鉄鋼業界の動向や魅力・大手企業の年収比較を就職・転職経験者のアドバイスを交え解説

私たちは「鉄」「鋼」のおかげで、かなり安全安心で利便性の高い生活ができているといえます。鋼(はがね)は鉄を鍛えて強くしたものです。

・乗り物(自動車、新幹線、飛行機)

・建造物(ビル、マンションなど)

これらには必ずといっていいほど鉄鋼が使われてきました。

・体力的に徒歩ではムリな遠いところに行ける

・10階、地上634mなど高いところに上がれる

のは、やはり鉄や鋼のおかげなのです。

また鉄は熱いうちに打てということわざがありますが、特に製鉄所は高温で熱暑、危険も伴うかなり過酷な環境です。

①可動エリアに入る時は、不可動処置を行い、修理札を使用すること

②高所作業、開口部作業では、安全帯を使用すること

③吊り荷の下には入らず、十分な退避距離をとり、手カギを使用すること

④重機やフォークリフト、軌道車には相互確認なしで近づかないこと

⑤酸欠やガス中毒危険エリアでは、検知器を使用すること

⑥電気作業では、電源開放し、検電すること

 

セイジさん、これは?

これはネット上で見つけた新日鐵住金(大分製鐵所)の『全社安全遵守事項6則』です。いかに製鉄所が危険かわかりますよね?

毎日、安全を確保したうえでの業務。頭が下がる思いです。

今回はそんな鉄鋼業界の基本情報、市場規模、主要企業と年収、動向、展望、就職・転職のアドバイスを、製鉄所管理職から聞いたお話も交えお伝えしていきます。

 

業界全体図から見た鉄鋼業界

セイジさん、鉄鋼業界は全体図から見るとどういう立ち位置なのです?

日経業界地図では「素材」に分類されています。

非鉄金属や化学も、ここに分類されていますよね。

ですね。鉄鋼は薄板、厚板などのかたちで各方面に流通していき、ありとあらゆるメーカーのプロダクトに使われています。

もちろん鉄や鋼を必要としているすべての業界とつながりがあるといえ、代表的な周辺業界としては建設、自動車、鉄道などが当てはまります。

 

鉄鋼業界の基本情報

鉄鋼業界は3つに分類できる

鉄鋼業界は大きく

・高炉メーカー

・電炉メーカー

・特殊鋼メーカー

の3つに分けられます。

“鉄鉱石を溶かし石炭で還元して鉄鋼を取り出す「高炉」と、鉄スクラップを原料に製造する「電炉」とがある。ニッケルなどを添加して強度を増すなどの特徴を持たせた「特殊鋼」もある”

日本経済新聞 中国を軸に大型再編進む 鉄鋼業界早わかり 日経業界地図(27)

 

電炉は鉄のリサイクルのようですね。

はい。実は電炉は高炉と比べCO2排出量も少ないのですよ。

製鉄の歴史

製鉄自体の歴史はかなり古く、一説では5、6世紀頃に始まったといわれています。

たしかにそうよね。刀、鎧など昔からあったわけですから…。

鉄鋼業界の歴史

ここでは1900年代、近代設備を有した製鉄所が日本で初操業したところからご紹介いたします。

1901年にできた官営八幡製鉄所が日本初だったと習ったような…。

そうですね。

 

富国強兵(明治時代)

国政が江戸幕府から明治政府に移り、国策として採用されたのが富国強兵です。そしてその施策のひとつとして推進されたのが殖産興業でした。1894年に開戦した日清戦争にも勝利し、清から得た賠償金を基に現在の福岡県北九州市に建てられたのが官営八幡製鉄所だったのです。

鉄鋼業界は明治から始まり興隆を極めたといえますが1945年、日本は第二次世界大戦で敗戦。焼け野原から復興へと歩み出します。その復興のカギが実は鉄鋼でした。

 

傾斜生産方式(1946年)

一度は聞いたことがあると思いますがコトバンクによると、

”第二次世界大戦終結後、日本経済の立て直しのためにとられた重点主義的な生産政策。(中略)政府は石炭・鉄鋼の基幹産業部門に、資材・資金・労働力を重点的に配分し、それを基軸にして、戦後日本における独占資本主義の再生産を軌道にのせようとした“

とあり当時の政府は、まずはあらゆる産業の素材となりえる「鉄」の復活に力を入れたのです。高度経済成長期の各産業の発展ぶり、今の日本の姿を見ても、鉄鋼は復興に大きく貢献したといえます。

しかし実は鉄鋼業界はオイルショック以後、長い暗黒時代に突入。バブル崩壊、リーマン・ショック、東日本大震災などいくつもの苦しい時期を経験してきましたが、その間も連続鋳造などの技術革新の手を緩めることはありませんでした。

そして近年、経済発展著しい中国からの需要が急増し、それに応じるかたちで日本の粗鋼生産量も大きく回復しました。

 

この項での参考文献

【図解・経済】戦後70年・鉄鋼産業の戦後の歩み(2015年5月)

現在の高炉メーカー

現在、合併による再編が進み高炉メーカーは、

・日本製鉄

・JFEホールディングス

・神戸製鋼所

のトップ3社体制になりました。経緯を補足しますと川崎製鉄とNKK(日本鋼管)はJFEホールディングス新日鉄と住友金属は新日鉄住金に。そして日本製鉄と社名変更しています。

日本経済新聞 日本製鉄が日新製鋼を吸収合併 高炉3社時代が到来

 

鉄鋼業界の市場規模の変遷

以下が日経業界地図による数値です。

日経業界地図年度(実年度)世界粗鋼生産量(世界鉄鋼協会)
2017(2015)16億2000万トン
2018(2016)16億2900万トン
2019(2017)16億8900万トン
2020(2018)18億840万トン

参考までに2018年の世界ランキングを見ると、

1位アルセロール・ミタル(ルクセンブルク)
2位宝武鋼鉄集団(中国)
3位日本製鉄(日本)

で、日本製鉄3位と世界上位であることもわかります。

 

鉄鋼業界主要企業と年収一覧(各社有価証券報告書より抜粋)

高炉メーカー

・日本製鉄(世界3位) 6,130,657円

・JFEホールディングス 10,969,000円

・神戸製鋼所 5,696,000円

 

電炉メーカー

・共英製鋼 6,431,296円

・東京製鐵 7,177,000円

 

特殊鋼メーカー

・日立金属 6,713,000円

・大同特殊鋼 7,447,000円

 

もちろん鉄鋼業界に属する企業は、ほかにもあります。

 

鉄鋼業界の動向

現在、鉄鋼業界を牽引しているのは中国です。2018年2位だった宝武鋼鉄集団が2019年、粗鋼生産量で世界首位となっています。

しかし中国はアメリカとの対立、新型コロナウイルスと問題を抱えており、引き続きこの体制が維持されるか、変動するか注視したいところです。

日本経済新聞 中国宝武鋼鉄、手放しで喜べない世界一

 

また新型コロナウイルスは、日本にも暗い影を落としています。

“日本鉄鋼連盟(鉄連)は22日、5月の国内粗鋼生産量が前年同月比31.8%減の591万6千トンだったと発表した。新型コロナウイルスの影響で鋼材需要が冷え込んだ”

日本経済新聞 5月の国内粗鋼生産32%減、09年6月以来の減少率

しかしながら国民生活、市場経済が戻り各産業、景況が活発化すれば、また粗鋼生産量も回復するはずですから、鉄鋼業界は元の活況を取り戻せるはずです。

 

鉄鋼業界の展望(予測)

水素による生産(脱炭素社会)

エコが叫ばれて久しいのですが、鉄鋼業界も例外ではありません。鉄鋼由来のCO2排出量は大きく、それをどうやって減らしていくかが課題といえます。そこで注目されているのが水素ですが、その調達が課題のようです。

“欧州や日本などの鉄鋼業界は製鉄に使う石炭を水素に替える革新技術の開発を競っている。水素なら製鉄時にCO2を排出しないからだ。だが、世界の鉄鋼業が水素を採用するには大量に安い水素を供給できるインフラ整備に多額の投資が必要になる”

日経ESG コロナ後の経済再生は脱炭素で

2019年には神戸製鋼所とアルセロール・ミタルが、水素でCO2排出減を実現できる製鉄技術の共同開発を行う旨、発表しています。

日本経済新聞 神鋼とミタル、水素製鉄プラントを共同で開発

また2020年6月、経団連は提唱するCO2排出量の実質ゼロを目指す「チャレンジ・ゼロ」構想に137社・団体が参加表明、鉄鋼業界は2050年を目途に、非石炭、水素利用製鉄技術の開発を目標に掲げたと発表しています。

時事ドットコムニュース 水素で製鉄、50年めど実用化 「脱炭素宣言」に137社・団体

 

これからも“脱炭素社会”に注目したいところです。

 

 

鉄鋼業界トップ、3社を比較

日本製鉄(世界3位)

日本製鉄世界上位、日本最大手の高炉メーカー企業です。なのに聞き慣れないのは2019年に社名変更したばかりだからです。官営八幡製鉄所からの流れを汲み2020年春、日鉄日新製鋼を吸収、合併しました。

基本情報

売上収益:6兆1779億4700万円(国際会計基準)

事業利益:3369億4100万円(国際会計基準)

社員数:26570名

平均年齢:37.2歳

平均勤続年数:15.1年

共英製鋼

電炉メーカーを代表する企業で、鉄資源のリサイクルを行っています。共英製鋼グループ鉄スクラップ溶解時に発生するアーク熱を利用し完全無害化での廃棄物リサイクルに成功させています。

その技術を活かし環境リサイクル事業も展開。日本の資源再生、環境保全に貢献しています。

基本情報

売上高:2422億5700万円

経常利益:86億4600万円

社員数:725名 連結3200名

平均年齢:39.2歳

平均勤続年数:15.4年

日立金属

特殊鋼メーカーを代表する企業で、「金属材料」「機能部材」の2事業が柱となっています。

金属材料事業では工具鋼・ロール、自動車、航空機の重要部材、電池、半導体、医療機器に使われる金属材料などを。機能部材事業では磁性材料、電線、自動車部品などを取り扱っています。

基本情報

売上収益:8814億200万円

税引前当期損失:406億1400万円

社員数:7022名

平均年齢:43.4歳

平均勤続年数:18.8年

 

参考文献

日本製鉄株式会社第94期有価証券報告書

共英製鋼株式会社第75期有価証券報告書

日立金属株式会社第83期有価証券報告書

 

製鉄所管理職から聞いた話

今回、製鉄所勤務の管理職の方からお話を聞くことができましたので、ご紹介いたします。

 

はじめまして。従業員の大半は工場勤務(高卒)ですが今回、総合職(大卒、技術系・事務系)のお仕事について、一般的なことをお話していきます。

管理職が語る製鉄所のお仕事

技術系は研究開発、品質管理、生産技術など。事務系は総務、人事、経理などです。

新入社員は本社で合同研修を受け、工場で3カ月程度の3交代勤務による研修を経て、各部署に配属されます。本社勤務は稀、大半は製鉄所勤務です。配属先でもOJTを受け、仕事を覚えていきます。

最初は技術系だと生産技術や設備技術。事務系は経理、生産管理(生産・出荷スケジュール管理)に就くことが多いです。2年ごとに資格試験や成果報告の場がセットされ、通常業務と並行し準備します。そのためこの期間、かなりのハードワークになります。

鉄鋼業界への転職(難易度)

採用は新卒一括が中心で、稀に製鉄所事務の募集もありますが、若干名募集でかなり狭き門です(転職しにくい)。会社側としては1、2名の募集に数十名の応募があると、とても対応しきれません。そのためあまり大々的な募集もいたしません。

 

転勤なしの地元採用なら、ハローワークで募集しているそうです。

ハローワーク求人も要チェックですね!

 

正直コネがないと募集情報すら得られません。もし身近に関係者がいれば、鉄鋼業界に興味があるとお伝えするべきです。

製鉄所における命令系統

製鉄所は所長を筆頭に部長、室長(工場長)、管理職(課長)、スタッフで組織構成されています。

部長、室長といった職制とは別に全社員に「資格」が付与されます。給料はその資格によって異なります。また職制と資格はリンクしており、室長に就きたいなら資格○○以上など要件が決まっています。

資格試験は面接・論文で上司の推薦を得て受験します。ここだけの話ですがまじめに頑張れば誰でも合格できるレベルのものです。

真っ当に行けば30歳前後で、横一線的にみな課長クラスに、40歳前後になると選ばれた者が室長に昇進します。

部長は3年くらいで交代。そこから本社役員、子会社出向、海外関連会社出向に分かれます。

中途採用でも40歳前後で課長クラスになれます。しかし室長より上への出世は、よほどの強運と実力が伴っていないと難しいです。

鉄鋼メーカーで出世していく方法

鉄鋼メーカーは大規模な会社が多いです。そのため以下の能力が求められます

・コミュニケーション能力
・環境適応能力
・論理的思考力
・育成能力

コミュニケーション能力は、さまざまな組織に所属する人らと協力しながら仕事を進める力で環境適応能力は、たとえ異動で職場が変わってもスグに仕事を覚えられる力。

論理的思考力は営業、工場、品質管理、経理など自分と立場が違う人たちを、納得したうえで動いてもらえるように説得する力、そして部下を一人前にする育成能力です。

書籍も参考になりますが、これらは一朝一夕でカンタンに身につく能力ではありません。

・相手の仕事に興味を持つ
・知らないことは謙虚に聞く
・納得するまで突き詰める

を繰り返せる環境を作り出せば、必ず身につくでしょう。

そしてキーパーソンと認識されるよう動きます。結果、自然と情報が集まり出世していけます。自分の可能性を「こんなもの」と決めつけず、可能性を楽しく探せる人と私は一緒に働きたいです。

鉄鋼業界の現状

現在、鉄鋼業界(収益状況)はどこも相当厳しいです。2020年度は新型コロナウイルスによるさらなる収益悪化が懸念されます。

各社、生産力削減とリストラを行うと、下請けなどの多くの関連会社や地域経済にも影響を与えますし、設備を一度止めるとなると再稼働に費用と手間を要するため通常、時間をかけてじっくりと取り組むのですが、今回はかつてないスピードで実行されています。

もちろん安価で加工性に優れた鉄自体の需要がなくなることは考えづらく、需要に見合った生産体制が確立すれば、あとは徐々に収益改善すると思われます。

最後に鉄鋼は、ときに高温でかなりの重量物です。そのため常に危険と隣り合わせにあるといえます。男性が多い職場でややパワハラ気質もありますので心身ともに丈夫な人が務まる感じです。

私のお話は以上ですが、鉄鋼業界に興味のある方のご参考になればと思います。

 

ありがとうございました!

ここからは鉄鋼業界を目指す方に向け、管理人セイジが就職、転職のアドバイスをお伝えしていきます。

 

鉄鋼業界への就職のアドバイス

日本製鉄の募集要項を参考にお伝えいたしますと、技術系職種は操業技術、設備技術、品質管理、研究開発、開発設計、技術営業など。事務系職種は企画、営業(国内・海外)、総務、人事、経理、資金、グローバル購買、工程マネジメントなどとなっています。

鉄鋼業界は日本だけの狭い業界ではなく、舞台は海外、世界レベルで広がっています。特に今、力を持っているのは中国で、およそ5割のシェアを有しています。

前出の宝武鋼鉄集団、アルセロール・ミタルのほか、かつて世界一の力を誇っていたアメリカのUSスチール、フランスのバローレック、インドのJSWスチールといった海外大手の存在もしっかりと覚えておくといいです。

もちろん将来的に海外を舞台に活躍したいとお考えなら、ビジネス英語はもちろん中国語など第二外国語も、マスターしておくといいです。

 

鉄鋼業界への転職のアドバイス

先ほどお伝えした製鉄所管理職のお話によると、

・新卒一括採用中心

・大々的に募集しない

とのことでしたので狭き門ですが、中途採用は皆無ではありません。タイミングよく求人情報を得られる環境を自分で生み出す努力はしたいものです。

できれば転職エージェントに登録し、鉄鋼業界に明るい精通したキャリアコンサルタントの支援を受け、情報を受け取れるよう良好な関係を築いておくといいです。

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またハローワークには足を運ばずともインターネットで求人検索もできますから、ぜひ活用されてください。

ハローワーク インターネットサービス

 

まとめ

鉄鋼業界の舞台は世界。日本企業もそのなかで意外と健闘していたことがわかりました!

そんな鉄鋼業界で、内定を勝ち取っていただきたいです!

就職と転職、共通していえることは人生の目的と就こうとしている仕事の方向性が合致していることが重要です。それがミスマッチを防ぐカギで、長続きできるかその明暗を分けます。

人生の目的についてその意味を、これまで考えたことがない方は関連記事で説明していますのでぜひ、併せてお読みいただけますと幸いです。

 

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