手研究者の場合には、就活が売手市場にあるのか買手市場にあるのかによっても大きく変わります。
一方、研究成果が得られるまでに5年、10年、15年とかかってしまう研究職では、30歳代後半から40歳代の研究職の転職者が新たな研究をまとめ上げることを期待する会社は少なく、一研究者というよりも若手の研究職をまとめていくリーダーシップのある中間管理職が中心になってきます。
年齢が上がるにしたがって転職が困難になるというのはどんな職種でも同じことですが、研究職の場合には、中途採用を受け入れる会社がその人に一研究者として期待するのかリーダーシップを期待するのかということが年齢によって大きく変わってくるように思います。
20歳代、30歳代前半の研究職は研究能力が問われる!
年功序列を基本とする大企業は、中長期的な研究の進展を考えて毎年のように最低限度の研究者を採用し、特定の年齢層が増えたり減ったりすることを避けたいという傾向にあります。
すなわち、毎年一定数の新卒研究者を採用する傾向にあり、そこに若い研究者の中途採用を考えるというのは難しいということになります。
特に、新卒で多くの新卒研究者が毎年のように輩出されるような研究分野では、研究職の雇用というのは買手市場ということになりますので、一研究員として働いてもらう若い研究者の転職先を大企業に求めるのは難しいということになります。
ただし、退職する研究者が出てきたりときに補充するための若手研究者の求人を実施するケースもありますし、プロジェクトなどの大きな研究チームの創設によって特定分野の研究者を急遽補充する必要性が出てくる場合もあるかもしれません。
逆に、多くの優秀な新卒研究者が大企業に持っていかれるような中小企業やベンチャー企業と呼ばれるような会社は、転職希望の若手研究者に触手を伸ばすということもあります。
むしろ、大企業で研究職としての経験を積んでいる中途採用した研究者が自社で中心となって研究に邁進してくれるというのは、新卒を採用するよりもメリットがあると考える中小企業やベンチャー企業は多いのではないかと思います。
そういう意味では、20歳代や30歳代前半の研究者が転職先を探す場合には、転職サイトに登録されている求人を見るだけでなく、登録時に出す職務経歴書を見て企業の採用担当者、あるいは、人材紹介会社の担当者から連絡を待ったり、自分の研究分野に関係する会社の採用情報を大企業から中小企業まで幅広く検索していくことになります。
学部、修士、博士のどの節目でも解禁日になると同級生よりも多くのオファーがありましたし、30歳代、40歳代の転職の際も転職サイトや人材紹介会社のお世話になることも無しに1ヶ月もかかることなく転職先を決めることができました。
しかし、先に申し上げたように20歳代や30歳代の転職活動はタイミングが予測できないということもあり、通常の転職サイトや人材紹介会社を利用するケースでは転職先が見つかるまでに3ヶ月、半年と時間がかかる可能性もあります。
従って、いずれは転職することになるかもしれないと危惧するような状況であるならば、現在の会社にばれないようにしながら普段から求人や採用情報には目を通しておくことをおススメします。
転職する気は無くても、関連企業の動向を見るという意味では現職の研究にも役立つ可能性もあります。
30歳代後半以降は研究現場をまとめ上げる能力が期待される!
30歳代後半以降の研究職が定年までにまとまった研究成果、特に、会社の利益につながる研究をゼロからスタートさせるというのは無理のある年代と考えられます。
出来ないとまでは言いませんが、期待度はかなり低いのではないかと予想されますし、逆に、転職先で新たな研究をスタートさせて会社の利益に貢献することを期待されるということであれば、かなりハードルの高い転職先ということになります。
従って、30歳代後半以降に転職できる会社は、その会社の既存の研究を具現化するように導いてくれるリーダーシップを期待する会社が多いのではないかと推測されます。
会社側から考えれば、優秀な研究職を高額の報酬で研究スタッフごと引き抜くというヘッドハンティングという方法もありますが、研究職では前職の研究成果に関する権利関係もありますので研究者をヘッドハンティングをするような会社はかなり少ないと考えておいた方が良いように思います。
加えて、最初の転職先があらかじめ打診されていた大学教官ということで転職は円滑に行うことができましたし、大学から中小企業への転職も利害関係が発生するわけではなく知人の紹介でしたので、30歳代、40歳代の転職といっても、他の人よりは楽だったのではないかと思います。
今では大学発ベンチャー企業も盛んに立ち上げられているので事情は異なっているとは思いますが、大学は製造販売するわけではないので大学への転職というのは前職の企業にとってもデメリットが少ないという考え方もあったようです。
一般的には、大企業や中小企業に関係なく競合している会社への転職というのはリーダーシップを期待してのことであっても、出す会社も受ける会社もそれまで行ってきた研究成果に関しては慎重にならざるを得ませんので、転職に関する手続きは複雑になると考えておいた方が良いと思います。
研究職として新卒で就職するにしても転職するにしても、研究者そのものが少ない領域を専門分野にしていると就職は有利ということですか?
特に、大学教官に転職するためには博士号を取得している必要がありますので、ニーズさえあれば博士号を取得している研究者が大学教官への転職するというのは比較的可能性が高いのかもしれません。
ただし、各大学の公式サイトで大学教官の求人が出されていますが、情報が公開された時点で候補は絞り込まれているという話を聞いたことがありますので、大学教官への転職を考えている人は自分の出身大学の教授に相談して根回しをお願いしておいた方が良いかと思います。
大学教官をしている知人から、「他にエントリーがなければ困るので履歴書や研究歴の書類を出してくれませんか?」という打診を受けたこともあります。その時は転職を考えていたわけではないので、エントリーしたことが会社にばれたら困るので断りましたが・・・
就職も転職も苦労が少ないようで、あまり参考になりそうにないですね(笑)でも、最後の転職は、普通の方がしているのと同じように転職サイトを利用して転職されたのですよね?
その時の話も聞かせてください。
転職サイトを利用した研究職の転職!
転職サイトに登録する際には履歴書に加えて職務経歴書というのを出しますが、エントリーする際の職務経歴書にはどんな研究をしていたのか何故退職することになったのかといった経緯を問題のない範囲で正直に記入します。
現在の会社にいる人が見る可能性もありますので、会社に退職する意思を伝えていない間は個人が特定できないように具体的な研究内容は記載できませんが、退職の意思を伝えた後ならば学会発表や特許などの公開されている情報について後から書き加えることはできます。
実際には、名前は伏せられているといえども、履歴書を見ればおおよその見当は付きますのでこっそり転職活動するにはリスクを伴うということは覚悟しておいた方が良いのかもしれません。
人材紹介会社の担当者から職務経歴書修正の要求!
退職の意思を現在の会社に伝えた後は公開可能な範囲で研究内容や退職理由を書いた職務経歴書が名前を伏せて公開されているわけですが、「研究内容はともかく、退職する理由については円満退職を前提に暈してください」という連絡がありました。
このときに「円満退職とは?」ということを真剣に考えることになりましたが、相手の会社の心証が悪くなるから書き直してほしいということでした。
これについては人材紹介会社の担当者によって見解は異なっているようですが、「現在の会社に不満や憤りを感じているから転職するというのに、その部分を暈してしまっては単なるこらえ性のない人間と思われてしまう」と食い下がりました。
最終的には、紹介してもらえなければ前に進みませんので書き直しましたが、面接の際には「差し支えなければ退職に至った理由を教えていただけますか?」という形で聞かれることにはなりました。
現在は個人情報に気を遣う時代で面接で聞いてはいけないことは事前にリストアップされていますが、採用を考える企業にとっては研究歴と退職理由というのは最も知りたい情報ではないかと思いますし、個人情報保護法が無かった当時では当然の質問かと思います。
もちろん、自分に非のある部分は伝える必要はありませんが、忍耐面に問題があったと思われないようにするために、退職しなくて済むようにした努力やその努力に対する会社の反応や変化などのプラス面はアピールした方が良いと思います。
その会社で面接をする側に回ったときに感じたことは、前職を辞めた理由は会社にとっては参考程度のものでしかなく、むしろ、その会社でどのような仕事ができ自分を採用することが会社にとってどのようなメリットがあるのかをアピールできることの方が重要であるということで、それは転職者だけでなく新卒であっても事前に準備することが重要であると思います。
専門分野でなければ的外れな話になるのかもしれませんが、合致するようなことは会社に入って内情を把握できてから考えればよい話であって、むしろ、意気込みや意欲が感じられるということが大事ではないかと思います。
それはそうですね!人柄というのは面接している間に分かりますし、会社にとっては過去の話はどうでもよく未来を見据えることの方が大切ですもんね!
そして、未来という意味では採用された会社で研究開発を実現するための手段や計画が大切であり、次回は、具現化するための心構えも含めてお話しさせていただきたいと思います。
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