
ご存じのとおり“かがく”には
・科学
・化学(ばけがく)
がありますよね。今回は後者、化学業界についてお伝えいたします。

化学業界ってバリバリの理系のイメージが強いですけど、文系の方も目指していいのですよね?

もちろんです。理系出身者は研究・開発などで。文系出身者は管理・営業・事務として化学業界で活躍していますよ。
化学はコトバンクによると、次のとおり定義されています。

無機、有機、物理…。うーん。頭のキャパシティを超えそうなくらい化学といっても幅広いのですね…。

ですね。また化学の力で生み出された製品も実に幅広いのですよ。私たちの暮らしや生活を本当に豊かなものにしてくれています。
今回はそんな化学業界の基本情報、市場規模、総合化学メーカーと年収、動向、展望、経験者談、就職・転職のアドバイスについてもお伝えしていきます。
業界全体図から見た化学業界

セイジさん、化学業界は全体図から見るとどういう立ち位置なのです?

日経業界地図では「素材」に分類されています。
素材には鉄鋼や非鉄金属、ガラス、セメント、紙・パルプがありますが、化学業界では、
・ゴム
・合成繊維
といった化学素材を生み出しています。
日本のものづくり、メーカーの多くは化学メーカー、化学商社を通じ化学素材を仕入れ、さまざまな製品を世に送り出していますから、化学業界の周辺業界としては、ありとあらゆるメーカーが該当します。
詳細は後述しますが化学素材、化学品は石油、天然ガスから生み出されていきますので、石油、天然ガス業界とも深くつながっています。
化学業界の基本情報
化学素材の原料、基礎原料
繰り返しますが化学素材は石油がそもそもの原料です。そしてそこから化学素材の基礎原料が生み出されるのですが、その代表格がエチレンです。
エチレンは原油からナフサ(粗製ガソリン)を抽出し、そのナフサを分解して作られています。また日本にはエチレンプラントが関東以西に複数、点在しています。
もうすでにお気づきのとおり化学業界は石油、天然ガスの価格の増減がそのまま、生産体制や業績に大きく影響します。
総合化学メーカー
化学業界のなかで大手といわれているのは『総合化学メーカー』です。
・住友化学
・三井化学
が該当します。

不動産業界でいう総合デベロッパー、建設業界でいうスーパーゼネコンのようなものですね! そして3社とも財閥系。

鋭いですね! 上記3社は『財閥化学』とも呼ばれています。
総合化学メーカーは1社で総合的に事業を展開するだけのパワー(ヒト・カネ・モノ)を有しています。
総合商社同様、化学業界の発展の裏には財閥が大きく関わってきたといえます。当時の財閥が潤沢な保有資金を投じたからこそ、今の日本の化学業界があるといっても過言ではないでしょう。
そのほか旭化成、東ソーも合わせ5社が総合化学大手と呼ばれています。
総合化学メーカーの歴史
総合化学メーカーは1日にしてならずで、総合化学メーカーの歴史は、意外と長い(古い)です。総合化学メーカーのひとつ、業界大手の三井化学は1912年、三井鉱山の石炭化学事業が、また住友化学は1915年、過燐酸石灰を初出荷したのがはじまりです。
三菱ケミカルは1934年に日本タール工業が発足したのが最初で、その後、三菱化成となり、三菱油化と合併して三菱化学となりました。2017年、現社名に変更となっています。

明治~昭和初期(戦前)に化学業界は生まれ、発展してきたのですね^^
その他の化学メーカー
積水化学工業、宇部興産、信越化学工業、昭和電工そして俳優、高橋一生さんの「なんだし、なんだし、AGC」と踊るコマーシャルを出しているAGCなどがあります。
化学業界の市場規模の変遷
化学業界はエチレンの生産量でその規模、景況を推し量ることができ、日経業界地図もその指標を採用しています。
日経業界地図年度(実年度) | エチレン生産量(端数切り捨て) |
2017(2015) | 688万トン |
2018(2016) | 628万トン |
2019(2017) | 653万トン |
2020(2018) | 615万トン |
総合化学メーカー5社と年収一覧(各社有価証券報告書より抜粋)
・住友化学 9,035,111円
・三井化学 8,501,004円
・旭化成 7,871,666円
・東ソー 7,938,000円
化学業界・総合化学メーカーの動向
エチレンの原料のひとつである天然ガスで、頁岩(けつがん)層から採取されるものをシェールガスと呼び、特に2018年から日本に入ってくるようになったアメリカ産シェール由来LNG※が化学業界に大きな影響をもたらしています。※LNG=液化天然ガス
・ヘンリーハブ(ガス指標)で原油価格に左右されない
ことがメリットです。
また関連して、信越化学工業は安価な現地シェールガス由来エチレンから生産する塩化ビニール樹脂工場をアメリカに建設しています。
化学業界・総合化学メーカーの展望(予測)
4Gの100倍ともいわれる通信速度の5G(ファイブジー、第5世代移動通信システム)が2020年3月から、私たちも(専用端末を持ち、契約をしていれば)利用できるようになりました。
通信を司る半導体などにもシリコンウエハーといった化学素材が使用されており、今後各種機器が4G対応から5G対応へとシフトしていくとみられることから需要増が見込めます。
電子部品メーカー、半導体メーカーに化学素材を提供している化学メーカーはしばらく好調が続くと予測します。
化学業界トップ、総合化学メーカー3社を比較
三菱ケミカルホールディングス
三菱ケミカルホールディングスは三菱ケミカル、田辺三菱製薬、生命科学インスティテュート、太陽日酸を事業会社として持っています。
三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨンが統合しできた三菱ケミカルは、化成品、ポリマー/レジン/機能化学品、プラスチック加工品(フィルム/成形品/複合材)、炭素素材/炭素繊維複合材料、情報・電子・ディスプレイ・電池材料など幅広く化学素材を取り扱っています。
売上収益:3兆9234億4400万円(国際会計基準)
税引前利益:2880億5600万円(国際会計基準)
社員数:72020名
平均年齢:47.4歳
平均勤続年数:19.1年
住友化学
住友化学は自動車、家電製品、IT関連部材、建築・土木、農業・畜産、生活、工業用化学品、環境・エネルギー、医薬・医療に向けた化学素材を、グループ会社とともに幅広く取り扱っています。
京葉エチレン、大日本住友製薬、日本メジフィジックスなどをグループ会社に擁しています。
売上収益:2兆3185億7200万円(国際会計基準)
税引前利益:1883億7000万円(国際会計基準)
社員数:32542名
平均年齢:40.7歳
平均勤続年数:14.9年
三井化学
三井化学はモビリティ、ヘルスケア、フード&パッケージング、次世代事業、基盤素材の5事業部門を持ち、自動車、家電・情報通信、包装・印刷材料、ヘルスケア、建築・土木材料などに関連する化学素材を幅広く取り扱っています。
クルツァージャパン、サンメディカル、プライムポリマーなどをグループ会社に擁しています。
売上高:1兆4829億900万円
経常利益:1029億7200万円
社員数:17743名
平均年齢:41歳2月
平均勤続年数:18年2月
住友化学株式会社第138期有価証券報告書
三井化学株式会社第22期有価証券報告書
化学メーカー元社員から聞いた話

今回、化学メーカー、化学商社どちらにも勤務したことがある方にお話を聞けました。
化学商社での体験については試薬系化学業界の記事でお伝えしていますのでぜひ、ご参考いただけますと幸いです。

試薬については試薬系化学業界として深く掘り下げ、別に記事を設けています^^
化学メーカーでのお仕事、転職のしやすさ
化学メーカーは大きく分けて技術、製造、購買、営業、管理の5部門があります。
職種も部門に合わせ研究開発、生産技術、生産管理、品質管理などの技術職、生産ラインで作業する製造職、物流を兼ねることもある購買職、その他営業職、経理、人事、企画といった事務職となります。
大手になるほど仕事は細分化され、規模が小さくなるほど兼務が多くなる傾向にあります。
他業界同様、管理や営業に比べ製造部門のマンパワー(人数)は多いのですが、化学メーカーは研究開発職もそれなりに多いです。
化学業界は他業界に比べ、異なる業界からの転職流入については厳しいものがあります。そのため業界転換による入社難易度は高いと思います。化学メーカーの多くは昔ながらの日本企業的な社風で、業界全体を見ても転職が活発とはいえません。
ここ近年、少しずつ変化していると感じてはいますが基本的に、終身雇用的な考えが強く、新卒採用を重視する傾向にあります。
中途採用の場合、業界経験者かつ転職回数の少ない人材を欲する傾向にありますが、どの会社も製造職は慢性的な人材不足なため、未経験でも転職可能です。
化学メーカーにおける命令系統
前述したとおり化学メーカーは、昔ながらの日本企業が多く、職制が多段階設定傾向にあります。離職率が低いため社員の平均年齢が高いのですが、出世コースから外れてもポストが用意されていることも少なくありません。組織内の縦関係がよくわかりにくい会社もあります。
一例ですが上から順に本部長、部長、課長、係長、主任という感じです。もちろん本部長以上のポストもあり、そこは役員クラスとなります。このほか主席、次長、サブリーダーなどカタカナ役職の方もいて、会社によって順位が異なります。
元社員が化学メーカーで担当してきたお仕事
開発営業はホームページなどから問い合わせいただいた顧客に自社製品サンプルを提出し、その評価結果をヒアリングしながら社内調整していくのがメインになります。
面談相手(顧客)は研究開発部門の人であることが多く、日本全国、各地の研究所に要出張となります。ある程度技術的な質問にも答える必要があり、そのため自社製品に関しては知識をしっかり勉強しインプットしなければなりません。
ただし面談時、研究開発職も同席するため技術的な細かい内容は訊かれてもそこは任せればよく、求められるスキルは技術的知識より調整力、顧客管理能力のほうです。
また購買職は原料購入を担当します。市場動向を常にチェック、コストダウンを目指しての価格交渉も大切ですが海外輸入原料も多く、生産計画を崩さぬよう原料を安定調達することこそが最重要任務になります。
化学業界では、たったひとつの原料、供給メーカーを変更するにしても顧客評価が必要な場合も多く、かなりの労力と時間がかかります。そのためカンタンに原料を変えるのは難しく、同じメーカーから仕入れ続けられるよう管理する、これこそが購買の大きな仕事となっています。
化学メーカーで出世、スキルを磨く方法
化学メーカーは理系、まじめ、おとなしめの方が多いです。結果も大切ですが仕事に対しまじめに取り組む姿勢を周りに見せることが出世するうえでは重要と感じています。
化学業界では単一案件の進捗は比較的ゆるやかで長期間に及ぶことから、全体的に仕事のスピード感は遅いです。また保守的傾向が強いのですが、そのなかで
・自ら考えアイデアを創出し実行できる人
は貴重で、評価されると私は思っています。
また他国に拠点を置くような大手では海外赴任が、出世コースです。そのため若いうちから語学力を強化しておくと白羽の矢が立ちやすく出世への近道といえます。
最後に化学業界は、お酒やゴルフが好きな人が本当に多いです。そういったお付き合いの場に積極的に参加し、顔を売るとチャンスを得やすくなり、出世につながるかもしれません。実際、ゴルフ経験がないと役員になれない(という噂がある)会社もあるようです。

ここまで詳しく教えていただき感謝です!
最後に『転職とキャリアアップ』管理人として、就職と転職のアドバイスを書き記していきます。
化学業界への就職のアドバイス
三菱ケミカルの募集要項を参考にお伝えしますと技術系の採用は理系で、しかも
・化学工学
・機械
・電気
・電子制御
専攻者のみとなっていてかなり限定的です。しかし事務系であれば文理関係なく全学部全学科出身者が対象となっています。

すべての学生に総合化学メーカーに応募、入社できるチャンスがあるということですね^^
職種は事務系が営業、事業管理、生産管理、経理、人事、総務、購買、物流、情報システムなどで、技術系は研究開発、生産技術・製造、設備技術となっていました。
知的財産については事務系、技術系どちらも採用枠があるようです。
文理、学部関係なくすべての志望者は、なぜ化学業界なのか、なぜ御社なのかを志望先企業にハッキリと伝える必要があります。会社研究の段階でしっかりと分析し、答えを出しておくといいでしょう。
また就職・転職どちらにもいえますが理系専攻者は高専、大学、大学院で何を学んだのか、化学を応用してどのようなことをしたいのか、どう企業、社会に貢献していきたいかなどを各社のビジョンと照らし合わせつつ、考えてまとめておきたいものです。
ここまでは多くの学生が当たり前に行っていることですが、そこから差をつけるには「化学素材」そのものに興味を持ち、特性や用途などを把握、知識蓄積を重ねていくとよさそうです。
その研鑽に活用できるのが『特許情報プラットフォーム』です。企業名を入れ検索するだけで関連文献がいろいろと出てきますのでぜひ、会社研究の一助に利用されてください。
化学業界への転職のアドバイス
化学専攻者、精通者でもキャリア採用で化学業界・総合化学メーカーに入り込むには増員や人員補充案件が出ないかぎり難しく、かなり狭き門といえます。

その多くは非公開求人かも…。
そのため理系、化学業界、研究職などに詳しい、または特化した転職エージェントを探し、実際に支援をお願いして総合化学メーカーなどの情報や求人が出たら、紹介いただけるようキャリアアドバイザーとの良好な関係を日頃から構築しておきたいものです。
また研究開発分野などにおいて誰にも負けない経歴やスキルがあれば、スカウト登録も有効です。
まとめ

化学業界はさまざまな素材を生み出し、日本のものづくりを支えている業界でしたね。

そんな化学業界で、内定を勝ち取っていただきたいです!
就職と転職、共通していえることは、人生の目的と就こうとしている仕事の方向性が合致していることが重要です。それがミスマッチを防ぐカギで、長続きできるかその明暗を分けます。
人生の目的についてその意味を、これまで考えたことがない方は関連記事で説明していますのでぜひ、併せてお読みいただけますと幸いです。
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