「英語には敬語がない」、「How are you? は死語」などという謳い文句を目にすることがあります。
いずれも、“日本人の英語はおかしい”“ネイティブならこう言う”という感じの語学サイトや本であり、「あなたの英語は間違っている!」と脅かし、自信を無くさせることで、自説を強く主張するという作戦なのではないかと思います。
「日本人のヘンな英語」という本が、20万部のベストセラーというのは、日本人がいかに自分たちの英語に自信がないかということの現れではないでしょうか。
そこで今回は、巷にあふれる「おかしな日本人の英語」について考えてみたいと思います。
How are you? は死語!?
中学英語の教科書で習う、“How are you?””I’m fine thank you.” は、実際はあまり使われない「死語」。そう語るのは、外国人英語講師たちが教える「日本人のちょっとヘンな英語」という座談会。
こちらの記事によると、“Hey.”や、“What’s up.”など、もっとカジュアルな言い方をし、“How are you?”では、「初対面で、なおかつビジネスの場であったとしても、壁を作っているような印象を与えてしまう」そうです。
私はこの記事を読んだ時、激しい違和感を覚えました。というのも、“How are you?”は死語どころか、日常生活で普通に使われている挨拶だったからです。職場で人とすれ違う時、上司とのミーティングで、スーパーの店員さんから話しかけられた時など、様々なシチュエーションで“How are you?”という言葉を聞きます。もし、ビジネスの場でスーツを着たビジネスマン風の男性に“What’s up?”といきなり話しかけられたならば、驚いて一瞬言葉に詰まってしまうことでしょう。
“Hey”や、”What’s up?”は、友達同士、特に若者の間のカジュアルな挨拶では良いかもしれませんが、いい年をした大人の間では使わないほうが無難な挨拶です。念のため、イギリス在住、アメリカ在住の英語の先生にも意見を求めましたが、「普通にHow are you?」と言うとのことでした。さらに、ビジネスの場でいきなり“Hey!”と話しかけると失礼なので、そんな事は言ってはいけないとのことでした。
ただし、日本人の生徒に“How are you?”と尋ねると、ほとんどの場合、“I’m fine, thank you. And you?”と答えるそうですが、この機械的な対応は少し奇妙に思えるとのことでした。“I’m fine, thank you. How are you?”と聞き返すほうが、丁寧で感じが良いとのことです。
この外国人講師たちがどのような意図で、日本人の英語学習者に“What’s up?”を広めようとしているのかどうかは分かりませんが、“ネイティブ”が言うことだからといって鵜呑みにすると、とんでもない間違いをおかしてしまうことになりそうです。
My name is・・・は時代遅れ?
「日本人のヘンな英語」では、“My name is ○○”は、まるでサムライが話しているかのように古い、と説明しています。この本によると、正しくは“I’m 〇〇”だそうです。
これも著者の“マイ・ルール”なのではないかと疑ってしまいます。日常生活でも、本や映画、ドラマなどの世界でも、“My name is 〇〇”、“I’m 〇〇”のどちらも使われています。強いて言えば、“My name is 〇〇”のほうが、よりフォーマルではないかと思います。
ヤンキースに移籍した田中将大選手が、入団記者会見で“My name is”と自己紹介したところ、“I’m 〇〇”が普通!“My name is”は江戸時代!という意見がありました。これも、入団記者会見というフォーマルな場面でTPOをわきまえた言葉遣いであり、恥じる必要はないと思います。
Thank you very muchは慇懃無礼?
さらに、「日本人のヘンな英語」によると、“Thank you very much.”は皮肉っぽく聞こえるため、“Thanks”、または“Thanks a lot.”が正しく、“You are welcome.”は高飛車なんだそうです。
作者さんは一体どのような世界に住んでおられるのでしょうか…。
“Thank you very much.”が“日本人のヘンな英語”として取り上げられるのであれば、日本で英語を学んだ人たちが口に出来る言葉は極端に制限されてしまうのではないでしょうか。
“死語”ばかりで成り立った会話
この本を読んだ後、本で取り上げられていた「日本人のヘンな英語」ばかりで成り立った会話を耳にする機会がありました。
アメリカの空港で、予定されていたフライトが大幅に遅延した時のことです。乗り継ぎフライトやその後の予定を変更する必要があったのでしょう。1人のアメリカ人男性が、携帯で連絡を取り始めました。
Hi. How are you? My name is 〇〇. と取引先らしい相手に切り出した後、
フライトが遅れたため、到着予定が遅れ、今後の予定を変更せざるを得なくなった。3時間ずつ予定をずらしてください。
と説明していました。
その後、Thank you very very much. と心を込めてお礼を述べておられました。
この会話を聞いて、アメリカ人講師が“ダメ出し”したフレーズ満載で成り立っていた会話に感動してしまいました。
まとめ
“日本人の英語はヘン”、“ネイティブならこう言う”というキャッチーな言葉に惑わされてしまうと、「自分の英語は間違っているのではないか。古臭いのではないか」と発言する自信が無くなってしまいます。
このような“ネイティブ”の助言を真に受けて、ビジネスの場で開口一番“ツァップ?”などと言ってしまわないよう気をつけたいものです。
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