高校や大学はもちろんのこと、それらの学校を卒業し社会人になってからも英語を学ぶ人口が急増するに伴って、英語の能力試験にも注目が集まるようになってきました。なかでも一番頻繁に耳にするのはTOEICでしょう。この名前を聞いたことがある人はかなりの割合になるのではないでしょうか。しかし、それ以外にも様々な英語運用能力試験・資格試験があることを知っていますか?そして、TOEICはリーディングとリスニングという英語スキルの一部しか測りませんが、実はこのような試験はある意味少数派で、4技能全てを測る試験の方がメジャーなのです。今回は、様々な英語能力試験の紹介とそれらの特徴を踏まえた比較について焦点を当てていきます。
どのような英語運用能力試験があるか知っていますか?
みなさんは、TOEIC以外の英語能力試験の名前をいくつあげることができるでしょうか。実は、通訳を目指す人用の試験など、専門的なものも含めると挙げようと思えばかなりの数があるのですが、ここでは多くの日本人が受けるであろう英語能力試験の中から、主なものをピックアップしてご紹介していきます。
まずはTOEIC。社会人のみなさんにとってはTOEICが一番馴染みのある試験でしょう。ここでは、最もメジャーであるTOEIC L&Rについて使います。これは、ビジネス場面で想定されるメールのやり取り、会議などのシチュエーションで使われる英語の運用能力を測ることに特化したものです。リーディングとリスニング試験をぶっつけ2時間という長時間で行う、なかなかヘビー(!)な試験です。
海外留学(特に高校・専門学校・大学学部・大学院などへの留学)を考えている方は、TOEFLやIELTSを受けることになるでしょう。この2つは、アカデミック分野での4技能の英語力を測る試験です。つまり、大学などの授業についていけるレベルであるかどうかを見るためのものということになります。人文系や理系など、幅広い学術分野からの長文問題が出題されるのが特徴です。TOEFLとIELTSの違いは、前者がアメリカの機関(ETS)が実施するアメリカ英語の試験であるのに対し、後者はイギリスの機関(日本英検協会またはブリティッシュカウンシル)が運営するイギリス英語の試験です。アメリカへ留学する方はTOEFL、カナダ・イギリス・オーストラリア・ニュージーランド・アイルランドへ留学場合はIELTSの受験が推奨されます。
また、実用英語技能検定(英検)という試験も聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。中学・高校では学校から申し込みができたりする場合もあるようですが、社会人になるとTOEICの存在感が大きくなるので忘れかけていた、という方もいるかもしれません。しかし英検も、4技能をしっかり測る立派な英語能力試験。TOEFLやIELTSのように内容にバイアスがかかっていない(日常生活で使用される英語を想定して作られている)ので、「総合的な英語力を図りたいが、留学は考えていない」と言った方には真っ先にお勧めする英検です。ただし、基本的にこの試験が通用するのは日本国内のみです。
ケンブリッジ英語検定(ケンブリッジ英検)は、先ほどの英検と対比するなら「英検の世界版」。日本の英検とは異なり、国際的な認知度があるため、世界中で受験されている試験です。英語圏で語学留学をすると、多くの学校でTOEFL・IELTS対策コースと並んでケンブリッジ英検用のプログラムも準備されているのがわかると思います。逆に、日本では認知度の低さからか上記の試験と比べると受験できる回数も限られており、月に数回〜となっています。
目的に合わせて試験を受ける
以上の5つが、日本人が主に受ける機会があると思われる英語能力試験です。それらの他にも「国際連合公用語英語検定試験(国連英検)」や「全国通訳案内士試験」などもありますが、分野がかなり限定されているマイナーな試験であることから、より需要があるとはいえないため今回は省略しています。資格試験マスターでも目指さない限り、国連で将来働きたい、または通訳を目指したいといった目標を持った方以外は受験する機会はないでしょう。
5つの試験を紹介しましたが、それぞれ若干目的が違います。特にTOEICです。筆者の視点では「TOEIC」と「TOEFL/IELTS/英検/ケンブリッジ英検」とで壁があると考えています。一つ目の理由は、計測する英語スキルが異なること。もう一つは、身につくスキルの差があるからです。繰り返しになりますが、TOEICはリーディングとリスニングの2スキルしか測りません。しかも、TOEICで使われる英語は、他の4試験(英検・ケンブリッジ英検は一番上の級と想定します)とは比べものにならない(といっても過言ではない)くらい易しいです。そしてリスニングはネイティブスピードとは遠い、ゆっくりな英語学習者向けのスピード。そのため、「英語力向上」という観点から見ると、TOEICはあまり有効な試験ではないと言えると思います。「就職や転職・昇進などをふまえ、会社に英語力とポテンシャルをアピールするため」などといった目的に割り切るのが無難です。
反対にTOEFL/IELTS/英検/ケンブリッジ英検は英語力向上という目標を持った中で、自分のレベル感を都度チェックするために有効と言えるでしょう。TOEFL/IELTSはアカデミック英語の試験であると説明しましたが、リーディングの長文問題のトピックは様々な分野(科学や社会学など)を網羅しているので、留学目的ではない方にも十分に価値のある試験といえます。
記事の後半に、筆者が考えるこれらの試験を受ける順番を説明しますが、その前にそれぞれの試験をもう少し詳しく見てみましょう。
英語試験の特徴
TOEIC
ビジネス英語を測る英語とはいうものの、他の能力試験と比べて求められる英語力は総合的に見て低いので、どの学習者にもまずおすすめしたい試験です。リーディング・リスニング共に、長時間で多くのパラグラフを読む(ここでは一つの文章または大問が長いということではなく、短めの文章を複数・多数こなしていくという意味)ことが必要になりますので、集中力・体力勝負な部分もあります。
しかし、厳密にいうと、英語力の一部(リーディングとリスニング)しか計らないため本当の意味での英語力を計測することはできません。これが、「TOEICで900点以上取れていても喋れない」と言われる理由です。TOEICだけを目標に英語の勉強をするとすれば、スピーキングやライティングの対策は全くする必要はありません。よく考えてみれば当たり前ですよね。もちろん、もともと4技能の勉強をしている人は基本的に高得点を取れます。しかし、その逆、つまり高得点を取れているからといって英語のコミュニケーションができるという式にはならないのです。
とはいえ、日本では広く知られた英語力を証明する重要な手段であるTOEIC。分野にかかわらず、新卒・既卒採用では「TOEIC○点以上を有すること」などといったように、一定の得点を応募条件に設定している企業の数がますます増えています。また、採用に限らず、社内の昇格試験などでもTOEICで一定点数を求める場合もあるようです。また、外資企業であれば、社内の書類等が英語になる割合が増えるなどといった事情を踏まえ、より高得点(800点以上)が必要となってきます。現在は海外で留学をしていたり勤務をしていたりする方も、いつかは日本で働くことを視野に入れている場合が多いのではないでしょうか。日本で働く可能性があるのならば取っておいて損はない、これが筆者がTOEICをまずおすすめしたいと思うもう一つの理由です。
ただし、国際的な認知度はかなり低く、受験者のほとんどを日本人と韓国人が占めています。よて、海外留学や移住などをふまえて英語力を証明したいという方にとっては、活用の機会がないため他の試験を受験することが必要になります。日本国内で、日本人相手に英語力を証明するための試験と覚えておくと良いでしょう。
TOEFL/IELTS
留学を目指す方の多くが受ける試験ですが、そうでない場合にも4技能を測るための良い手段です。先ほどお話ししましたが、留学先の国が決まっている場合は推奨されている試験を受けましょう。
そうでない場合、または留学目的でない受験の場合はどちらを選ぶべきか?感覚的な話になる部分もありすが、両方受けたことがある筆者の視点から違いを説明します。両者では受験形式が違います。
TOEFLはコンピューター形式、IELTSは筆記です。特にライティングではタイピングよりも紙に書く方が向いている、と思った筆者は最終的にIELTSに絞って対策を行いました。また、スピーキング試験も大きな違いが。IELTSは面接官相手の1対1インタビュー形式である一方、TOEFLはパソコンから流れる音声などを拾って、マイクを使いパソコンに向かって解答をします。筆者はTOEFLのこの不自然さ(笑)がどうしても苦手でした…。大きな違いはこの2点ですが、好みに合わせて選択するのも一つの手段でしょう。また、アメリカ英語・イギリス英語の好きな方があればそれに合わせて選ぶのも良いと思います。
実用英語技能検定(英検)
今回紹介する試験の中では、ある意味で一番クセがなくとっつきやすい試験かもしれません。デメリットを挙げるとすると、受験日が1年に3回しかないこと。そして試験が必ず2日になること(TOEFL/IELTSは1日で完結できることが多い。受験会場にもよります)。そして日本でしか通用しないことです。
とはいえ、一つ目のデメリットについては、頻繁に受験をしても英語力はそんなに変わることがないので、インターバル4ヶ月はある意味妥当であるとも考えられます。1級の語彙問題は、はじめは驚くほど難しいと感じるかもしれませんが、逆にこれらをマスターするとネイティブレベルのラジオやニュースが一気にわかるようになります。
ケンブリッジ英語検定
国際的に認知された試験にこだわるのであれば、ケンブリッジ英検もTOEFL/IELTSと合わせてお勧めします。世界的に認知された語学力のレベルを表すCEFR(Common European Framework for Reference)に準拠したカテゴリー(日本の英検でいう級)が設定されています。
CEFRレベル | ケンブリッジ英検カテゴリー | (参考)英検カテゴリー |
C2 | CPE | 1級 |
C1 | CAE | 1級 |
B2 | FCE | 準1級 |
B1 | PET | 2級 |
中級レベルであればFCEから受験を始めることになるでしょう。注意すべき点は、語学留学であればその心配をする必要はないかもしれませんが、日本ではマイナーな試験であるがゆえテキストが少ないこと。そして英検ほどではありませんが試験日が限られてくることでしょう。
各試験を受ける順番は?試験の活用の仕方
ジェネラルな英語力を総合的に向上させる場合、ずばり、(TOEIC700〜800点程度→)英検準1級→TOEIC900点→TOEFL/IELTS or 英検1級です。
ここでは、英検準1級を受ける前に、センター試験の英語で8〜9割得点できることが前提です。センター試験で8割を超えられない、大幅に下回る場合は少しセンターレベルの単語や文法などを抑えて対策をしてみると良いと思います。
英検準1級は、大学初級レベルです。センター試験でそれなりの点が取れているのであれば、語彙力強化をしっかりし、過去問をきちんとこなせば合格は見えてくるでしょう。ただし、不安な場合はTOEIC700〜800点目標から始めても良いでしょう。
このレベルまでいけば、TOEICの語彙はある程度網羅できているので900点が見えてきます。あとはビジネス特有の表現等を覚えること。そして、この試験のリーディングパートで大切なのは精読力よりも短い文をさっと読み内容をつかめるような速読力です。テンポよく各文を読み解答していくこと、それを長時間(1時間)続けられる体力を鍛えること。リスニングパートでも、他の資格試験に比べると比較的短めの文章の聞き取りを多くこなすことになるので、集中力を長時間保つ訓練を積むこと。これがTOEICの対策です。2スキルしか対策できないとはいえ、ベースとなる力は十分につきます。どちらかというとTOEICは、資格試験のなかで最終目標になるであろうTOEFL/IELTSの高得点取得や英検1級突破への踏み台のような役割となります。
TOEICで高得点を取れ、速読力がついたら、TOEFL/IELTSまたは英検1級へと移りましょう。
英検1級の最大の関門は何と言ってもはじめの語彙問題にあります。ここを制することができなければ1次試験合格は厳しいです(他のパートで満点近くでも取らない限り)。とはいえ、語彙問題で満点を取る必要は全くありませんし(「制する」と書きましたが、そもそも、英語のレベルが高い=合格するのが難しいではありません。あくまでも合格できるレベルで良いのです)、それ以外のリスニングなどのセクションはそこまで難易度は高くありません。また、留学する目標があるのであればTOEFL/IELTSを先に受けても良いでしょう。英検1級とTOEFL/IELTSの順番はフレキシブルに決めてあげるといいと思います。
それぞれの試験の特徴を知り、上手に活用しよう
今回は、主な英語運用能力試験の特徴と比較を中心に、活用の仕方までをご紹介しました。
ただ履歴書に書くためだけに英語試験を受けるのと、目的を持って受験するのとでは大きく結果が違います。まずは自身の英語学習の目標を決め、それに合わせて試験対策を行っていきましょう。
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