今回は、2017年の最新版として繊維業界(天然繊維)の動向と転職・就職に役立つアドバイスを紹介していきたいと思います。
繊維業界の実情について説明をしていく前に、まずは、そもそも繊維とは? というお話からしていきたいと思います。
和歌山県工業技術センターがまとめた書籍があるのですが、その本に繊維は「繊維製品を構成している最小の細長い素材」であると書かれています。そして、繊維は、
- 天然繊維
- 化学繊維(合成繊維)
の2つに大きく分けられています。
ここでは、天然繊維系の企業に絞り、業界情報をお伝えいたします。それでは、基本情報からみていきます。
天然繊維業界の基本情報
天然繊維とは?
天然繊維は、衣料品メーカー「ワールド」による特設ページを参考に説明をいたしますと、植物、動物、鉱物由来の繊維のことをいいます。それぞれ、
植物繊維
綿(コットン)、麻、いぐさ、麦わらなど
動物繊維
羊毛・アンゴラ・カシミヤなどの毛(ウール)、絹(シルク)、ダウン、フェザーなどの羽毛
鉱物繊維
石綿、アスベスト
を指しています。
天然繊維業界の歴史
原始時代の文献や資料などを見たことがあると思いますが、かなり昔から、男女、何らかの衣装を身にまとって生活をしていました。
前出の書籍にも1~2万年前から植物・動物由来の繊維を利用した衣装が使用されていて、天然繊維業界の歴史はとても長い旨が書かれています。
参考文献
現場で役立つ プラスチック・繊維材料のきほん 和歌山県工業技術センター編 コロナ社
学生時代、社会科分野で習ったと思うのですが、天然繊維業界がとくに発達したのは、明治時代の「産業革命期」だといえます。
当時の明治政府は模範工場をつくり、製糸業・紡績業などの機械化を図りました。1880年ごろから紡績業を営む大きな民間会社がいくつもできています。日清戦争ののち、当時の中国・朝鮮に対する貿易が有利となった背景から、紡績業は、さらに発達し、織物業も電力機械化が進み綿織物が輸出されるようになったといわれています。
- 産業革命が進むにつれインドや中国の綿花を輸入するようになった
- 小作農の娘は家計を支えるために寄宿舎に入って製糸工場や紡績工場で働いた
という旨の記載もあるほど、日本の産業発展に天然繊維業界は寄与していたといえます。
そんな繊維業界全体の市場規模は、経済産業省製造産業局⽣活製品課の発出している「繊維産業の現状と課題」という資料によると、出荷額が3.3兆円(2014年)で、そのうち外⾐・シャツ、下着、その他の繊維製品製造業等が57%、織物業が10%、製⽷業・紡績業・撚⽷業が5%の規模となっています。
天然繊維業界主要企業9社(後述)の社員の状況ですが、平均年齢は44歳、平均勤続年数は19.5年、平均年収は608万円となっています。
天然繊維業界 ~今後の展望~
昨年お伝えしていた、天然繊維業界の今後の動向ポイントは、『国内回帰』の流れと『高次の加工製品』でした。
2017年版では、各社、収益を確保するため、天然繊維だけではなく、開発・生産に取り組んでいる『炭素繊維』について、より詳しくお伝えしておきたいと思いました。
炭素繊維
炭素繊維は、化学繊維(無機繊維)の一種。炭素からなる繊維で、軽くて強いのが特長です。炭素繊維には、
- ポリアクリロニトリル(PAN)繊維
- ピッチ繊維
があり、市販されている炭素繊維の9割以上は「性能」「使いやすさ」「コスト」などのバランスがピッチ繊維よりも優れているPAN系炭素繊維となっています。
炭素繊維が軽くて強いうえ、弾性率に優れている、疲労しない、錆びないことから、金属材料ととってかわる軽い材料として注目されています。現実にジェット旅客機の胴体・主翼・尾翼などの構造材料に炭素繊維複合材料が使われています。
天然繊維業界の主要企業及び年収一覧(各社有価証券報告書より抜粋)
各社の年収一覧
- ダイワボウホールディングス 866万円
- 日清紡ホールディングス 770万円
- 東洋紡 634万円
- 倉敷紡績 540万円
- 日本毛織 515万円
- 日東紡績 699万円
- シキボウ 469万円
- 富士紡ホールディングス 572万円
- オーミケンシ 408万円
天然繊維業界主要企業9社(上記)の平均年収は608万円でした。詳細は、下図を参照ください。
天然繊維業界を代表する企業の基本情報
ダイワボウホールディングス
紡績の名門として知られるダイワボウは「大和紡績」「ダイワボウ情報システム」「オーエム製作所」を主軸とした会社で、情報通信機器に強く、その販売収益によって支えられています。
同社サイトによると、現在、衛生材・建材分野の需要に対応し、国内生産ライン増強、アライアンス戦略を進め、インドネシア生産拠点を活用したアジア地域での事業拡大を目指しています。また、衣料製品部門は産学連携等による機能性素材の開発・販売を進め、大和紡績香港有限公司を軸に海外販売を収益基盤とし事業拡大中です。
同社の野上社長は、現在、日本紡績協会 会長を務めています。
- 売上高:6178億1100万円
- 経常利益:125億7200万円
- 社員数:3002名(繊維事業)
- 平均年齢:49.29歳
- 平均勤続年数:24.86年
- 平均年収:8,660,000円
日清紡ホールディングス
日清紡は、ブレーキ摩擦材に強みがあり、ドラムブレーキの生産高は世界トップとなっています。2017年5月には日本無線を完全子会社にすると発表しています。
繊維事業では、「環境」「健康・快適」をコンセプトに、環境負荷減と健康で快適な暮らしの実現に役立つ新技術・製品の開発に注力しており、ノーアイロンシャツ、オイコスなどを製造しています。
- 売上高:5272億7400万円
- 経常利益:105億5600万円
- 社員数:3466名(繊維)
- 平均年齢:45.1歳
- 平均勤続年数:21.5年
- 平均年収:7,700,804円
東洋紡
東洋紡は、天然繊維はもちろん、合成繊維も生産している総合繊維メーカーですが、化成品部門、繊維・機能材部門、ヘルスケア部門と幅広い事業領域を持つ高機能製品メーカーです。
タッチパネル用PETフィルム、クッション材、逆浸透膜など、さまざまな用途に対応した製品を生み出しています。
- 売上高:3294億8700万円
- 経常利益:206億5000万円
- 社員数:3952名(繊維・商事事業)
- 平均年齢:40.7歳
- 平均勤続年数:17.4年
- 平均年収:6,341,846円
参考文献
- ダイワボウホールディングス株式会社第106期有価証券報告書
- 日清紡ホールディングス株式会社第174期有価証券報告書
- 東洋紡株式会社第159期有価証券報告書
- 会社四季報業界地図 2017年版 東洋経済新報社
- 日経業界地図 2018年版 日本経済新聞出版社
転職・就職へのアドバイス
日本の天然繊維業界は、厳しい状況にあります。
今後も、ある程度、天然繊維の需要は見込めると考えますが、各社、収益確保のため、天然繊維以外の繊維の開発・生産も並行していくでしょう。
倉敷紡績の採用情報を基にお伝えしますと、天然繊維系の企業で働く場合、
- 繊維事業部
- 化成品事業部
- 環境メカトロニクス事業部
- エレクトロニクス分野
- エンジニアリング分野
- バイオメディカル分野
といったフィールドが用意されているようです。職種別にみますと、
- 生産技術
- 生産管理
- システム開発
- システム管理
- セールスエンジニア
- 設備技術
- 設計施工管理(プラントエンジニア)
- 商品開発
- 基礎研究
- 研究開発
- 営業、企画、マーケティング、資材、法務、人事等
と文系・理系どちらの出身者も天然繊維業界で活躍できるチャンスが秘められています。
しかしながら、昨年のアドバイスと重複しますが、繊維業界においては天然繊維よりも炭素繊維やアラミド繊維に注目が集まっています。
そのなかで、どうして天然繊維に携わることを一生の仕事として選んだのか? 確固たる理由を面接などで答えられるようにしておかなければなりません。
また、転職活動の軸をブレさせないようにするためにも、はじめに動機や理由は固めておくほうがいいでしょう。
おすすめの転職サイト・エージェントは以下で詳しく説明していますので、併せてご確認頂けますと幸いです。
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