近年盛んなWEB上からの作家デビューについて、わかりやすく解説します。出版市場に突如として出現し、関連事業を巻き込みながら市場を席捲したWEB発の「新文芸」。その特性から何かと揶揄されることも多いジャンルではありますが、小説家としてデビューするための新しい道が開けたともいえる、記念すべき形態です。

本記事ではWEB発の小説の状況とその特徴、各種小説投稿サイトについて、具体的な書籍化手順なども含めて詳しく見ていきたいと思います。

小説は長らく科学技術の進歩から取り残され気味でしたが、ここに来てWEBとの本格的な融合を果たしたとも考えられます。この新潮流に乗り遅れないように、少なくともその概要については理解しておきましょう。

記事の信頼性としましては、筆者自身が実際にデビュー予定の小説家であり、複数の出版社との交渉経験があります。

 

WEB発小説の躍進

まずはWEB発の小説と、その作家を取り巻く全体的な状況について見ていきましょう。

未だ勢いの衰えない新市場には、どのような特徴があるのでしょうか。彼らは閉塞感のあった書籍市場をどのように塗り替え、今後どのような展開が期待されているのでしょう。

未だに売れ続けているWEB小説

WEB発の小説が爆発的な人気を博し、カドカワがこれらの作品群を「新文芸」と名付けてこれが定着してから、しばらく経ちました。「新文芸」の現状は『このすば!』や『リゼロ』に変わる新たなスター作品待ちの状態とも言えますが、その勢いが衰えたわけではなく、むしろメディアミックス化は加速している状態です。

ライトノベルという新ジャンルが誕生してからかなりの年月が経ちましたが、一旦その波は落ち着き、むしろ陰が差し始めたのではないかとも思われた時期もありました。「新文芸」はこのようなライトノベル産業の新たな起爆剤となり、出版業界の流れまでも変えてしまうような巨大産業に成長しましたね。

「新文芸」がライトノベル業界に与えた影響は、大きく二つです。一つは、ゲーム的な要素を持つファンタジー世界の興隆。二つは、電子書籍関連事業と結びついた小説の電子コミックス化の加速です。他にも「新文芸」の影響は数々あるわけですが、非常に象徴的かつ代表的なものはこの辺りだと思います。

「新文芸」は最初のピーク期を過ぎた段階であるといえますが、だからといって衰退基調にあるともいえません。ピーク期がお化け過ぎただけです。おそらくはこのまま、ライトノベルの一形態として定着していく過程であり、新たなスター作品の登場によってもう一度、ピーク期を迎える可能性も高いものと思われます。

「新文芸」の特徴

「新文芸」の小説には多様なジャンルが存在しますが、その中でも「異世界もの」と呼ばれるテーマ小説が圧倒的なシェアを誇っています。いわゆる「異世界転生」、「異世界召喚」といった状況設定の小説ですね。これらのテーマ小説が圧倒的な支持を受けて発展したのが「新文芸」ですが、最近の潮流は微妙に変わりつつあるのも現状です。詳しくは別項にて後述いたします。

これまでの常識とは異なり、「新文芸」作品には出版以前からWEB上のファンが付いているのも特徴です。普通は特定の「作家」のファンはいても、実際の本が発売されるまで「作品」のファンというのは存在しません。当たり前の話ですが。しかし、「新文芸」は元々WEB上で一定の読者を獲得している作品を改めて本の形にするため、発売前からおおよその売り上げ見込みを立てることができるのも特徴です。

出版社側のメリットは、これだけではありません。新人作家の発掘というのは、通常自社において開催される新人賞から行っていたのが今までの流れでした。しかし、「新文芸」はWEB上の作家をスカウトする形式のため、新人賞の運営コスト等がかからないのが特徴です。上記の売り上げ見込みと合わせて、「新文芸」は出版社側にとってはメリットの大きな形式であるわけです。

また作者側にもメリットがあります。新人賞を通過して作家となる場合、選考期間を含めて、書籍が出版されるまでには最低1年からそれ以上の時間がかかります。それは職業作家においても同じで、新作を出すためには事前に企画書等を出して会議を通し、編集部のGOサインをもらう必要があります。しかし「新文芸」の場合、そのような選考や企画をすっ飛ばしていきなり「書籍化」から話が始まります。「新文芸」は、作家と出版社ともに、Win-Winの関係が実現する形態であるわけです。

WEB発小説家の生存率

「新文芸」はライトノベル産業内部における、一つの独立勢力とも捉えることができます。そのため、新人賞を通過せずにWEBから拾い上げられた「新文芸」作家と、新人賞を通過していわゆる職業作家となった「ラノベ」作家を同質の存在として取り扱うのは、いささか正確さに欠ける部分があります(どちらが偉いという話ではなく、単純に性質の違いとして)。

ですので、類似ジャンルであるライトノベル作家の生存率を、「新文芸」作家にそのまま適用することはできません。ライトノベル作家が新作を出す際には、企画書の提出や編集部との協議など、様々なプロセスを経ます。また、その作家自体に出版社が本を書かせてくれるかどうか、いつまで売れない作家の面倒を見るのか、という問題も存在します。

しかし、「新文芸」作家の主戦場は出版市場である以前に、WEB上の小説投稿サイトです。彼らが新作を書いて公開するのに、企画書の提出も会議を通る必要もありません。それがWEB上の読者の支持を得たならば、また書籍化の話が舞い込むことになります。そこに作家の実績や経歴はほとんど関係せず、単純に「その作品は売れる見込みがあるかどうか」で判断されます

ですので、そもそも「新文芸」作家に“生存率”という言葉を当てはめる方が間違いなのかもしれません。彼らは出版社に見限られようとどうしようと、WEB上に作品を公開し続ける限りチャンスがあります。つまり、「新文芸」作家が本を出し続けられるかどうか、作家であり続けられるかどうかは、単純に本人の執筆能力と意欲に依存することになります。

事実、「新文芸」作家の中には、何本ものシリーズを並行して連載し、同時に書籍化を進行させている場合もあります。こういった動きは、これまでのライトノベル市場にはほとんどなかった動きです。

 

主要な小説投稿サイト

次に、これら「新文芸」の母体となっている各小説投稿サイトについても解説します。支配的に君臨している最大手である「小説家になろう」に続けと言わんばかりに、各社がこぞって新規サイトを立ち上げ、新しい事業モデルを模索しています。

各サイトにはそれぞれの特徴がありますので、参入の際には参考にしてください。

小説家になろう

言わずと知れた最大手であり老舗日本の小説投稿サイトを牽引し、支配的に君臨するのが「小説家になろう」です。「新文芸」はここから始まったと言っても過言ではありません。小説投稿数は数十万単位と他サイトを大きく引き離し、その激しい競争の中から数多くのヒット作を輩出しています。

その最大の特徴は、日々変動するランキング形式です。評価ポイントとブックマーク数という二点評価によってランキングを上り、注目されることで、膨大な量の読者を一気に獲得することが可能です。また作者数も読者数も圧倒的に多いため、このサイトで注目を集めると、比較的早い段階で書籍化の話が舞い込むことになります。

新文芸初期のスター作品である『魔法科高校の劣等生』や『このすば!』、『リゼロ』といった作品群は全てこのサイトから誕生しました。現在でも『転スラ』や『ゴブリンスレイヤー』といったスマッシュヒットを連発し、アニメ化コミック化も含めてその勢いは衰える兆しを見せません。

どのサイトに投稿しようか迷ったら、とりあえずここに投稿しておけば良いほどの老舗となります。ランキングによる作品の流動性が高く、日々注目される作品が変わるのも特徴の一つですので、実力さえあればすぐに書籍化を決めることができるでしょう。

また自社レーベルから出す新作を探している出版社も、このサイトの動向を常に窺っています。あらゆる面で注目度ナンバー1のサイトといえるのが、最大手「小説家になろう」です。

カクヨム

「新文芸」専門レーベルを立ち上げたカドカワが、自社が運営する小説投稿サイトとして開設したのが「カクヨム」です。業界最大手の出版社が独自に運営しているため、洗練されたUIや各種先進的な機能が揃っています。

「異世界もの」などの単一ジャンルが支配的な傾向のある「小説家になろう」とは異なり、比較的多様なジャンルの小説が投稿されているのが特徴です。また、最近では作者が投稿作品から収益化を可能とする機能も実装予定であり、カドカワの資金力とこういった新機能によって、まだまだ爆発的な成長が見込めるサイトであるといえます。

カドカワが直接運営に携わっていることもあり、書籍化のチャンスも豊富です。また、その最初期に書籍化されたのが「横浜駅SF」という「新文芸」としては変わった作品であることも、「小説家になろう」との差別化意識が感じられます。コンテストなども常時開催しており、最近ではラノベ業界の最大手である電撃文庫もカクヨム内での書籍化コンテストを開始しました。

後発ということもあり、現状では読者数など様々な面で「小説家になろう」に大きく差を付けられているのが現状です。しかし大手資本が入っていることもあり、今後の先進的な機能の実装と共に、大きな躍進が期待できるサイトであるといえるでしょう。特に作品の収益化は面白い機能だと思いますので、今の内に参入しておいても良いのではないでしょうか。

エブリスタ

エブリスタは、DeNAとドコモが運営する小説投稿サイトです。元々モバゲーから始まったこともあり、上述の「小説家になろう」や「カクヨム」とは異なり、携帯小説的な趣のあるサイトです。

ファンタジー等に加えて、女性向けの恋愛小説やBL作品が強いのが特徴です。しかし何か一つのテーマが突出して支配的であるというよりは、作品のバラエティ化が強い傾向にあります。

書籍化、漫画家作品としては、『奴隷区 僕と23人の奴隷』や『王様ゲーム』など、ヒット作品もしっかりと輩出しています。

いずれにせよ上記2サイトとは大きく雰囲気の異なるサイトですので、自分の作品がどこにも当てはまらないと感じている方は、こちらのサイトの方を覗いてみてもいいかもしれません。

 

どうすれば書籍化するのか

各小説投稿サイトの特徴について確認したところで、具体的にどのようなステップを踏むことによって、「新文芸」作家としてデビューできるのかを見ていきましょう。

従来の小説たちとはあらゆる面で異なる「新文芸」は、そのデビュー方法も独自のものとなっています。

人気を博すことによる書籍化

「小説家になろう」は作品のポイント制を導入しています。これは作品を最大10点のポイントによって評価する「評価ポイント」と、一件につき2点のポイントが付与される「ブックマーク」によって構成されています。このポイント獲得数に応じて、日間、週間、月間といったランキングが変動し、作品がランキング上に露出することによって、より多くの読者獲得に繋がるのが「小説家になろう」の特徴です。

そして書籍化の声がかかる基準というのも、この総ポイント数が基準になると言われています。最低ラインは1万ポイントほどともいわれ、3万ポイント程度を獲得すると、出版社から声がかかりやすいようです。しかしこれはあくまで各出版社の判断によるところが大きいため、これだけのポイントを獲得すれば必ず書籍化する、という絶対的なラインは存在しません。

しかしとにかく、書籍化への近道は「小説家になろう」のランキングを駆けあがり、ひとまずは日間の上位を取ることです。日間の1位から5位までの圏内は俗に「表紙」とも言われ、ここを頻繁に覗いて新作をチェックする読者層が大勢います。ここに滞在している日数が長ければ長いほど、多くの読者が流入してポイントが増加し、より上位の週間、月間、四半期ランキングへと昇る好循環が生まれます。そうすると、自レーベルで出版する新作を探している出版社の目に留まり、書籍化の打診がされることになります。

「異世界もの」に連なる作品群が支配的地位を築いているのが「小説家になろう」の趨勢であり、他ジャンルでランキングを上るのはなかなか難しいのが現状です。しかし「異世界もの」でなくては書籍化されないというわけではなく、流行外のジャンルにあっても続々と書籍化がされています。単一のテーマ小説が強いのが現状とはいえ、「小説家になろう」はその作品数も読者数も他のサイトに比べて圧倒的に多いため、バラエティに富んだ作品が人気を博し、書籍化されています。

コンテストからの書籍化

また最近活発な動きとして、コンテストによる書籍化の流れがあります。コンテストは各出版社などが主催していますが、受賞して書籍化されるまで内容が公開されない公募とは異なり、すでにWEB上で公開されている作品が応募し、各種コンテストの審査基準に応じた選考を経ることにあります。

これらのコンテストは書籍化等を確約している場合がほとんどですので、人気を獲得することで出版社から打診を受けるのとはまた違うルートで、書籍化への道が開かれているともいえます。またこういったコンテストは現在乱立している状態で、常にどこかで、何かしらのコンテストが開催されています

ラノベ業界の最大手である電撃文庫もこのコンテストを主催しており、「電撃≪新文芸≫スタートアップコンテスト」が開催されています。電撃文庫は新文芸の誕生初期に『魔法科高校の劣等生』などをいち早く取り上げ、スター作品へと昇華させた実績のあるレーベルです。

現在も産業をリードする作品を多く手掛けているレーベルですので、これら強力なコンテストを通過することは、作家としてかなりのアドバンテージになりえるでしょう。

出版社からの拾い上げ

また、多くの読者人気を獲得したり、コンテストを通過したりする以外にも書籍化への道はあります。それが、出版社からの純粋な拾い上げです。人気の多寡に関わりなく、編集者が自分の判断でWEB上から公開されている作品に目を付けて、そこから打診するという形もあります。

たとえば、近年に大ヒット作品となった『君の膵臓をたべたい』があります。あまり知られていないことですが、この作品は元々「小説家になろう」で投稿されていた小説です。投稿された作品が作家の目に留まり、これを出版社に紹介したことで、出版へと至りました

このようなパターンは通常の書籍化パターンよりもずっと確率の低いものであると言わざるをえませんが、それでもネットに公開している限りは、このようなチャンスは確かに存在します。

この代表格である『君の膵臓をたべたい』は瞬く間に大ヒットとなり、映画化、アニメ化と躍進を続けています。現在の累計発行部数は単巻で260万部を突破し、これは主にシリーズ物として強い「新文芸」作品群として見ると、驚異的な数字となっています。WEB発小説の新時代の幕開けを感じさせる、大ヒット作品といえるでしょう。

 

WEB発小説家に必要な資質

躍進を続ける「新文芸」作家ですが、彼らにはどのような資質が必要とされるのでしょうか。彼ら新時代の作家に必要とされる資質とその作家パターンについて、詳しく見ていきたいと思います。

とにかく小説を書くことが好きなパターン

WEB上の小説を出版社がこぞって書籍化していくような状況が訪れるとは、過去には誰も予想していませんでした。そのようなWEB小説黎明期から精力的に活動していた作家たちが、現在スター作家として新文芸市場を牽引しています。書籍化やお金の問題を度外視して、読者に読んでもらうことだけを至上の楽しみとして執筆に励んでいた彼らは、ある意味では最も純粋な創作の形を体現していたと言えるでしょう。

小説家の商業人としての性質を度外視して、とにかく小説を書くことが大好きでたまらない人たちが書いていた作品が、今や出版市場の一角を支えているのはとても象徴的なことだと思います。

このように一つ目のパターンとして、何よりも小説を書くことが大好き、というパターンがあります。他の職業作家たちとは異なり、新文芸作家は書籍化の作業に追われながらも、WEB上での更新を心待ちにしている読者たちのために連載を執筆し続けるというハードワークをこなしています。こういった激務は、そもそも小説を書くことが何より好きでないと務まらないでしょう。

作品を何作も同時並行に連載し、それでいて何作もの書籍化作品を抱える新文芸作家などは、一体いつ休んでいるのかというほどのペースで作品を書き上げています。WEB作家には速筆さも求められますが、それを下支えしているのは、純粋に読者に読んでもらいたい、書くことが楽しくてたまらないと思える、類まれな性質があってのことでしょう。そしてそれは、もしかすると、商業で活躍していた従来の作家達が長らく忘れていた、純粋な創作の姿勢なのかもしれません。

WEBマーケティング的な観点から強い小説を出し続けるパターン

そのような情熱溢れる作家たちとは対照的に、あくまでマーケティングな視点から作品を書き続ける作家も存在します。彼らはサイト上のランキングの趨勢や市場の動向を見極め、現在どんな作品の需要が高いのか、どのような作品が書籍化に強いのかというのを敏感に察知することに長けています。

マーケットに対して「強い」作品を連発して投稿し、驚異的な執筆速度で何作もの書籍化作品を抱えている作家もいます。彼らは「新文芸」のマーケティング分析に優れた、いわゆる本当の意味での「職業“新文芸”作家」と呼ぶに相応しいのかもしれません。

しかし彼らにしても、信じられないほどの速筆で連載にあたっている場合がほとんどです。マーケティング分析というのは新文芸作家の強力な武器である一方で、それを実行するだけの気力と情熱が無ければ、そのような激務は務まりそうにもありません。

 

つまり、WEB発の新文芸作家に必要とされる資質とは、以下の二点のようになるでしょう。

  • 何よりも小説を書くことが好きだという純粋な情熱と、それを下支えする速筆能力
  • マーケットを分析し、読者層の厚いテーマを鋭敏に察知する能力

後者はともすれば、一種冷めた姿勢にも見られかねませんが、彼らの執筆努力と情熱というのは推して知るべきだと思います。

 

まとめ

出版市場に突如として現れ、鳴り物入りで新風潮を形成した「新文芸」作家たち。彼らの特性と市場の状況、そして彼らの主戦場である小説投稿サイトと具体的なデビュー手順等について眺めてきました。
彼らはあらゆる面において従来の作家たちの枠にはまり切らない存在であり、まさに“新”文芸作家として、新しい時代の小説家像を形成し始めているといえます。

新文芸市場は現在、「異世界もの」一強の時代から、新しい人気テーマの誕生が期待されています。しかしその活況ぶりを見るに、いつその時が訪れてもおかしくない状況だと言えるでしょう。その新たな爆発的人気ジャンルの台頭をいち早く察知し、ここに先駆者として参入することができれば、新たな市場を牽引する新文芸作家の旗手としての活躍が期待できます

作品の特性から批判を受けることも多い彼らですが、その執筆に打ち込む姿勢というのはやもすると、商業作家たちが長らく忘れていた純粋な創作の形なのかもしれません。

これら新市場がこれからどのような発展を遂げ、どのような形に落ち着いていくのかは誰にも予想がつかない所だとは思います。しかし小説家という職業の新たな局面が切り開かれつつあることには、間違いないでしょう。