- 天下りの仕組み
- 天下りの実態
- 天下りと転職の関係

「天下りという言葉を聞いたことがない」という方はほとんどいないと思います。
天下りには、
① (神や天人などが)天上から地上におりること。 ② 官庁から民間会社へ、または上役から下役へ出される強制的な押し付け・命令。 ③ 高級官僚が退職後、勤務官庁と関連の深い民間会社や団体の高い地位につくこと。 |
三省堂 大辞林 あまくだり
という意味があります。

昔は①、いわゆる天孫降臨ですね。近代になって②③の意味合いができたのでしょう。

私が知るかぎり天下ると、高給・好待遇で迎えられます。まさしくおいしい話です。詳細は後ほど説明いたしますがその陰で、大迷惑を被っている人が多数いることも事実です。
今回はそもそも天下りとは? その仕組み、その違法性に加えその実態や世間の声もお伝えしていきます。
公務員、民間企業、天下りの仕組み
天下りは公務員、民間企業の2ケースが考えられます。
公務員の天下り | 民間企業の天下り |
官公庁→外郭団体など | 親会社→子会社 (中核企業→グループ企業) |

厳密にいえば民間企業のケースは天下りではないのでは? 辞書にも載っていませんし。

たしかに。ただ“上役から下役へ出される強制的な押し付け・命令”である点は同じで民間企業でも「天下り」は広く用いられているのが実情です。
親会社社員が子会社に好待遇で迎えられていることに変わりはありませんので。ここでは民間企業の天下りという表現を用いらせてください^^
まずは公務員の天下りから見ていきます。
公務員、天下りの構図
公務員なかでも国家公務員は採用試験がⅠ種とⅡ種に分かれており、難関試験である国家公務員Ⅰ種に合格した者は官公庁内ではいわゆる「キャリア」と呼ばれます。
キャリアは一度入省すると、経験を積み重ねながら課長級職までは昇進できる仕組みとなっていますが、その先の昇進についてはいわゆる出世競争となります。
多くの組織にあてはまることですが、ピラミッド型で役職が上がっていけばいくほど就けるポストは徐々に減っていきます。当然、事務次官などは数が少なく優秀な方だったとしても、辞令がなければ就くことができないのです。
順当にポストを獲得していければそのままキャリアとして職務をまっとうできるのですが、ポストを獲得していけなかったキャリアは50歳前後で自ら潮時を考え…、いえそうではなく同期入省者から事務次官が誕生すると退職を促されるのが慣例となっています。つまりほかの同期は再就職先の仲介・あっせんを受け、天下りしていくのです。
その後は外郭団体、特殊法人、民間企業などに再就職を果たしていきます。これがいわゆる官僚の天下りです。

ねえセイジさん、外郭団体や特殊法人はなんとなくわかりますけど、どうして民間企業まで出世競争に敗れたといえる国家公務員を迎え入れるの?

もちろんもともと優秀な方ですし、キャリアとして培ってきた業務経験やノウハウは民間企業も自社業績向上のために手に入れたいところです。あともうひとつ官公庁と一定の、利害関係があるケースも十分考えられます。その具体例については後述しますので、そのまま読み進めていただけますと幸いです。
しかし近年では様相が変わり、その慣例も過去のものとなりつつあるようです。

応募認定という制度が新しくできているのですね…。

ここではキャリアの事例を挙げましたが、国家公務員のノンキャリア、地方公務員も退職後、天下りしていきます。
もちろん先述したとおりこれは、民間企業でも同様に見られます。詳細は次項に譲ります。
民間企業、天下りの構図
民間企業もその多くは官公庁と同様のピラミッド組織です。役職が上がっていけばいくほど就けるポストは徐々に減っていきます。親会社の重役に就けなかった人たちが子会社へ出向き、その経営陣もしくは管理職として用意された役職に就くのです。ただしその多くは出向、転籍であり、再就職はレアケースでしょう。
再就職 | 転職 元会社があっせんすることもあるが自ら選び就職する |
出向 | 社命で元会社に在籍したまま就業先に行く |
転籍 | 社命で半ば強制的に元会社から就業先会社に籍を移す |
民間企業の天下りはもちろん昨今、大きな問題となっているリストラに伴う配置転換や雇用調整、定年退職をした社員の生活を守るために継続して雇用できるようにする手段のほか、技術指導を行うため、社員のキャリア形成を図るためなど、その目的は幅広いです。

このように民間企業でも普通に行われていることであれば、公務員でしかもキャリア、官僚になれるくらい優秀な方がどこかに天下るのも特段、問題ないようにも思えますけど…。

しかし公務員の場合、そうはいかない事情があります。それは次章で説明します。
国家公務員法で天下りは規制されている、その違法性について解説
公務員の天下りについては法律で規制されており、国家公務員法第106条の2、3、4には
- 他の職員・元職員の再就職依頼・情報提供など
- 現職職員による利害関係企業などへの求職活動
- 再就職した元職員による元の職場への働きかけ
は禁止とする旨、定められています。それぞれ確認していきましょう。
他の職員・元職員の再就職依頼・情報提供などの禁止
国家公務員法第106条の2には次の要旨の内容が書かれています。
この規定は職員が「他の職員を天下りさせようとする」ことを禁止したものです。
現職職員による利害関係企業などへの求職活動の禁止
次に国家公務員法第106条の3には次の要旨の内容が書かれています。
これは公務員である本人が自ら「天下りをしたい」「天下りさせてくれ」と動くことを禁止する規定です。

利害関係企業とは具体的にはどのような企業のことを指しているのですか?

はい。天下りの仕組みの章でお約束していましたので、お伝えします。現行の国家公務員法では、利害関係にある営利企業等の定義を次のとおり記しています。
- 許認可等を受けて事業を行い、又は行おうとしている
- 補助金等の交付を受けて交付対象事業を行い、又は行おうとしている
- 立入検査、監査若しくは監察を受け、又は受けようとしている
- 不利益処分をする場合の名あて人となる
- 法令の規定に基づく行政指導を現に受けている
- 国等と一定の契約を締結し、又は契約の申込みをしようとしている
- 犯罪の捜査、公訴の提起又は刑の執行を受ける者

えっ? こんなにあるのですね? 正直ビックリです。

許認可、補助金、契約などやはり、そのバックグラウンドは「お金」や「地位」なのでしょう。
再就職した元職員による元の職場への働きかけの禁止
最後に国家公務員法第106条の4には次の要旨の内容が書かれています。
要は口利き、なあなあの関係、癒着してはならないと言いたいのでしょう。
参考:内閣府 再就職等監視委員会 国家公務員法の再就職等規制の概要

ここまで説明してきたとおり、国は天下りだけではなく癒着も、許さないとしています。

ねえセイジさん、ここまでなんとなく理解できましたけど、その実態をできればもう少し詳しく、知りたいです。

わかりました。天下りの実態について次章以降、お伝えしていきます。
公務員(キャリア・官僚)の天下りの実態
公務員の天下りは過去に退職金の二重取り、三重取りが大問題になったことがありました。
例えば公務員を辞め退職金を得たあと外郭団体に天下りし、影響力を持つポストに就き1~2年など短期間で退職。その後またさらに別の外郭団体に就職し影響力を持つポストに就き退職する。つまり外郭団体を次々と渡り歩きその都度、退職金を得ていくというシステムです。
公務員として1回、外郭団体役員として1~2回、これで二重、三重取りになります。

1~2年で辞めたらそのポストが空きますよね? そこにまた誰かが天下ってくるということですか?

鋭いですね。下手すると天下りだけのためにわざわざ用意されたポストかもしれません。
そんなポストに毎年、給与と退職金を無限ループで拠出していることになります。しかもその外郭団体は痛くもかゆくもありません。なぜならそのお金の出どころは私たちが支払った税金だからです。

まさか! そのようなことが本当に許されるのですか? 問題ですよ?

これまで幾度となく、問題視されてきたものの未だに天下りはなくなっていない、税金も使われている。これが実態なのです。それを裏付ける3省庁の天下りの記事をご紹介していきます。
防衛省の天下り
この3社は、
・埋め立て工事設計
・ジュゴンの監視業務
を独占的に請負、防衛省発注の辺野古コンサル業務の全体の6割となる112億円分をJV含め受注していたそうです。
引用:東京新聞 <税を追う>辺野古受注3社へ天下り 防衛省OB、10年で7人
厚生省(現厚生労働省)の天下り
文部科学省の天下り
いずれも近年、報じられたもので、天下りは(減ったかもしれませんが)なくなっていない、国民が納めた税金(過去は年金も)が利用されている実態もおわかりいただけたと思います。

公務員の天下りで
・私たちの税金が使われている
・特定の企業がおいしい思いをしている
・違法な天下りが未だに存続している
ことがわかりました。なんだか残念です。もうひとつ民間企業の天下りの実態はどうなのですか?

民間企業については法律の規制、税金の投入などは基本的にありませんが、天下りの実態は広くお伝えしておきたいところです。
2019年7月27日、ランサーズ上で現役会社員・会社員経験者限定で天下り、出向、再就職の実態について100人の方にアンケートを実施しました。その結果をお伝えしていきます。
民間企業の天下りの実態(アンケート結果と体験談)
6割の方が天下り・出向・再就職してきた人と仕事をしている
これまで在籍していた会社で外部から来た人物が重要ポストに就いたことはありますか? と尋ねたところ
- はい…61人
- いいえ…39人
という結果となり、およそ6割の方が、天下りを目の当たりにしたことがあるといえます。
親会社から子会社への天下りを目の当たりにした方は2割
前問ではいと答えた方に、その人物はどういった方か複数選択可で訊ねたところ、
- エリート国家公務員(官僚やキャリア)…2人
- 国家公務員…2人
- 地方公務員…6人
- 公務員ではないが公的機関の職員が再就職…3人
- 親会社から出向…21人
- 親会社以外の関連会社から出向…7人
- 取引先から再就職…15人
- 取引先以外のお付き合いのある会社から再就職…12人
という結果になりました。ベスト3は、
- 親会社から出向…21人
- 取引先から再就職…15人
- 取引先以外のお付き合いのある会社から再就職…12人
で、親会社から子会社への天下りが2割超でトップとなりました。
天下り・出向・再就職してきた人の評価は分かれた
天下りなどで重要ポストに就かれた方の評価をお願いしたところ、
- 可もなく不可もなく特に何も変わらなかった…35人
- 優秀な方で職場の雰囲気や業績が底上げされた…14人
- 何もできない方で職場の雰囲気を壊され、業績も悪化した…7人
- 無効回答…5人
という結果となり、必ずしも天下りをしてきた方が、仕事ができない、職場を乱す、トラブルを起こす人物ではないこともハッキリしました。
天下り・出向・再就職にまつわるエピソード
最後に天下り・出向・再就職にまつわるエピソードがあればとお願いしたところ、興味深い回答がいくつかありましたので、ピックアップしてお伝えします。
関連会社から社長に就任した方がいらっしゃいました。会社ではこれまで営業出身の方が社長を務める慣習があったのですが、違う部門から社長に就任され会社の雰囲気が変わりました。以前は上下関係がありパワハラもあったと思うのですが排除され、会社の雰囲気はよくなったと思います。 |
特に優秀なスキルを持っている方ではなかったのですが、年の功か人当たりが良い人物で、営業やクレーム処理には長けていました。 |
私は大手企業の数あるグループ会社のひとつに在籍していて、社長は親会社から天下りしてくるのが慣わしとなっています。社員もいろいろなグループ会社を転々とするため特別に何か思うことはありません。ハッキリとしたスローガンがあるわけではないのですがグループ化し大きくなると、別の会社だからそれぞれ勝手によろしくやってくれというよりも、ファミリー感とでもいうのでしょうか。一致団結して同じグループ企業同士、仲良くやっていこうといった風潮を感じます。 |
最重要取引先から定年退職された方が入ってきました。かといって職場の雰囲気は変わらず。可もなく不可もなくでした。この持ちつ持たれつの関係が日本らしいなと思いました。 |
かつて同族会社に在籍していました。業績が頭打ちとなり、てこ入れのため提携取引先から執行部取締役という(わけのわからない)肩書きで入社してきた人がいました。しかも出向ではなく再就職。体よく追い出されたらしく仕事がまったくできない方でした。貸借対照表、損益計算書、キャッシュフローの知識も怪しく経営は混乱し周囲から反感を買いました。「ついて行けない」と社員のほとんどが退社しました。 |
何もできない、力もない、なのになんで? と思いましたが子会社の社員である私たちの意見は何ひとつ通りませんでした。結局会社は、毎月のように赤字でした。 |
定年退職後に天下りしてきた方は、仕事はできないのに、かなり大きな態度で在籍していました。もちろん周りから疎まれていました。 |

こうしてみると公務員の天下りは問題ありですけど、民間企業(とくに親会社)の天下りは問題なさそうに思えます。でもタイトルで「転職者を生み出している」とセイジさんは、親会社から子会社への天下りを問題視しているのですよね? それはどうしてです?

ナイスアシスト! かつて本当にお世話になっていた転職エージェントのキャリアアドバイザーさんから数年前に聞いた、民間企業の天下りの実態についてお伝えしていきましょうかね! もう少しお付き合いください!
管理人が実際に聞いた親会社から関連会社への天下り
不景気のあおり、退職強制はなかったものの…
当時、不景気のあおりを受け、数年間、赤字という状態が続いていた某大手家電メーカーの話です。メーカーの本丸といえる本社の固定費を削減させようと人員を大幅に減らしにかかりました。
その方法は強制退職でも希望退職者募集でもなく、数百ある子会社のうちのどこかに転籍させてしまうというものでした。ハッキリ言いますが転籍すると、もう二度と本丸、本社に戻ることはほぼできなくなります。
対象となった方は辞令が出るとやはり肩を落としがっかりされ、本社を去り渋々と子会社へと異動されていきました。このようなことが実際に行われていたそうです。
しかし最も迷惑を被ったのは、元からその子会社にいた人たちだったそうです! こんなに理不尽かつ屈辱的なことがあるのでしょうか?

理不尽、屈辱的、どういうことです?

子会社は本丸に気を遣い、本社からの天下りを優先し仕事を割り振ったのです。
元からいた社員らはどう贔屓目に見てもスキルや経験が自分たちよりも劣る人たちに仕事だけではなく、そのポジションまで取られたそうです。
ポジションを奪われた人たちはどうなったのか?
当時、前出のキャリアアドバイザーは「今現在、実際にそういう目に遭い、立場を奪われた人らがたくさん、相談に来ている」と話していました。

なんともいえませんが、とにかく悔しい話ですね。

はい。当時の私も憤りました。しかしこの話には続きがあり、ずっと子会社に在籍し、仕事をされてきた方は実務に長けている人が多かったそうです。
ポジションを奪われても子会社社員は引く手あまた
親会社は例えば、車のパーツ部品を「特定の部位だけ」取り付けるような仕事が多く、ひとつの仕事しか任されたことがない、それしかできない人が多いのです。しかし子会社は幅広くさまざまな業務を任され、いろいろとこなしてきている方が多く一定の経験があれば、どこからでもお声がかかるそうです。
キャリアアドバイザーいわく、転職に関しては「どこで働いてきたか」も見られますが、スキルをいかにして積み上げてきたかが最重要です。幅広い業務経歴をお持ちであれば、いろいろな会社で通用する汎用スキルが期待でき、また実際に活躍できる可能性が高いことから、今後重宝されていくでしょう。
要するに再就職先は、意外とカンタンに見つかるのではとの展望でした。

というわけで、案ずるには及ばないそうでしたが、それでもこれまで何かあったら守ってくれるものと信じ働いてきた会社から、当たり前のように自分の仕事や立場を奪われたという経験はやはり、あまり気分の良いものではないでしょう。ときに人間不信になるのではと心配になりました。
まとめ:天下りが次々と転職者を生み出している
ここまで見てきたとおり、官公庁/地方自治体/公的機関/親会社/関連会社/取引先/お付き合いのある会社など外部から誰かが来て重要ポストに就くことが現実にあり、これまでそこにいた方が仕事や立場を追われ、転職することがあるのです。
力関係で子会社は親会社には頭が上がらないのかもしれませんが、どのような事情や背景があったとしても、元からいる社員を大事にしていただきたいです。具体的には既存社員から仕事や立場を奪わないでほしいのです。

それがなくなればもう現場で二度と「迷惑千万な天下り」などと思う方もいなくなるでしょう。
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